市原隼人「涙が止まらなくなってしまって」本気になって芝居に取り組むようになったファンからの手紙

市原隼人 撮影/有坂政晴

“漢”という言葉がこれほど似合う男はいないだろう。俳優・市原隼人。『WATER BOYS2』、『ROOKIES』といった学園ドラマでの熱いキャラが印象的な市原さんだが、近年では『鎌倉殿の13人』、『正直不動産』などではスマートで大人のキャラを好演している。そんな市原に「THE CHANGE」について聞いてみた。【第2回/全4回】

初めての映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演を務め、撮影の楽しさに目覚めたという市原さん。芝居に対しての気持ち(想い)に大きな変化をもたらす出来事があった。

「10代後半から20代前半の頃にファンレターを戴くようになったんです。その中には『重い病気に罹って、あと何か月しか命が無いんですけど、市原さんの笑顔を見ると頑張れるんです』とか『親子の会話が無かったんですけど、市原さんの作品を観たのがきっかけで会話が生まれました』とか『今日、目の手術で、もう見れなくなってしまうかもしれないですけど、最後に市原さん作品を見ようと思います』……などといった手紙もありました。読ませていただいたら涙が止まらなくなってしまって。それで思ったんです。こんな自分でも、人のために何か出来ることをやらせていただけているのはすごく贅沢なことだと。そうして、初めて本気になって芝居に取り組むようになりました」

“体作り”より“精神面を鍛える”目的で始めたジム通い

2010年に公開された映画『ボックス!』はボクシングを題材にした青春映画だったが、この映画に合わせて市原さんの体作り=ジム通いは始まったと言われている。

「ジムに通い始めたのは“体作り”というよりは“精神面を鍛える”という部分が大きかったと思います。20代前半の僕は、プレッシャーに押されて涙が止まらなくなることもありましたし、走っても走っても眠れない日々を送ることもありました。それで、何かひとつ軸として支えになるものを作らなければならないと考えたんです。そのひとつがジム通いでした。ひとつひとつ、コツコツコツコツ自分を追い詰めて、そこを少しずつ超えていく……その結果として、その積み重ねが自信につながると思っています」

そんな市原さんも俳優を始めて20年以上が経った。その間に様々な作品に出演したが、2019年から始まったドラマ『おいしい給食』シリーズは、市原さんの新たな魅力を引き出す作品となった。1980年代の中学校を舞台に、誰よりもこよなく給食を愛する教師・甘利田幸男と、「給食マニア」の男子生徒が、いかに給食を「おいしく食べるか」を競い合う……といった学園グルメ・コメディだ。

真の主役は毎回登場する給食だ。「ミルメーク」、「ソフトめん」、「鯨の竜田揚げ」……といった、昭和世代の視点から見ると、思わず”懐かしい“と思える献立の数々。だが、それらを、市原さん扮する甘利田が振り切ったアクションで食べ上げるシーンは爆笑というか、爽快感すら覚える。そんな『おいしい給食』は作品を重ねるごとにファンを増やし、昨秋にはシーズン3が作られた。

「ドラマのシーズン3が作られるという話を最初に聞いた時は、第3弾を作る意義というものをしっかりと見出せられるのかという不安が強かったです。僕の中では毎シーズンやり尽くす思いでやってきましたので、体力面でも精神面でもこれ以上続けられるのか、保てるのかというのもありました」

心に刺さった校長先生のセリフとロケ地・函館の魅力

そして、シーズン3の後日談ともいえるストーリーを描いた劇場版『おいしい給食 Road to イカメシ』が間もなく公開される。

「『私は極端に寒がりだった』という甘利田のモノローグから始まるのですが、台本でその一文を見て『これは面白くなるに違いない』と思いました。
これまでのシリーズは夏場の撮影がメインだったので気温が40度を超えるような日々でした。舞台も関東近郊ではあったのですが、地名は出ていませんでした。それが今回、初めて「北海道・函館」という実際の地名が出てきて、撮影時期もガラッと変わり冬場となりました。シーズン1や2では見られなかった甘利田の一面もありながら、コンセプトとしてはこれまでとブレることのない骨太のエンターテイメントに仕上がっていると、台本を読んで確信が持てました」

印象に残ったセリフを聞いてみると、「甘利田先生はシンプルに見ている。だから信用できる」という校長先生のセリフを挙げてくれた。

「今の世の中はシンプルじゃないと日々思わされているので、あのセリフにドーンと殴られたような感覚になりました」

ロケ地である函館の魅力は?

「函館の豊かな食は日本の宝だと感じました。海鮮はもちろん、野菜やカレーなどもそうですし、地域に根付いた『ラッキーピエロ』というお店にも行きました。撮影中は食事を節制しているので、撮影が休みの移動日に朝早くから起きて色々と函館を食べ尽くしました。本当に最高でした。プライベートでもすぐにこの地に帰ってこようと決めました」

映画『おいしい給食 Road to イカメシ』も、そんな函館を舞台に繰り広げられる。どんな給食が登場するのだろうか。期待が高まる。

市原隼人(いちはら・はやと)
1987年2月6日生まれ、神奈川県出身。小学5年生の時にスカウトされ芸能界に入る。2001年、映画『リリイ・シュシュのすべて』で主演を務める。2004年、ドラマ『ウォーターボーイズ2』で連ドラ初主演を果たし、同年に公開された映画『偶然にも最悪な少年』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。近作にはドラマ『正直不動産』シリーズ、や舞台『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』がある。近年は写真家としても活動している。6月~は主演作品・WOWOWにて『ダブルチートseason2』の放送開始。

【作品情報】
映画『おいしい給食 Road to イカメシ』
監督:綾部真弥
出演:市原隼人、大原優乃、田澤泰枠、栄信、石黒賢、いとうまい子、六平直政、高畑淳子、小堺一機
5月24日㈮より東京・新宿ピカデリー ほか全国公開
配給:AMGエンタテインメント
🄫2024「おいしい給食」製作委員会

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