30年塩漬け「阿蘇ソフトの村」、熊本県が譲渡へ 高森町の18ヘクタール 予定価格は投資額の38分の1 TSMC効果で買い手現れる?

約30年前に県が買い取った「阿蘇ソフトの村」の用地。一括譲渡先を募っている=20日、高森町(中島忠道)

 バブル期の約30年前、熊本県高森町上色見地区の一角にIT関連企業を誘致するために、熊本県が買収した18ヘクタールを超える用地について、一括譲渡を目指している。「阿蘇ソフトの村」の名称で始めた誘致計画は頓挫。活用されないまま、長く続いた塩漬けの状態を解消しようと、今年4月に譲渡先の公募を始めた。譲渡予定価格は約1249万円と、総投資額の38分の1に過ぎない。6月28日の期限までに買い手は現れるのか─。

 県の計画は細川護熙知事時代の1987年度に策定した。近隣で民間企業のリゾート化の話が持ち上がったことから90年度、計画に沿い、19・2ヘクタールを約2億3800万円で買い取った。

 しかし、バブル経済が崩壊し、景気低迷期に突入。進出企業は一社もなく、民間によるリゾート化は立ち消えになった。県の計画区域には民有地も残り、取得した用地は虫食い状態になっている。

 高金利のバブル期に取得したため、財源とした地方債の利子負担だけで約1億3200万円かかった。管理用道路の整備や測量費も加わり、総投資額は約4億7900万円に上った。

 2001年度と12年度の包括外部監査で対応を求められたが、土地を譲渡できたのは、ほんの一部。12年の九州北部豪雨で土砂災害が発生し、砂防工事のため国に0・3ヘクタール余りを売却しただけだ。

 長く、県有地が〝たなざらし〟になっていることを22年11月に熊本日日新聞が報道。これを受け、当時の蒲島郁夫知事は「馬力を出して検討する」と土地の活用に本腰を入れる姿勢を示した。

 大半が山林で、造成したり、虫食い状態を解消するために未取得地を買収したりすると、さらに費用が膨らむ。そのため、県は18・8ヘクタールの一括譲渡を選択し、4月12日に公募を始めた。

 譲渡予定額は、不動産鑑定の結果を踏まえて林地で算出したため、1平方メートル当たり66円と低い。県には既に数件の問い合わせがあったという。正式に申し込みがあれば、選定委員会を経て、10月中旬の契約締結を目指す。

 台湾積体電路製造(TSMC)が菊陽町に進出し、周辺地域を中心に企業用地の需要は高まっている。県は、TSMCの新工場などが集積するセミコンテクノパークから車で約45分、熊本空港から約40分と、立地は悪くないと見ている。

 産業支援課の荒木貴志審議員は「企業進出、保養所、リゾート地といった、民間のアイデアで活用策を提示してほしい。地域経済への波及や交流人口の増加にもつながればいい」と期待している。(川野千尋)

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