苦戦続くBMW Mハイブリッド V8が2戦目で得た自信。三味線は「一目瞭然でバレる」とレネ・ラスト

 アウディのワークスドライバー時代の2015年にはR18 e-tronクワトロを駆り、ル・マンで総合7位の経験を持つレネ・ラスト。BMW Mチーム WRTから2024年のWEC世界耐久選手権にフル参戦しているラストは今年、9年ぶりにル・マンのトップカテゴリーへと復帰する。

 2023年にIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権にデビュー、2024年はWECにも進出したBMW Mハイブリッド V8だが、これまでのところ苦戦が続いている。その様子を窺うべく、ラストに話を聞いた。

■雨を発端に初ポディウムを逃す

──BMWのLMDhプロジェクトは、本社役員会議でゴーサインが出てから準備期間が非常に短かったために、昨年はIMSAのみにレース活動を集中しました。今季はその経験を元にWECへ参戦となりましたが、カタールの開幕戦から第3戦のスパまでは、必ずしもあなた達が望む結果とはなっていません。要因はどこにあるのでしょう?レネ・ラスト:WECへ参戦するにあたり、冬季にテストを重ね、マシンやWECのレギュレーションやチームフォーメーション等の理解を深める努力を重ねてきてはいるが、それは必ずしも充分ではなかったのかもしれない。

 BMWのチームを担っているWRTは、昨年までLMP2でWECやル・マンに参戦していたとはいえ、新規のエンジニアやメカニックたちが多く採用されているので、チームを作り上げていくという意味ではまだ発展途中だと言える。テストやレースを重ねる度に、互いに学び親交を深めて、互いの距離は縮まってきていると感じている。カタールからイモラではレースフォーマットとしては随分と改善できたと思うが、まだ少し時間は必要だろう。

──イモラでは最後の2時間の降雨までは、あなたの駆る20号車BMWはトップのポルシェに次いで2番手に着けており、あのまま順調に進めばWECでのポディウムを狙えるポジションにいましたね。ラスト:そう、あの雨までは充分に手応えを感じて走っていたし、フィーリングも良かった。残念ながら、あの雨のカオスでペースや戦略が乱れてしまってせっかくの初ポディウムのチャンスを失ってしまったものの、あのイモラでの決勝レースでチームには大きな自信につながったと思う。フェラーリやポルシェはひとつ上をいく感じで非常に強いポテンシャルを見せるし、キャデラックはBMWよりトップスピードに長けている。BMWにとっては、早急にさまざまな点での改良が必要だ。

WEC第2戦イモラで6位入賞を果たした20号車BMW Mハイブリッド V8(BMW Mチーム WRT)
BMWワークスドライバーのレネ・ラスト

■BMWにとって「BoPはさほど大きなテーマではない」

──あなたもアウディでドライブしていたLMP1時代にはなかったBoP(性能調整)がハイパーカークラスには設けられました。世界各国で開催されているGT3レースのBoPについてはかなりオープンに話されているのに、WECのハイパーカークラスではBoPについては口を閉ざす関係者やチームもあり、少々不思議な光景でもあります。たとえばアルピーヌではドライバーにBoPの件を質問することは一切禁じられていますが、あなた自身はBoPについてドライバーの立場でどんな考えを持っていますか?ラスト:BoPに関しての質問をNGにすることはないが、正直に言って、僕自身もBoPについて述べることはあまり好んではいない。その理由に、レギュレーションとしてBoPが決められていること、それも今年はセンサーシステムを採用したことで、FIAが各ドライバーのすべての走行記録を把握していて、データを見れば誰がどう走ったのかは一目瞭然だし、たとえ三味線を弾こうとしてわざとラインを外して走ったとしても、FIAのテクニカルデリゲートにはデータを見れば一目瞭然で不正はバレる。

 ドライバーとして、チームとしてはFIAが出したBoPに従う他はないし、センサーシステムによって公平に計測されていると考えている。僕らドライバーの仕事は、いかなるBoP下によっても自分のベストを尽くすのみ。ある意味、チームの中ではドライバーの役割は一番カンタンな仕事かもしれない。用意されたマシンに乗り、ミスなく速く走るだけが僕らに与えられた課題だと言っても過言ではないが、その他の重要な仕事はすべてチームの手に掛かっているからね。

 そう思わせるくらいに、チームが抱えている仕事はとんでもなく重要で責任が重い。BMWやWRTとしては、BoPに関してはさほど大きなテーマではなく、それよりも他に改良すべき点が多々あるので、そちらの方に手が掛かり、忙しいと言える。

 これだけ大きなフィールドに成長したハイパーカークラスの戦いを、ファンも我々出場者も非常に喜んでいるだけに、すべてのチーム、すべてのマシンに勝つチャンスが与えられ、迫力ある熱いバトルで選手権を競うことに、このWECの価値があるのだと思っている。

ル・マン前哨戦の第3戦スパでは、15号車が11位、20号車が13位でレースを終えたBMW Mハイブリッド V8

■DTMとの日程重複でプライベートジェットをチャーター

──今季最大の舞台であるル・マンを目前に控えていますが、ル・マン用のテストは予定しているのでしょうか?ラスト:僕にはテストの予定はないので、スパの次にハイパーカーをドライブするのはル・マンのテストデーになる。今季はWECとDTMに同時参戦しているので、ル・マンを迎えるまでのこの1カ月ほどの期間にはDTMのテストの予定が2~3回ある上に、DTMのラウジッツリンク戦もあるので、ル・マン用のテストに参加する時間がない。もしかしたらWRTでテストが予定されているのかもしれないが、僕は除外されていると思う。同様に、DTMにも出場するシェルドン・ファン・デル・リンデとマルコ・ウィットマンも同じスケジュールだ。

──それにしても、WECとDTM、テストと毎週のように飛行機に乗ったり、長距離を自走してあらゆるサーキットへ向かっていますが、日頃から鍛えているとはいえ、かなり体力的にも精神的にも疲労が蓄積されませんか? また、今季はフォーミュラEが減ったとはいえ、LMDhとGT3マシンを交互に毎週のように乗り換えていますね。ラスト:違うカテゴリーのマシンを乗り換えるのは、さほど大変ではなく、もうそんな生活を15年以上もしているので問題はない。

 ただ、ル・マンのテストデーの週末の土曜日には、DTMのザンドフォールト戦のレース1が開催されるのだが、レース終了後にアムステルダムからル・マンへ飛んで、日曜日の朝にル・マンのテストをこなしたあとすぐにアムステルダムへ飛び、DTMの日曜日のレースを走るという、なかなかハードなスケジュールで、この日ばかりはGT3マシンとLMDhの乗り換えは結構キツイのではないかと予想している。午前中にはフランスでLMDh、午後はオランダでGT3を駆りレースをしているなんて、ちょっとクレイジーだ。すぐに適応できるとは思うけれど、ちょっと難しいとも思っている。

 僕と同様にDTMとル・マンのハイパーカーへ参戦するマルコ、シェルドン、そしてミルコ・ボルトロッティ、ジャック・エイトケンと一緒にプライベートジェットをチャーターしたので、一緒に行動してDTMとル・マンの両方に迷惑が掛からないようにする予定だ。

 体力的や精神的にも意外と大丈夫だ。フォーミュラEの時は世界各国を転戦するので、時差も大きいし、飛行時間も長いので疲労度は高かったが、DTMはヨーロッパ内の開催で、WECの開幕戦はヨーロッパのシーズンオフだったのと、ヨーロッパとの時差は少ないので平気だった。

 ル・マン以降の海外ラウンドは遠征が続くけれど、これも長年のレーシングドライバー生活を通して、自身のコンディションの整え方を心得ているので体力的にも問題はない。プロのレーシングドライバーという職業を選んだからには、それらがすべて仕事に含まれているのだから、自身の経験をもって解決している。

シューベルト・モータースポーツから2024年DTMに参戦するレネ・ラスト
BMWが2024年のル・マン24時間レースに投入する20号車BMW Mハイブリッド V8の特別カラーリング

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