夫を亡くし「年金月6万5,000円」となった75歳妻、“エンドレス・1食29円の冷凍うどん”の貧困老後へ陥るも…年金機構から届いた「緑色の封筒」に感涙したワケ【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

会社員などの厚生年金に加入している人は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2階建ての年金を受給できますが、自営業などの場合、公的年金は老齢基礎年金のみとなります。令和6年度の満額の老齢基礎年金は昭和31年4月1日以前生まれの人で、月額6万7,808円となり、年金だけで生活を送るのは厳しいといえるでしょう。本記事では大谷さん(仮名)の事例とともに、一定額以下の年金生活者の人への支援制度について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。

夫に先立たれた自営業の妻、貧困老後へ

夫婦で書店を営んでいた大谷澄江(仮名)さんは、69歳のときに7歳年上のご主人を亡くされ、ひとり暮らしをしていました。

子どもには恵まれなかったのですが、ご主人がご存命のころは非常に仲のよい夫婦だったそうです。現役時代もリタイアしてからも、お金に余裕があるというわけではありませんでしたが、料理好きだったご主人の凝った料理を一緒に食べ、年に数回は温泉旅行へ行くこともできていました。2人の共通の趣味である読書はゆったりと時が過ぎていくのを感じられるような、かけがえのない時間だったそうです。

大谷さんの年金事情

夫婦ともに、会社員として働いた期間はなく、国民年金に加入していました。しかし、収入が少なかった時代に年金を未納していた時期があり、6万4,000円ずつ夫婦2人で12万8,000円の老齢基礎年金を受け取っていました。

自営業の老後の年金は少ないと聞いていたので、さらに民間の個人年金にも入っていました。10年確定のものだったので、65歳から74歳までの10年間は毎年120万円を受け取ることができていました。ご主人が亡くなってからも個人年金も受け取っていたのですが、昨年、74歳になって個人年金の受け取りはなくなり、老齢基礎年金だけの収入となったそうです。

大谷さんは、収入が公的年金だけになった70歳以降は、夫婦2人のころの収入約13万円と個人年金の月10万円を足し合わせた23万円あったころに比べ、老齢基礎年金と個人年金と合わせて16万4,000円となりました。

74歳からは個人年金の受け取りもなくなることから、生活費もできる限り節約を心がけいました。しかし、最近の物価上昇や光熱費の上昇によって、厳しい生活を余儀なくされます。

冬は暖房を、夏はクーラーをなるべく使わないようにしていました。特に削ったのは食費です。年金支給日になると、近くの業務スーパーへ徒歩で向かい、1食29円の冷凍うどんを大量買い。これが非常に重たくて高齢者の身体には堪えます。初めのころは夫が残してくれたうどんのアレンジレシピを参考になんとか食にも楽しみを持たせていましたが、次第に「こんなことをしてなにになるのか……」そんな気持ちが押し寄せてくるようになりました。アレンジをやめ、段々と解凍したうどんにめんつゆをかけただけの素うどんしか食べないようになりました。お金の不安から精神的にも病んでいくのが自分でもわかったそうです。

ただ時がすぎてゆくだけ、そんな暮らしとなって久しいある年の9月初旬。日本年金機構から緑色の封筒が届きます。封を開けた大谷さんは思わず涙を流します。その封書のなかには、「年金生活者支援給付金請求手続きのご案内」と書かれた書類と返信用のはがきが入っていたのです。

「年金生活者支援給付金制度」とは?

年金生活者支援給付金制度とは、令和元年10月から施行された制度で、消費税率の引き上げ分を活用して、公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準以下の人に対して、生活の支援を計ることを目的として、年金に上乗せして支給する制度です。

支給要件は、以下の要件をすべて満たす人が対象となります。

・65歳以上の老齢基礎年金の受給者

・同一世帯の全員が市町村民税非課税

・前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が87万8,900円以下

この案内は、基礎年金を受給している人で、新たに年金生活者支援給付金を受けることができる人へ、日本年金機構が自動的に判定して送られてくるので、自ら制度について調べて請求をする必要がない制度となっています。同封のハガキを切り取り、「提出日」「氏名」「電話番号」の3つを記入して、返送するだけで手続きが終わり、その後は、年金生活者支援給付金が上乗せされた金額が振り込まれるようになります。

支給額は、以下の(1)と(2)の合計額となります。

(1)保険料納付済期間に基づく額(月額)=5,310円×保険料納付済期間÷被保険者月数480

(2)保険料免除期間に基づく額(月額)=1万1,333円×保険料免除期間÷被保険者月数480月

77万8,900円を超え、87万8,900円以下である人は給付基準額の月5,310円に一定割合を乗じた額の支給となりますが、本記事では詳しい説明は割愛いたします。

今回、相談された大谷さんは、29ヵ月の未納期間があったということで、

5,310円×451÷480≒4,989円

が上乗せ支給されることになったようです。これまでの老齢基礎年金の6万4,000円との合計6万8,989円となり、高額ではありません。しかし、多少なりとも収入が増えたこと、すべてに見放されたように思っていたなかで、救済制度があったことに救いを感じたそうです。

自助努力の重要性

人生100年時代とよく耳にするようになってきた昨今ですが、老後の生活を送るために、公的年金だけではなく、自助努力で不足分を補っていくことが必要な時代です。

現在、65歳を過ぎて年金生活を送っている人が現役時代には、老後の心配をすることなく、働いてきた人もいます。
しかし、少子高齢化が進む日本では、高齢者を支える現役世代の人口が少なくなり、年金の支給水準も減少していくことが考えられます。現役時代から地道に貯蓄をしていても、インフレを意識せずに預貯金にお金を預けていると、実質でお金が目減りしていってしまうでしょう。

今回の大谷さんのケースでは、公的な年金の1階部分である基礎年金のみの受給であったため、さらに老後の生活費が不足してしまうということになりました。

現在、生活保護の受給者の半数以上は高齢者となっているほど、老後の生活が厳しい時代となっています。老後の生活費の不足分の準備として、企業の確定拠出年金や自営業などの場合や専業主婦の人でも利用できる個人型確定拠出年金(iDeCo)という制度も普及しつつあり、自助努力で意識的に準備ができるようになってきています。

若いうちから、少しずつでも準備をしていくことで、無理なく老後の生活費の不足分を補うことができる可能性があります。自分のライフプランを考えて、資金計画も行っていきましょう。

<参考>

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン