【5月23日付編集日記】底力

 月を眺めながら一杯やるのがたまらなくおいしいと公言していた同僚がいた。酒の味を引き立てる場はそれこそ無数にある。おめでたい席、友と語り合うとき、しみじみ飲むときでも、それぞれに味わい深い

 ▼江戸風俗研究家の杉浦日向子さんにとって、酒を相棒に憩える場だったのがそば屋。それも、昼下がりの「ハンパな午後」がいいという。ぽっかり空いたこの時間帯の空間を「オトナの貴賓席」と、あるエッセーで表現している

 ▼頼むのは、板わさにかん酒だったり、熱々の鴨(かも)南蛮の後に冷酒で、もりそばをたぐったり。焼きのりをつまみにして、一合の酒を30分かけ、のうのうと過ごせるのはそば屋だけ―ともつづっている。酒の味わい方を熟知した達人の域だ

 ▼全国新酒鑑評会で、本県の18銘柄が金賞を獲得した。たまたま先日飲んだ兵庫の金賞受賞酒は、確かにうまかった。ただ、ひいき目かもしれないが、本県の酒に死角はないと思っていた。あと一歩及ばなかったが、入賞銘柄数は最多で胸を張れる結果だ

 ▼9回連続日本一の底力はだてじゃない。そば屋か居酒屋か自宅か。出色の出来栄えの酒をいつ、どこで味わおう。こよいの満月をさかなに杯を傾けるのも悪くない。

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