ファンの熱量にチャレンジ精神で応える エイベックス流“ワクワクするお店”のつくりかた

東京スカイツリーのふもとの商業施設「東京ソラマチ」に、“総合エンタメグッズ・オフィシャルショップ”と銘打つ「ツリービレッジ」がある。2012年のスカイツリー開業とともにオープンしたツリービレッジは今年で12年を迎え、現在では2号店・3号店となる大阪・博多店と、さらにECサイトも展開している。エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社(以下、AMC)が手がけているこの事業は、自社以外のIPも取り扱う小売業という点で、グループのなかでも稀有な存在と言える。今回はそんなツリービレッジを支える木島宏正、中島聖乃、水戸保奈美の3名に話を聞いた。そこから、ひとつひとつのIPとファンとが“情熱”で結びつく店舗戦略が見えてくる。

未知の領域を切り拓くチャレンジだらけのスタート

木島「そもそもレコード会社が小売業に乗り出していくということ自体が非常に珍しい事でしたし、チャレンジングだったと思います」

ツリービレッジの立ち上げについて、そう語る木島の入社はいまからちょうど10年前。エンタメ系の小売業に携わっていたという前職時代にこの事業の立ち上げに関わり、やがてその経験を活かしてエイベックスに入社し現職に至る。

木島「2012年にスカイツリーとソラマチが開業し、新しい電波塔であるスカイツリーのふもとにテレビ局の公式ショップをつくる、ということで始まったのがツリービレッジです。たとえば東京駅などには各局の直営店舗がありますが、ツリービレッジは民放5局のアイテムを扱う店舗としてスタートしたので、各局に対して中立の立場でいられて且つエンタメにも強いエイベックスが運営に携わることになりました」

それを機に当時社内に新たな部署が設けられることになった。自社のIP以外も積極的に取り扱っていくリアルな店舗の運営——エイベックスとして未知の領域に踏み込み、試行錯誤を重ねながらさまざまなチャレンジが現在進行形で続いている。

社内に専門的なノウハウが蓄積されていない状態からのスタート。「最初の頃は本当に毎日困難の連続だった」と今では笑って振り返る木島を中心に、これまで12年間、チームはより魅力的な店づくりに打ち込んできた。

店舗とファンの熱量が場を豊かにしていく

学生時代からエンタメビジネスを学び、入社後は自社ECの運営に携わってきた水戸は、その経験を活かし現在はツリービレッジの催事企画などに取り組んでいる。

水戸「当初のツリービレッジはテレビ番組の関連商品のみを扱っていましたが、現在はアーティストやVTuber、ゲームなど様々なジャンルのアイテムを扱っています。近年ではインバウンドのお客様も多く、国籍問わず、興味関心が多様なお客様に楽しんでいただいています」

多様なお客様が、それぞれに興味を持って訪れる場所であるツリービレッジのミッションは、“お客様にワクワクする時間をお届けする”ということ。グッズが買えるだけではなく、飲食ができたり、記念写真が撮れたり、「半日楽しんでもらえるお店」を目指して日々運営している。ショッピングだけでない、それ以上の体験を届けたい。そんなツリービレッジの方針が強固になったのは、「コラボカフェ」のスタートがきっかけだったという。

毎月さまざまなIPとコラボしたフードメニューを提供するツリービレッジのコラボカフェは、固定座席制ではなく施設内を思い思いに楽しみながらフードやドリンクを味わえるのも特徴のひとつ。来店する多様なファンたちが過ごす時間は買い物を通して、特別な体験として心に残る。

(C)2016 COVER Corp.

木島「大きなチャレンジでもあり、ツリービレッジのターニングポイントでもあったのが、2015年に始めたコラボカフェでした。それまでになくたくさんのお客様に来ていただいて、我々に求められているのはこれなのだと確信しました。開店前の朝8時半に1,500人を超える行列ができたこともあり、ファンの熱量というものを目の当たりにして身の引き締まる思いでした」

このツリービレッジ事業に興味を持ち「立候補して」異動してきたという中島も、店頭で感じるファンの熱量にはいつも背中を押されている。

中島「それぞれ半年くらい前から準備を始めながら、毎月コラボカフェとポップアップストアをひとつずつ展開していますが、コラボレーションの情報解禁をするたびにいつも反響があるのがとても嬉しいです」

ファンの熱量に応え続けることで、信頼を積み上げていく

中島は、VTuberホロライブとのコラボ事例を振り返る

中島「去年、とても好評を博した企画のひとつがホロライブのポップアップとコラボカフェです。ホロライブとのコラボは3回目で、こうした催事は、回を重ねるにつれて反響は薄まってしまいがちなのですが、3回目もきっちり盛り上がっていました。それは、もちろん権利元との信頼関係の上に成り立つ企画の面白さもありますが、ファンのみなさんがツリービレッジの提供する付加価値を認めてくださり、思いっきり楽しんでくださっているということだと感じています」

ファンの熱量に応えるのは、期待に沿うコンテンツを生み出し運営していくスタッフひとりひとりの熱量であり、互いの熱量が呼応することでツリービレッジという場の価値はさらに豊かに育まれていく。もちろん、寄せられる期待に沿い続けることは、ツリービレッジにとって常に新たなチャレンジを続けることでもある。

しかしそうした豊かな循環は、2020年春、コロナ禍への突入によって大きな転機を迎える。

作品に対する深い理解と愛情苦しかったコロナ禍の先に見たお客様の笑顔

コロナ禍の外出自粛によって、ツリービレッジの店舗からもやはり客足は遠のいてしまう。時期によってはツリービレッジのある東京ソラマチ自体が閉館となることもあり、事態は困窮を極めた。

中島「ソラマチが本当に空っぽになってしまったんです。お店を開けていても、人が誰も歩いていないような状態。そこから我々もECを本格的に取り組んでいくことになりました。その当時の我々はECに不慣れなメンバーが多く、社内の様々な部署に教えを請いながら、少しずつできるようになっていったという実感があります」

コロナ禍によってECを手探りでスタートすることになった彼らではあるが、そもそも「自社以外のIPも扱う小売業」という未開の地を自らの手で切り拓いてきた経験と自負もある。彼らはこのチャレンジも前向きに進めていった。

中島「直近のデータでは、実店舗よりもECの売り上げが上回ったという催事も出てきました。あのときに撒いた種が芽を出し始めたのだと感じています」

木島「そういった新たなチャレンジや大きな変化ももちろんですが、我々の場合は日々の細かな変化も大切だと感じています。トレンドは変わっていくものなので、それに合わせて日々新しいことに少しずつ挑戦し、徐々に変化しながらここまできたという印象があります」

いわゆる定石をただ繰り返していればいいというわけではなく、柔軟に変化し続けることが肝要だと身をもって学んできた。しかし一方で、コロナ禍を振り返ると、固く貫いて良かったことも確かにあったと木島は語る。

木島「ソラマチ自体が休館になることはありましたが、営業できる日には我々は1日も休まなかったんです。営業準備を整えても無駄になるリスクは常にあり、他の施設やお店はこの時期に諦めてしまったところも多かったのですが、ツリービレッジは、メンバー全員が奮起して企画したポップアップやコラボカフェは全て実施しました。我々も苦しかったですが、メーカーやライセンサーも同じように苦しい時期でしたから、彼らパートナーのためにもしっかりお店を開けて少しでも売上を作っていこうと考えました。

やがて、コロナの終息期から売り上げがV字回復し、社内でも「なぜそんなに?」と訊かれることが多くなりました。街に客足が戻ってきたという面ももちろんありますが、コロナ禍という今まで経験したことがない苦しい時期にIP権利元であるパートナーと共に踏ん張り積み上げてきた信頼があるからこそ、今も人気のIPを優先的に取り扱わせていただいております。この関係値の大きさも要因だと思っています」

コロナ禍で築いたこの信頼がいまツリービレッジの進む先を明るく照らしている。現場には活気が戻り、再びたくさんのお客様が訪れてきた。その喜びはひとしおだ。

中島「忙しくていつもバタバタではあるのですが、お客様が楽しみにして列をつくってくれたり、商品を買ってくれたりという様子が目の前でダイレクトに感じられて、励みになります。それはやはりこの部署ならではのことだと思います」

水戸「次々と新しい催事が始まるので、その準備を進め続けるのが日常です。たとえばカフェのメニューを検討したり、店頭のPOPをつくったりするときも、コラボ作品と親和性のあるものにするために、作品について勉強し直して魅力をより深く理解しておくことは欠かせません。そうして細やかなところまで気を配るのは大変ではありますが、実際にお客様に喜んでいただけているのを見ると、やってよかったと心から思えます」

通常の営業に加えて毎月のコラボカフェとポップアップのローンチが数週単位の間隔で続く。ひとつひとつの作品世界に思い入れながらも、常にその先の催事の実施も迫ってくる。そういったハードな日々の糧になるのはやはり、お客様の笑顔というシンプルでかけがえのないものだ。その笑顔に毎日の現場で触れることができる——それが職場としてのツリービレッジの大きな魅力とも言えそうだ。

自分たちにしかできないことチャレンジを続けられる土壌と原動力

ツリービレッジの未来について、3人はどう見ているのだろう。

木島「コロナ禍が明けたいま、全国の商業施設ではエンタメという括りでフロアを構成していく動きが増えています。そのなかで我々に出店の打診をくださる施設も増えていて、ツリービレッジの多店舗化と全国的な認知向上を目指していきたいと考えています」

また、コロナ禍以降、ファン同士がコミュニケーションを取れるリアルな場が求められているのを感じるという。お客様が店舗で過ごす時間を買い物以上の体験に高めることの重要性は、さらに色濃くなっている。コラボカフェやポップアップに加えて、参加者が施設内にあるヒントをたどりクリアする謎解きイベントや、店内を夏祭りに見立てたファミリー向けイベントなど、趣向を凝らした施策は今後もより発展させていきたい。

水戸「店頭では、お客様の熱量や興味関心の傾向をダイレクトに把握できます。それを最大限に活かしながら、各IPの個性や魅力がしっかり落とし込まれた企画をつくり上げていきたいです」

その意味で店舗は、ファンの期待とそれに応えるスタッフひとりひとりの情熱が交差し顕在化する場所だ。双方が互いにこの店の魅力を醸成し、他店との差別化や個性を育んでいく。そのなかで、AMCとしての強みはどんなところにあるのか。

木島「エイベックスだからこそできること、我々にしかできないことというのはたくさんあります。またそれを存分に出していくのが我々の店の特徴でもあると思っています。直近ではたとえば、BMSGのオフィシャルショップや東方神起とのコラボ企画などは、エイベックスのグループシナジーあってこそ実現できるものです」

もちろんそれは、これまでツリービレッジが積み上げてきた実績と信頼があってのことだとも考えているからこそ、傾ける情熱とより良いものを目指すチャレンジ精神は決して忘れない。

木島「エイベックスはやっぱりチャレンジを認めてくれる会社なんですよね。ツリービレッジを始めること自体、相当なチャレンジだったと思いますし、こんなふうに変えていきたい、こんなことをやっていきたい、という思いに対してスピード感を持って承認してくれる。とりあえずやってみろ、という精神で常に後押しをしてくれる会社だと思っています。大阪店と博多店の出店に関しても、実は決断をしたのはまだコロナ禍の最中でした。終息の希望は見えてきていたものの、まだ踏みとどまっていた会社は多かった。しかしそんなときに我々は、今こそ逆転の発想でチャレンジしろ、と背中を押してもらうことができたからこそ、いまの結果に繋がっているのだと思っています」

ファンの情熱とスタッフの熱意、そしてエイベックスらしい精神性を原動力に、これからもお客様ひとりひとりの笑顔を目指して、ツリービレッジのチャレンジは続いていく。

(写真左から)
エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社
EC&Tree; villageグループ Tree villageユニット
マネージャー
木島 宏正

エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社
EC&Tree; villageグループ Tree villageユニット
水戸 保奈美

エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ株式会社
EC&Tree; villageグループ Tree villageユニット
チーフプロデューサー
中島 聖乃

© エイベックス株式会社