小林製薬は企業体質を変えなければ存続不可(有森隆)

小林製薬の「紅麹」サプリメント「コレステヘルプ」/(C)共同通信社

【企業深層研究】小林製薬(下)

小林製薬の「紅麹」サプリメントによる健康被害問題は、機能性表示食品のサプリの存続に発展した。

市場調査会社インテージがドラッグストアなど約6000店を対象にした調査によると、機能性表示食品のサプリの販売額は小林製薬が問題のサプリの自主回収を発表した3月22日以前に比べ約2割減少した。問題発覚以前には機能性食品サプリの市場は商品数も販売額も右肩上がりで成長を続けてきたが、急ブレーキがかかった。通販の売上高は4月に34%減と大きくへこんだ。

1886(明治19)年、小林忠兵衛が名古屋で創業した。小林製薬を大きくしたのは創業者のひ孫にあたる小林一雅会長(84)である。成功の原点となったのが1969年に発売した水洗トイレ用芳香・消臭・洗浄剤「ブルーレット」だ。一雅は甲南大学経済学部を卒業後、米国に留学した。この時、青い水が流れ、よい香りがするトイレを見て驚いたという。

帰国後、自ら開発したのが「ブルーレット」だった。くみ取り式トイレが多かった時代に販売を始めた。水洗トイレの普及とともに大ヒット商品へと成長した。

一雅の口癖は「小さな池の大きな魚」。誰も参入していない未開拓領域で大きなシェアを狙う戦略を意味する。開発に時間と費用がかかる医薬品より、手軽で1品あたりの開発リスクが低い日用品にシフトした。冷却ジェルシート「熱さまシート」や消臭剤「消臭元」、洗眼薬「アイボン」などヒット商品を連発した。

彼は「あったらいいな」をカタチ(商品)にすることに心を砕いた。ニッチな市場の開拓者、パイオニアになった。

一雅は小林製薬の“天皇”と呼ばれている。神聖にして不可侵な存在だ。76年に4代目社長になってから48年間にわたり代表権を保持し、トップの座に君臨している。

6代目社長の小林章浩(53)は一雅の長男。慶応義塾大学経済学部卒。2013年に社長に就任。機能性表示食品のサプリメントに経営の舵を切る転換点となった年だ。

機能性表示食品は事業者が機能性(健康の維持や増進に役立つ効果)と安全性に関する科学的根拠などを消費者庁に届け出れば国の審査なしで表示ができた。

小林製薬は2016年、グンゼから食品素材、紅麹の研究・販売事業を譲り受け、21年4月、悪玉コレステロールを下げると謳った紅麹コレステヘルプを機能性表示食品として消費者庁に届け出た。

23年10月、米国のサプリメントメーカー、フォーカスコンシューマーヘルスケアを111億円で買収し子会社にした。フォーカスコンシューマー社はニンニクを使ったサプリメントのほか、生理用鎮痛剤、口唇ヘルペス対策薬など一般用医薬品を扱っている。

サプリメントを経営の軸にして走り出したとたんに「紅麹」が健康被害を出した。

小林製薬には4人の社外取締役がいる。日本のコーポレートガバナンスの第一人者として知られる伊藤邦雄・一橋大名誉教授、起業家でテレビ出演も多く政府の有識者会議でも委員を務める佐々木かをり・イー・ウーマン代表取締役、有泉池秋・元日銀政策委員会室企画役、片江善郎・元小松製作所常務執行役員。

社外取締役への紅麹の健康被害の報告は臨時取締役会で自主回収を決めた3月22日が初めてだった。4人の社外取締役は外部の視点から意見を言う機会がなかったことになる。今後、外部の弁護士3人からなる「事実検証委員会」を立ち上げる。検証委の調査をもとに、取締役会で社外取締役も入って調査・検証を進め、原因究明と再発防止策をまとめる。

小林一雅会長、小林章浩社長の親子による同族企業にまでメスが入るのか。コーポレートガバナンス(企業統治)の欠如という企業の体質を変えない限り、小林製薬は「あったらいいな」ならぬ「なくてもいいな」企業に成り下がる。

小林章浩社長は5月10日の投資家向けの説明会で「検証結果を踏まえて再発防止策の策定など経営体制を検討し、早期に公表したい」と述べた。 =一部敬称略

(有森隆/経済ジャーナリスト)

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