親の介護が必要になりました。会社を辞めるかどうか悩んでいます。働きながら介護はできますか?

介護離職の現状

総務省が行った「令和4年就業構造基本調査」によると、直近1年間で介護等を理由とした離職者が約11万人(そのうち女性は約8万人)と5年前に比べ1万人増加しています。
介護をしている人は約629万人で、そのうち有業者は約365万人、有業者の割合は58.0%となっています。多くの方が働きながら介護をしています。
年齢階級別に40歳以上についてみると、男性は「50~54歳」が88.5%で最も高く、女性も「50~54歳」が71.8%と最も高くなっています。

厚生労働省「2022年国民生活基礎調査の概況」をみると、介護の担い手に関し、同居の主な介護者の性別構成割合は男性が31.1%、女性が68.9%となっています。年齢階級別では男性の24.9%、女性の23.6%が60歳未満となっています。

介護が必要になった際にすべきこと

まず、宮内さんに介護保険の申請(入院中も可)を勧めました。在宅介護をするにしても施設介護にしても介護保険の利用が基本になります。
介護保険は医療保険と違い、保険証を持っているだけでは介護サービスを利用できません。また、介護保険を利用できるのは原則65歳以上の方です。40歳~64歳の医療保険加入者の方は16種類の特定疾病で要介護になったときのみ利用できます。

介護保険を利用するためには、本人または家族が本人の住む市区町村の窓口で申請します。地域包括支援センターなどで代行申請をお願いすることも可能です。
申請すると市区町村の職員などが自宅を訪問し認定調査をします。入院中であれば病院に来てくれますので、医師に申請してよいか確認しましょう。

日頃の状態についての聞き取り調査と主治医の意見書をもとに、コンピューターによる一次判定と介護認定審査会による二次判定が行われ、要支援1・2、要介護1~5、非該当の認定結果が通知されます。申請から結果が出るまで30日程度です。
要介護1~5と認定された方は、在宅で介護サービスを利用する場合、居宅介護支援事業者と契約し、その事業者のケアマネジャーと相談して、介護サービス計画 (ケアプラン) を作成してもらい利用を開始します。施設へ入所を希望する場合は、希望する施設に直接申し込みます。要支援1・2と認定された方は、地域包括支援センターで介護予防サービス計画 (介護予防ケアプラン) を作成してもらいます。

介護サービスは、要介護度に応じて1ヶ月の支給限度額が決まっていますので、その範囲内でサービスを利用します。利用者が負担する費用は所得により利用額の1~3割です。支給限度額を超えた部分は全額自己負担になります。

なお、1ヶ月に支払った利用者負担の合計額が所得に応じた負担の上限を超えたときは、超えた分が払い戻される「高額介護サービス費」制度があります。また、医療保険と介護保険における1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)の医療保険と介護保険の自己負担の合算額が高額な場合に、自己負担を軽減する高額介護合算療養費制度もあります。

宮内さんは、父親の入院中に介護申請をして要介護2の認定を受けました。入院中に父親が住む市区町村から介護保険のパンフレットを入手し、在宅介護のサービスにはどのようなサービスがあるのか料金の目安はどのくらいか、仕事と介護の両立に向けて情報収集をしました。
訪問介護やデイサービス、介護者の休憩に使えるショートステイは利用したいと思います。つえなどのレンタルもあるので助かります。訪問・通所・宿泊が柔軟に利用できる小規模多機能居宅介護サービス(地域密着型サービス)は、仕事と介護の両立に有効に活用できそうです。

介護支援制度を確認

この記事では、育児‧介護休業法に基づく制度として、「介護休業」と「介護休暇」について詳しく解説します。もし勤務先に制度がない場合でも法令に基づいて制度利用ができます。
育児‧介護休業法に基づく制度以外にも、介護休業を取得した際の介護休業給付金(雇用保険)や市区町村、会社が独自に行っている介護支援制度がありますので情報収集しましょう。

・介護休業の活用

介護休業を利用できるのは、(1)要介護状態にある(2)対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)です。パートやアルバイトなど、期間を定めて雇用されている方も申し出時点で一定の要件を満たせば利用できます。
(1) 要介護状態は、負傷、疾病または身体上、もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態をいいます。
(2) 対象家族は、配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。

介護休業は、対象家族1人につき、3回まで通算93日間取得できます。労働者が介護休業を取得する際は、休業開始予定日の2週間前までに書面等で申し出ることとされています。
介護休業は介護をするためではなく、仕事と介護を両立できる体制を整えるために活用するのがポイントです。

なお、経済的支援として、雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、介護休業期間中に休業開始時賃金日額の67%相当額の介護休業給付金が雇用保険から支給されます。

・介護休暇の活用

介護休暇は、労働者が要介護状態にある対象家族の介護や世話をするための休暇です。対象家族が1人の場合は年5日まで、対象家族が2人以上の場合は年10日まで取得できます。また、時間単位で取得できます。通院の付き添いや介護サービスの手続き代行の場合、ケアマネジャーなどとの短時間の打ち合わせに活用します。
介護休業を取得するには書面の提出に限定されておらず、口頭での申し出も可能となっています。
介護休暇は有給休暇とは別に取得できます。介護休暇を有給にするか無給にするかは会社の規定によるため、勤務する会社で確認をしましょう。

その他、「所定外労働の制限(残業免除)」「時間外労働の制限」「深夜業の制限」「所定労働時間の短縮等の措置」もあります。希望する場合は会社に対して請求してください。「所定労働時間の短縮等の措置」は会社により利用できる制度が異なります。

まとめ

明治安田総合研究所 「仕事と介護の両立と介護離職」に関する調査によると、転職先でも正社員として働いている人は、男性は3人に1人、女性は5人に1人です。転職後の年収についても半分程度に減ってしまいます。

家族に介護者がいない宮内さんにとり、働き盛りの50代後半での離職・転職は苦渋の決断です。
宮内さんは介護離職するメリット・デメリットや将来の生活設計を真剣に考えました。介護が終わったあとも長い生活や自分の介護を考えると離職して収入が減るのは不安です。また、素人が介護に専念するのは身体的にもキツイと考えました。また、離職し社会との接点がなくなってしまうのは孤独感や焦燥感を覚えるのではないか不安です。
このようなことを考えると、介護のために離職するのは得策ではないと考えました。介護保険などさまざまな介護支援制度を活用や会社の上司や同僚に協力を得て、介護をしながら仕事を続ける決意をしました。

幸い会社の上司や同僚も応援してくれるといってくれています。50代後半の介護離職は会社にとっても大きな損失なので、会社もテレワークの活用などを検討してくれています。

出典

総務省統計局 令和4年就業構造基本調査
厚生労働省 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況
厚生労働省 介護保険制度について(40歳になられた方へ)
厚生労働省 そのときのために、知っておこう。介護休業制度 仕事と介護の両立支援制度
明治安田総合研究所 「仕事と介護の両立と介護離職」に関する調査

執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。

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