日本企業の持つ先端技術が、経済への「トリクルダウン」となるのに“必要なこと”は…

今回は日本の吸引力と経済へのトリクルダウンというテーマを取り上げたいと思います。

コロナ禍から一気に普及し始めたデジタル社会とその主要産業のひとつとして半導体の需要が急増し、需給が逼迫する事態もありました。そして、今は生成AIをはじめとした、人工知能活用によるビジネス変革が起きようとしています。

そのような中、日本には半導体産業で様々な優れたリソース(機械、材料、技術、企業、人)が蓄積されており、そのリソースへの投資に対する公的な補助金支援も相まって、海外からの投資機会が増加傾向にあります。(円安の影響も多分にあるとは思いますが)。

そして、この半導体の産業構造ピラミッドには無数の企業が関わり成立しています。そのような企業の活躍と経済への波及効果を期待してみたいと思います。

トリクルダウンとは学術的には『富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる』という経済理論です。

この理論には様々な意見があるようです。効果に対する疑問や、慎重な検証、そもそも現代の複雑な経済構造には馴染まないのではということです。このような議論はあるものの、平たく言うと『日本経済への波及効果はあるよね』ということです。

期待する事例をいくつか取り上げると、半導体は上述した通りですが、クリーンエネルギーの観点では水素・アンモニア等の貯留タンクやCO2フリーのガスタービンの開発、航空機・宇宙の観点では同様に高効率、軽量、極限状態におけるエンジン開発、EUタクソノミーでグリーン認定された原子力の観点では、過去の世界での事故の経験も踏まえながら、様々な時間軸でのロードマップとそれに伴う技術開発、安全性と高効率性により期待が高まる核融合炉、データストレージの観点では、データセンターへの海外からの投資拡大があります。

このように、あらゆる分野でバリューチェーン(ビジネスの上流から下流、水平での繋がり等)全体、または、各階層で強みを発揮できる日本企業が多く存在します。

実際に、コロナ前5年程度とコロナ以降4年程度を政府統計から俯瞰すると、企業の生産活動に好影響の兆しを垣間見ることができます。

その統計はものづくりにおける好不況の指標としての稼働率についてです。上流(わかり易く言いますと材料や部品など小さくて細かくて技術の結晶)の企業においては、これまでと違った変化を感じます。稼働率の絶対値でみるとコロナ前の方が高い指数ですが、生産能力が逓減することによる稼働率の上昇とみることもできます。おそらく、設備の老朽化や労働人口が減少する等のタイトな中での生産だったのでしょう。一方でコロナ以降は生産能力の逓増とともに稼働率も上昇していることが分かり、生産量の増加基調ともいえるのでしょうか。

このように、稼働率の増加は最終需要・生産量の増加であると同時に、生産能力の増加(人手不足や労働時間規制もあいまって機械や設備の新規の資本投資や様々な技術革新も進んだうえでの生産能力増強)ともいえる効果を感じています。

あらためて、今日本は円安によりインバウンド需要(=海外から日本への人や投資等の流入)が拡大の好機であると同時に、先端技術の注目も集めることで外需にも注目が集まっている『認知・興味』のフェーズにあると思います。同時に世界各国が自国誘致(ニアショア・オフショアリング)を進める中で、日本も海外からの誘致を進め日本国内で競争力を発揮できる環境も整いつつあります。

今後『実績』を積み重ね『信頼』を得て『囲い込み』フェーズへと進むためには、国、企業、学術機関、そして我々もこれらの産業のバリューチェーンに対する興味関心を持つと同時に、そのチェーンが動き始める(政策提言や各種関係諸法令が発布・施行される)時に、自分なりの意見・考えを持ったうえで感情に依存し過ぎない正しい判断が求められます。

日本企業もグローバル化を進める中で成熟期の自国における事業成長に再び目を向けることで、少しでもその閉塞感に希望の光が当たることを期待しています。

古川 輝之/コモンズ投信 運用部 アナリスト

日東電工はじめ、国内の事業会社にて経理、財務、IRに従事。2022年5月にコモンズ投信に入社。現在は機械セクター中心に幅広くリサーチ活動に従事。

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