【5月23日付社説】新酒鑑評会/ブランド力強化につなげよ

 2023酒造年度(23年7月~24年6月)の日本酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会で、県内蔵元が出品した18銘柄が金賞を受賞、最多の計31銘柄が入賞した。都道府県別の金賞数は兵庫の19に次ぐ2番目の多さで、悲願の「日本一」奪還はならなかったものの、酒どころとして堂々とした結果だ。関係者に敬意を表したい。

 各蔵元は本年度、前年度の分析から、猛暑の影響で硬くなったコメへの対応の改善などに力を注ぎ、入賞、金賞銘柄の増加につなげた。日本一に返り咲くことができなかったのは、本県の杜氏(とうじ)育成などを軸とした取り組みを他地域が参考にするなどして、県外でもレベルの底上げが急速に進んでいるのが要因とみられる。

 本県は21酒造年度まで9回連続となる金賞受賞銘柄数の日本一を達成して以降も、2年度続けて好成績を残している。県酒造組合特別顧問、鈴木賢二さんによる的確な分析に基づく技術指導に加えて、県清酒アカデミー職業能力開発校(福島市)で培われた結び付きなどにより、杜氏同士の間で情報交換する文化が形成されているのも大きな原動力となっている。

 今回、金賞に選ばれた蔵元には、若手杜氏が力を振るっているところも多い。彼らの酒造りのノウハウは今後、さらに深められていくだろう。情報共有と並行して、身近なライバルとの切磋琢磨(せっさたくま)により、一層味わい深い酒が生み出されることを期待したい。

 酒造りの技術や文化が根付いていることを踏まえれば、今後重要となるのは本県で造った酒を幅広い層に味わってもらうためのブランド力強化だ。

 県は東京のアンテナショップ、日本橋ふくしま館「ミデッテ」や福島市の県観光交流物産館、公式ホームページなどを通じて県外への発信を強めている。海外へのPRも積極的に進めている。ただ、酒どころとしてのイメージは兵庫や新潟に比べて浸透しているとは言い難いのが現実だ。

 本県は、鑑評会を通じて酒造りの技術を着実に高め、評価を揺るぎないものとしてきた。その技術の高さを生かして、それぞれの蔵元独自の強みや特徴をより前面に打ち出していく段階に来ているのではないか。

 回復基調にある外国人観光客向けにも日本酒は有力な資源となり得る。各蔵元には、蔵元で製造した酒を味わってもらうための環境づくりなど観光客への対応や試飲の機会の充実などにも力を入れることで、新たなファン開拓も進めてほしい。

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