QUINTBRIDGEが2周年報告会 利用者数等増、実績も出始めたNTT西の「共創」施設は万博で飛躍へ

NTT西日本は4月、運営するオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」(クイントブリッジ)の2周年成果報告会を開催した。

2022年3月に開業した同施設の成果、取り組みなどをさまざまな角度から披露した。

2年目を終えたNTT西の“共創”施設

大阪の京橋にあるQUINTBRIDGEは、地上3階建て、延べ床面積4000平方メートルの西日本で最大級のオープンイノベーション施設。スタートアップ、自治体、大学、企業らの架け橋となる共創を通して、社会課題の解決や新規事業の創出に挑戦している。

「『わたし』の挑戦を、『わたしたち』の挑戦へ」という意味の「Self-as-We」を理念とし、会員には規模や業界、業種、年齢、性別などを問わない一方で、自分たちの持ち物を持ち寄って新しい物を作りたいというモチベーションを求めることが特徴だ。

2年目となった2023年度末時点では、個人会員が1万8000人、法人会員が1300組織、連携パートナーが65組織で、年間利用者数は8万8000人。延べ数で見ると倍以上の利用者数になったという。

イベントの開催数も、2022年度の385回から439回と増加。内訳が約7割が会員の主催もしくは共催となり、QUINTBRIDGE会員が自らテーマを持ち込むイベントが多かったとのことだ。

NTT西日本 執行役員 CTOを務める白波瀬章氏は、「われわれにとって非常に喜ばしいことに、初年度よりも2年度の方が、多くの方に利用いただいた。皆様に居心地の良い、そしてさまざまな出会いの場になれたことを表せた数字だと感じる。うまく活用いただきさまざまな方と出会って、新しいものが生まれている」と話す。

イベントの中身を見ると、多岐にわたるプログラムを実施したという。若手起業家や海外企業に加え、複数の大企業が合同しての「リバースピッチ」、自治体の市長・町長などによる「首長ピッチ」など、さまざまなピッチイベントを実施した。

例えば日本国内の全国に支社を持つ三菱電機は、関西支社の事業推進部が中心となり、2023年度に両社のアセットを活用するパートナーを募集するリバースピッチを2回実施。スタートアップ4社と共創を検討した結果、FutuRocketと実証実験の実施に至っている。

また、リバースピッチの実施前には全社の意識を合わせるべく、さまざまな施策に取り組んだという。日本全国の支社長及び営業本部の本部長がQUINTBRIDGEを視察するツアーを組んで「一網打尽に経営幹部の意識を変えた」(三菱電機 関西支社 事業推進部 営業企画課 谷本純也氏)など、社内の「巻き込み力」も必要だったようだ。

自治体関係のイベントは、初年度の10件から40件超へと大幅に増加。「イベント数全体の1割を占めるとともに、複数の自治体の合同開催もあった。自治体間の連携に加え交流が生まれたことも、2年度の特徴」(白波瀬氏)と話す。

実際に数度のイベントに登壇した奈良県三宅町長の森田浩司氏は、自身の経験から感じるQUINTBRIDGEの利点として、(1)熱量高い企業・ビジネスパーソンと出会えること、(2)職員の学び・刺激・成長の場となれること――の2つがあるという。

「QUINTBRIDGEは、熱量の高い人が集まるよう設計されているだけでなく、実際にそのメッセージが着実に届き、熱量の高い人たちが集まっている。また、(森田氏自身だけでなく)職員も何度か登壇させていただいているが、QUINTBRIDGEには一緒に前を向いて“コケ”てくれる方々が大勢いる。失敗を大事にしようというまちづくりを進めるなか、失敗が許され、一緒にコケるよと言ってもらえる力強さ、一歩踏み出せる安心感がある」(森田氏)。職員内では「クイントいったら何とかなる」が言語化されていることも付け加えた。

そのほか、会員同士の学びあいコミュニティーとして運営する、教え合いの「WE LAB」、事業開発に向けたメンタリングプログラム「I LAB」では、のべ198人が参加。参加者が学び、経験を元に講師として登場するという循環が生まれているようだ。

2023年度は、実際に共創した取り組み数が50件を超え、3社の会員企業が連携パートナーからの資金調達に成功。NTT西日本自身と会員との共創プロジェクトは22件に上り、うち3件がサービス化、19件がPoCまで進むなど、歩みを着実に進めた年となったようだ。

報告会では、サービス化した3件のうちの1つとなる「みんなのまちAI」を活用し、QUINTBRIDGの最寄り駅となる京橋付近の人流の変化を分析。ピーク人数や滞在時間、女性比率が増加したことなどを可視化した。なお、みんなのまちAIは4月4日から、NTTビジネスソリューションズによるコンサルティングなどへの活用が始まっている。

2025年に控える万博で飛躍へ

白波瀬氏は、QUINTBRIDGEの3年目の活動予定も紹介。(1)会員の共創ビジネスの支援強化、(2)QUINTBRIDGEの共創プロセスの可視化&確立、(3)NTT西日本の新領域分野における『共創』の更なる拡大――を3つの大きな柱に掲げ、社会インパクトのある共創成果を生み出す1年にしたいという。

その際に関西全体の大きなテーマとして取り組みたいと語ったのが、2025年に開催を控える日本国際博覧会(大阪・関西万博)だ。

QUINTBRIDGEでは、大容量、低遅延、省電力を特徴にしたNTTの通信コミュニケーション基盤「IOWN」の未来のユースケースを創出すべく、「未来共創プログラム『Future-Build』」を実施。2023年度は空間拡張サービスを提供するtonari、XRライブ制作サービスを提供するバルスの2社が採択され、2024年度中の実証実験を目指して共創に取り組んでいるという。

もう一歩進んだ実証実験フェーズでは、英語・標準中国語・広東語・韓国語の音声合成が可能なNTTのクロスリンガル音声合成技術と、ソニーのSound ARサービス「Locatone」(ロケトーン)を活用した取り組みがある。

櫻坂46の田村保乃さん、山﨑天さんの日本語音声を収録し、ひらかたパークと大阪城エリアを含む大阪京橋駅周辺の来訪者に対し、3月1日から5月6日まで「きょうばし みみぴく」「ひらパー みみぴく」としてまちの音声ガイドを提供。位置情報にあわせて、日本語もしくは「本人の声質による中国語コンテンツ」へと変換したそれぞれの音声を提供するという多言語音声ARサービスとなっている。

万博をきっかけとした共創活動という観点では、demoexpo 理事でオカムラ ワークデザイン統括部 WORK MILLコミュニティマネージャーの岡本栄理氏、三井住友銀行出身でドリアイイノベーション 代表社員の林俊武氏、RelyonTrip 代表取締役の西村彰仁氏の3人によるパネルディスカッションも実施した。

NTT西日本 イノベーション戦略室 オープンイノベーションプロデューサーの及部一堯氏がモデレーターを務め、岡本氏はTEAM EXPO 2025 共創パートナーとして万博に関わるオカムラ、「EXPO酒場」「EXPO TRAIN」などのdemoexpoでの活動について、林氏は会場内で使用予定の決済端末や電子マネー「ミャクペ!」などの取り組みについて、西村氏は観光・飲食向けに展開するおでかけ・旅行計画アプリ「SASSY」について、それぞれの活動が共創で前進していることを説明した。

また、三井住友銀行を3月に退職したという林氏は、「当初、万博は一過性のイベントで何の意味があるのかと言われていたが、なかったらこの場所に集まることはなかった。万博が終わった後に共創がなくなることはとても心配だったが、2年前にQUINTBRIDGEができた。万博をきっかけとしてうまく使い倒し、社会課題解決や新しい事業創出、新規ビジネス、新産業創出を、皆様と一緒に進めていきたい」と話す。

白波瀬氏は「万博は、ファンの拡大や地域観光資源の価値向上、訪日客の地域周遊などが期待できる。万博を盛り上げるのではなく、万博という機会を活用して関西を盛り上げてその次につなげるべく、準備を完了させる。QUINTBRIDGEも積極的に関わって貢献したい」と語った。

NTT西・北村新社長「先達の意思、DNAを引き継いでいく」

イベントの冒頭では、4月1日に就任したNTT西日本 代表取締役社長 社長執行役員の北村亮太氏が開会の挨拶を行なった。

北村氏は、1988年にNTTに入社以降、グループ内でさまざまな役職を歴任。直近では2022年からNTT東日本の代表取締役副社長を務めた人物だ。QUINTBRIDGEでの挨拶は、関西の人々の前で話す最初の機会になったというが、「私は現場、フロント第一主義でやってきた。(NTT西日本の)社長としてこれからどんどん現地に入り、その土地の良さ、風土、文化を実際に見て、聞いて、触れて、経営に生かしていきたい」と、さまざまな場所に直接自分で赴く意向を示す。

また、これからのNTT西日本が目指す理想像として、「私は、渋沢栄一の言葉である『道徳なくして経済なし、経済なくして道徳なし』を大切な経営感としている。2023年に発覚したNTT西日本の情報漏洩事案を現代の経営に当てはめると、企業倫理やコンプライアンス、ガバナンス強化といった企業としての健全性を確保して世のために役立てない企業は、存在意義がないということ。一方で立派な社会貢献を唱えても、経営が成り立たなければ、理想にすぎない。NTT西日本として高い志を持ち、社会の課題、解決価値、創造と事業成長の両立を目指す。志を同じくする方々とともに新しい価値を共創し、持続可能な社会とその経済の実現に貢献したい」と、話す。

その際の理念として掲げるのが、QUINTBRIDGEが施設理念とするキーワード「Self-as-We」だ。持続的な繁栄を1人で続けることはできず、利他があって自利があるという意味で、2021年に策定したNTTグループのサステナビリティ憲章でも中心に据えられた言葉だという。

「(QUINTBRIDGEは)スタートして2年たったが、今でも多様性あふれる会員の方々が毎日、300人以上来館している。QUINTBRIDGEも現場の一つ。私もこれからどんどん関わり、会員の皆様と触れ合い、共創を通じてウェルビーイングを実感できるような、そういう社会の実現に貢献したい。社長は代わったが、先達の意思、DNAを引き継いでいく」(北村氏)。QUINTBRIDGEのイベント数や利用者数は初年度から成長を続けていることを明かし、今後も共創にフォーカスしていくと語った。

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