今回の予選で大化けした浦和DF、オーバーエイジ興梠慎三の活躍、大岩ジャパンの進む道【日本サッカーにオリンピックは必要か】(3)

現在、37歳の浦和レッズ興梠慎三。2016年、30歳のときにリオデジャネイロオリンピックへオーバーエイジ枠で出場した。撮影/原悦生(SONYα1使用)

今年の夏、世界的なスポーツの祭典がある。フランスの首都、パリで開催されるオリンピックだ。サッカー日本代表は男子、女子ともに出場するが、はたして現在の日本サッカーにとって、五輪は本当に必要な大会なのか。サッカージャーナリスト大住良之が、その意義を問う。

■W杯優勝国のオリンピック「出場回数」は

オリンピックのサッカーが「23歳以下」になってから今夏のパリ大会で9大会目になるが、その全大会に出場している国はひとつもない。その間、1994年から2022年までのワールドカップ8大会優勝国を見ると、ブラジル(ワールドカップ優勝2回、オリンピック出場6回)、フランス(ワールドカップ優勝2回、オリンピック出場3回)。以下、ワールドカップ優勝1回の4か国のオリンピック出場回数は、イタリア5回、スペイン6回、ドイツ2回、アルゼンチン6回(オリンピックの出場回数は今夏のパリ大会を含む)。ワールドカップ優勝国の中で、オリンピックでの強化に依存している国など、ひとつもないのだ。

日本は、オリンピック9大会のうち8大会に出場しているが、本気で「ワールドカップ優勝」を目指すなら、そろそろオリンピックに目くじらを立てるような時代ではなくなってきているのではないだろうか。そう考えれば、今夏のオリンピックに誰を呼べるか、一喜一憂する必要はない。招集できた選手で全力を尽くせばいい。

■日本サッカーのために戦いたい「ベテラン」の活用

もちろん、オリンピック本大会だけでなく、U-23アジアカップでもそれを戦い抜くことで、「欧州組」だろうと「Jリーグ組」だろうと、選手の成長に大きく寄与することは間違いない。

今回のU-23アジアカップで大きく伸びた選手のひとりに、浦和のDF大畑歩夢がいる。所属の浦和では、今季スタート時にはFC東京から移籍してきたMF渡邉凌磨にポジションを奪われていたが、U-23アジアカップで試合ごとに力をつけ、浦和に戻ると左サイドバックとして攻守両面でまったくレベルの違う選手になっていた。今後、日本代表に選ばれ、欧州のクラブに移籍し、2026年のワールドカップで活躍する可能性も十分ある。

「オーバーエイジ」も同じだ。2016年のリオ・オリンピックに、手倉森誠監督は浦和のFW興梠慎三(当時30歳)を招集した。興梠には、日本代表出場16試合という実績があったが、その記録は前年までのもので、この2016年にはまったく代表に呼ばれていない。興梠の選出は驚きをもって迎えられた。

しかし、興梠はリオ・オリンピックの3試合で見事なプレーを見せ、攻撃をリードした。グループリーグ敗退に終わったものの、興梠のパフォーマンスは目覚ましく、最前線でのアイデアに富んだプレーは、彼のポテンシャルをフルに発揮するものだった。おそらく彼のキャリアで最も充実した3試合だったのではないだろうか。

その後、興梠がワールドカップで活躍したわけではない。しかし、オリンピックという舞台を得て、Jリーグで発揮しきれなかったものを発揮するベテラン選手は他にもいるはずだ。そして、日本代表でレギュラーポジションを獲得するためにオリンピックでアピールしたいという選手、ともかく日の丸をつけて、日本のサッカーのために戦いたいという中堅、ベテランもいるはずだ。

■メダルの色とワールドカップ優勝は「別の話」

予選を含めて、オリンピックのサッカーがJリーグの選手たちにとって成長の大きなチャンスであることは間違いない。しかし、日本サッカーの目標である「ワールドカップ優勝」のためにオリンピックが不可欠と考える時期は、もう過去のものになりつつある。

オリンピックと言うと、どんな競技でも、どんな選手でも「メダル」を口にする。掛け声としてはいいが、6試合を戦うという経験(準決勝に進めば6試合になる)には大きな価値はあるが、オリンピックでどんな色のメダルを取ろうと、「ワールドカップ優勝」はまったく別の話だ。

大岩監督には、オリンピックを「選手の成長のチャンスのひとつ」としてとらえ、招集することのできたメンバーで最善を尽くし、日本のサッカーのクオリティと選手層の厚さをしっかりと世界に示してほしいと思う。しかし、たとえグループリーグで敗退したとしても、それがワールドカップ優勝に向かって突き進む日本サッカーの成長にブレーキをかけるようなものでないこと、日本のサッカーは、すでに代表の強化をオリンピックに頼る時期を過ぎていることを、しっかりと思い起こしてほしいと思う。

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