空から見るニッポン。ただいま、富山県立山町の上空です!

写真中央、北アルプスの巨大な山塊から流れ出ているのが称名滝。滝は川となって流れ、浸食によって大きな谷が形成されていることがわかる。谷の右手の壮大な岩壁は「悪城の壁」と呼ばれ、高さは約500m、幅は約2㎞におよび、一枚岩盤としては日本一の規模となる。称名川は富山地方鉄道の立山駅のあたりで常願寺川に合流、川は山のミネラルを運び、海を栄養豊かにするとともに、富山の美しい扇状地をつくりあげた。

乱れる風と戦いながら、立山連峰の剱岳を目指す

北アルプスにある剱岳(つるぎだけ)の空撮をするために計画を立て、立山の麓にあるスキー場からモーターパラグライダーで離陸した。地形や風向きなどを考慮し、まずは高度を上げて七姫山まで行き、そこから尾根沿い上空を奥大日岳まで飛んで、さらに奥の剱岳を目指す。

上空は北東風。尾根よりも低い場所の風下側は乱流になってしまう。ルートを慎重に見極めながら飛行する。起伏の激しい地形により、想定していた以上に風が乱れていた。できるだけ安全な場所を探りながら進むが、それでもぐらぐらと揺らされながらの飛行となった。

パラグライダーのコントロールに集中しなければならず、思うように撮影ができない。それでもなんとか写真を撮りながら高度を上げていくと、立山の全景が見えてきた。

火山活動や氷河によって形成され力強く変化した地形は、上空から見ると想像以上のスケール感で、興奮がおさまらない。

称名滝の先に室堂、立山が見える。その峰の向こう側には黒部ダムがある。

ただ、相変わらず風の乱れもおさまらない。地形による風の影響を避けようと高度を上げると、あまり揺らされなくなってくるが、今度は風自体が強くなってなかなか前に進めなくなってきた。なんとか大日岳と奥大日岳の間くらいに辿り着くが、それ以上先には飛べなかった。

しかし立山有料道路や称名滝、室堂まで、上空から広大でダイナミックな眺望を堪能できた。奥には目標だった剱岳が見え、悔しさは残るが立山の自然を全身で感じ、またリベンジしに来ることを心に誓って引き返したのだった。

西方向を向くと、常願寺川が富山市街(右奥)に向かって流れているのが見えた。

取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2024年5月号より

山本直洋
空飛ぶ写真家
1978年、東京生まれ。モーターパラグライダーによる空撮を得意とする”空飛ぶ写真家”。現在、世界七大陸最高峰を空撮する、成功すれば世界初のプロジェクト「Above the Seven Summits Project」を計画中。

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