『ブルーモーメント』橋本じゅん扮する新たな“刺客”が登場 より強固になったSDMの結束

SDMに慎重な姿勢を貫く総務大臣の立花(真矢ミキ)が県警に働きかけ、SDMの警察班の統括責任者としてやってきた沢渡(橋本じゅん)。災害対策専門のエキスパートとしてキャリアを重ねてきた彼は立花の夫であり、5年前の大雨の日に公民館から離れてどこかへ向かった灯(本田翼)の姿をおそらく最後に見た人物でもある。5月22日に放送された『ブルーモーメント』(フジテレビ系)は第5話。新たな“刺客”の登場によって、SDMというチームの群像を描くこのドラマが格段におもしろくなってきた。

晴原(山下智久)という絶対的な存在を中心にして醸成された、SDMの“ヒーローチーム”さながらの空気感。そのなかにねじ込まれ、自ら“スパイ”であると名乗りながら“既存の組織を否定する”SDMをさらに否定し、遠慮なく問題を指摘していく沢渡。いうなれば彼はSDMというチームに対するヒールというポジションに他ならない。そもそも晴原と対立する立場には灯のいとこである優吾(水上恒司)がいるわけだが、SDMとしての信念や、一人でも多くの命を救うという目的の面が共通した同志であり、両者の関係はヒーローvsヒールというよりもヒーローvsヒーローのライバル関係に限りなく近いものがあり、回を追うごとにそれが強くなっている。

そこへきて今回現れた沢渡は、このSDMの“空気”に対し「至極正しい。だからこそ危険なんです」と警告する。災害から一人でも多くの命を救いたいという晴原の信念であり正義感。その危うさや脆さが、今回のエピソードでは降雹の一連によって示されていく。何かが起こる前に動くからこそ、その危険性が相手――すなわち市民に伝わらない。伝わらないからこそ晴原のなかに苛立ちや焦りに近い感情が生まれ、なおさら本質から逸脱し、大きな被害へとつながりかねない。

これに関しては一通りの危難が去ったタイミングで、彩(出口夏希)の「先生、口が悪すぎです」という柔らかな指摘によって改善の方向へと導かれようとする。「非常時こそ、相手の気持ちに寄り添った言葉を選ぶべき」。気象学の面では晴原に教えられる立場にある彼女からの、晴原に対する教え。決して一方向だけに留まらない関係性こそ、チームには必要不可欠なものであり、それは先述の晴原と優吾の関係にも通じる。そしてもちろん、晴原たちと沢渡の関係性でも然り。

SDMの組織としての現状を否定しながらも、警察班の統括責任者としての仕事はきっちりとこなす沢渡。持ち前のスキルを活かし、災害が起こる現場の道路交通状況を頭に叩き込み、人の動きを読み、隊員たちに的確な指示を送る。困難な状況下で2人の要救助者を運ばなければならない状況下で、晴原からその一方を託された沢渡はSDMのジャンパーを羽織り行動に移す。そう、たとえ彼がヒールであろうとも、ここには人の命を救うために命をかける者たちしかいないのである。彼もまたSDMの一員であり、これまで一方向で結ばれていたSDMの結束は、沢渡の登場によって新たな方向の結び目が生まれ、より強固なものになっていくわけだ。

終盤にはこの沢渡と立花の過去――以前立花が園部(舘ひろし)に対して言っていた、SDMに対して抱いている複雑な感情の正体が明らかにされる。5年前のあの日、灯のいた公民館には立花の戦友ともいえる秘書がいて、そのまま水害の犠牲になっていたこと。現場で警備に当たっていた沢渡は、上からの指示に従わざるを得ず救うことができなかった後悔。晴原と園部だけでなく、この物語の主要部には5年前の出来事を抱えている者たちがいる。以前自身が“災害孤児”であると明かした丸山(仁村紗和)も、どうやらその一人だったようだ。

(文=久保田和馬)

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