『猿の惑星/キングダム』成功の裏に2人の陰の立役者 ウェス・ボール監督が明かす制作秘話

1968年のオリジナル作品以降、続編やリメイク版、リブート版など数々の作品が誕生してきた『猿の惑星』シリーズ。キャストやスタッフを一新し、新たな物語を描く『猿の惑星/キングダム』の監督に抜擢されたのは、『メイズ・ランナー』シリーズでその名を馳せ、『ゼルダの伝説』実写映画の監督を務めることも決まっているウェス・ボールだ。プロモーションのために来日したボール監督に、制作の舞台裏や『猿の惑星』フランチャイズと縁の深い友人たちとのやりとりについて語ってもらった。

ーー監督はVFXアーティスト、グラフィックデザイナーとしてのバックグラウンドも持たれていますが、今回はどの程度VFXの作業に関わられたんでしょうか?

ウェス・ボール(以下、ボール):VFXスタジオのWETAと毎日7時間くらいミーティングをしていたくらい、今回はVFXの作業にもがっつり関わっています。撮影したショットをWETAのスタッフと一緒に見ながらVFXの作業をしていく試写室があって、撮影後もほぼ毎日作業をしていました。編集には1年半かかっています。かなり大変な作業でした。

ーー撮影よりも編集のほうが時間がかかっている?

ボール:その通りです。ポストプロダクションのほうが間違いなく時間がかかっています。大変だったのは、ある程度シーンを準備しておくために、撮影の前にも編集をしなければいけなかったこと。「こういう画にしたい」と事前に決めておくわけですが、実際に目にできるのは何カ月も先のことでした。その作業はまるでジグソーパズルのようで、最後の2~3カ月はすべてがきちっとハマってくれることを願うばかりでした。他の映画とは全く違う映画づくりのプロセスでしたが、幸運なことに、世界最高峰のVFXスタジオであるWETAのおかげでとてもいい映像ができたと思います。

ーービッグバジェットの超大作としては制作期間もかなり短いですよね。

ボール:そうですね。脚本の執筆に2年くらいかけて、撮影自体は9カ月程度、編集作業に1年半なので、トータルで4年~5年ですね。その間にコロナ禍があり、ディズニーによる21世紀フォックスの買収もありましたが、過去のどの『猿の惑星』よりも制作期間は短かったです。

ーーそれでこのクオリティの作品に仕上げられるとは驚きです。

ボール:関わってくれた人たちのおかげですね。僕はチアリーダーのようにみんなを応援するような役割でしたから(笑)。

ーーリブートシリーズの2作品『猿の惑星:新世紀(ライジング)』と『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』を手がけたマット・リーヴス監督とはもともと知り合いだそうですが、今回の『猿の惑星/キングダム』については何か話をされたんですか?

ボール:実は、僕が『猿の惑星』を撮ることが決まる前から、マットには『猿の惑星』での経験についていろいろ聞いていたんです。その後、『猿の惑星/キングダム』を撮ることが決まってから、マットがちょうど『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の制作に入る前に、一緒にディナーに行きました。そのときに、僕が持っていた『猿の惑星』に関するアイデアを全てマットに話したんです。するとマットは、「僕はあの2作品で『猿の惑星』に関する物語は全て語り終えたから、あとは君が自分自身の物語を作ればいい。頑張ってね」と背中を押してくれました。その言葉のおかげで、自信を持って撮影に挑むことができました。

ーー本作のエンドクレジットには、リブートシリーズの3作品でシーザーのモーションキャプチャーを務めたアンディ・サーキスの名前が載っていましたが、彼はどういった形でこの作品に関わっていたんですか?

ボール:アンディももともと友人なのですが、この作品が、レガシーと呼べる『猿の惑星』シリーズに相応しいものであるかどうかを含めて、2年くらいかけていろいろアドバイスをもらいました。脚本を読んでもらったり、コンセプトアートも見てもらったり、ストーリーに関しても意見をもらったり……あとは実際に撮影現場に来てもらって、俳優陣にモーションキャプチャーのアドバイスもしてもらいました。アンディにはVFXがまだ完全に入っていない未完成版のラフも観てもらったのですが、「Great Job!(素晴らしい!)」と言ってくれて、安心しました。アンディは僕にとってのチアリーダーでしたね。

ーー劇中のセリフにもあるように、“エイプと人間は共存できるのか”というのが、この『猿の惑星』シリーズのテーマです。我々は人間サイドではありますが、エイプサイドにも大きく感情移入できてしまうのが特徴的ですね。

ボール:エイプと人間のバランスを描くのはトリッキーな作業でした。ノアという新たなエイプの視点から始まるので、そういうストーリーかと思っていると、途中でノヴァという人間のキャラクターが登場し、最終的にはノアとノヴァそれぞれの物語になっていく。ノアとノヴァは出会ったことによって、お互いに変化を与えていくんです。物語が終わるときには、人間サイドのストーリーがまだまだあることを知る。次の物語への扉が開いている状態で終わるわけですね。ノアとノヴァがお互いを変えて、これからいろんなことを学んでいく中で、今後どのような関係性になっていくのか興味深いですよね。『猿の惑星』シリーズが面白いのは、作品の中のエイプたちの姿に私たち人間が重なるところです。結局、人間という存在について考えさせられるのが、このシリーズの醍醐味だと思います。

ーーまさにこの続きを観たいと思いました。監督自身、続編を手がけたいという意思はありますか?

ボール:僕の中には『猿の惑星』としてまだまだ語りたいストーリーがあります。ただ、スケジュールの問題もありますし、ちょうどこの『猿の惑星/キングダム』が終わったばかりなので、考えるのはまだ先ですね。この次には日本と深い関係のある作品(『ゼルダの伝説』)も控えていますし……(笑)。嬉しい悩みですね。

ーーちょうど先日新たにリブートされることも発表された『メイズ・ランナー』シリーズも興行的に大成功を収めていましたが、『メイズ・ランナー』シリーズの経験が今回の『猿の惑星/キングダム』に活きたことはありましたか?

ボール:『メイズ・ランナー』シリーズで学んだ一番大きなことは、映画づくりの基本的な部分でした。リソースのマネジメントをしながら、撮影、VFX、編集をどう行っていくか。それと、ビッグバジェットのスタジオ映画をどう作っていくかを学んだのも『メイズ・ランナー』でした。実は、今回の『猿の惑星/キングダム』の製作費は、『メイズ・ランナー』シリーズ3作品分の製作費よりも高かったんです。『猿の惑星/キングダム』はそれくらいスケールの大きい作品だったので、『メイズ・ランナー』シリーズでの経験がなければ、『猿の惑星/キングダム』は作れなかったと思います。そういう意味では、今回の『猿の惑星/キングダム』の経験も、次の『ゼルダの伝説』に活きてくれればいいなと思っています。

ーー『ゼルダの伝説』の監督にも決まり、順調にキャリアを積んでいるように見えますが、監督自身、やってみたいけどまだできていないことはありますか?

ボール:実は、物静かな人間ドラマを作ってみたいんですよね。大きなプレッシャーがかかる大作ではなく、もっと規模の小さい映画を撮ってみたいんです。

ーーそうなんですか? それ意外な答えでした。

ボール:僕は常に、リアルに感じられるキャラクターを描いて、良質な映画を撮りたいと思っています。ブロックバスター映画も大好きですが、実はインディー映画的なスピリットも持っているんです。大きなテーマを持って物語を語るという映画づくり自体が好きなので、今後も自分の心の赴くままに映画づくりができれば嬉しいですね。

(取材・文=宮川翔)

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