年を取るほど不安は増すが…「遅かれ早かれ誰でも認知症になる」と覚悟を決めるべき理由【有名精神科医が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

長生きはうれしくもあり怖くもある…というのが、多くの人の認識ではないでしょうか。怖いと感じる理由の1つが「認知症」であることも間違いないでしょう。老年精神科医である和田秀樹氏は、実際に多くの高齢者から認知症予防について質問されるそうです。今回は、そんな和田秀樹氏による著書『和田秀樹の老い方上手』(ワック)から一部抜粋して、認知症のリスクや不安とどう向き合うべきか解説します。

80代になったら誰だって認知症になる

老年精神科医という仕事をやっているといちばんよく質問されるのが、どうやって認知症を予防したらいいかということです。それが高齢者の方々の最大の悩みというわけです。

しかし、とても残念なことですが、認知症の予防は少なくとも現在の医学では不可能です。脳が老化して、アルツハイマー病の変性疾患が起こってしまうと、それによって脳細胞が他の細胞とシナプスでつながることが難しくなってくる。つまり、使いものにならない細胞がどんどん増えていくというのが、アルツハイマー型認知症のメカニズムです。

私が以前勤めていた浴風会という老人専門の総合病院では、亡くなった人の解剖を年にだいたい100例ぐらい行いますが、その際に脳を顕微鏡でのぞいてみると、85歳を過ぎてアルツハイマー型に変性した神経細胞がない人はいないことがわかります。画像診断をしてみると、80歳過ぎて脳が縮んでいない人もいない。だから、年をとって顔にシワがない人がいないのと同じで、認知症というのは老化現象の一つなのです。

しかし、脳の老化だとか、萎縮だとかの変性は止めようがなくとも、実用機能ということを考えたらまだまだ救いがある。

たとえば、脳の状態だけを見れば、さっき言ったように85歳以上の人は全員アルツハイマー型の認知症になってはいても、テストをやってみると認知症の症状がはっきりしている人は4割しかいません。さらに、日常生活に差し支えるレベルの認知症ということになったら16%しかいないわけです。

ただ、85歳の時は4割だったものが、90歳になると6割になり、95歳になると7割を超えるというように、年をとればとるほどアルツハイマー型認知症の割合は増えていく。だから認知症の予防はできないけれど、発症を遅らせることはできる。認知症になるのが遅くなれば、寿命が同じなら認知症でいる期間が短くて済むわけです。

認知症になる前に、たとえば90歳で亡くなったら、うちの親は認知症にならないですんだということになる。認知症にならなかったというのはたいがいそういうことですから、認知症になるのを遅らせることができれば、認知症になる前に死ねる可能性が高くなるということです。

だからまず、認知症というのは遅かれ早かれ誰でもなるものだという覚悟を決めることです。そのうえで、認知症になるのをできるだけ遅らせる。認知症になってからもなるべく進行を遅らせる。この二つが重要なポイントになります。

頭を使い続けること、いま出来ていることを続けることが大切

具体的に言えば、軽いもの忘れが始まったとしても頭を使い続けるとか、意欲を衰えさせることなく、いま出来ていることをなるべく続けるということです。

認知症になったら一律に運転免許を取り上げることが現在の法律では決まっているわけですが、それは認知症の高齢者にとって逆効果です。ブレーキとアクセルを踏み間違えたり、逆走したりして高齢者が起こした事故が問題になっていますが、そのほとんどは認知症によるものではありません。むしろ逆です。

だって、認知症になったら免許を取り上げられるわけですから、大事故のほとんどは認知機能検査にパスした高齢者が起こしていることになります。

つまりペーパーテストの成績と運転技能にさほど相関性があるわけではない。にもかかわらず、そういう思い込みが非常に激しくなっていて、そのために免許を返納してしまうと、活動範囲が狭まって、外出する機会も減ってしまう。明らかに認知症になりやすくなるわけです。

そういう意味で、いま出来ていることをなるべく続けるべきだし、頭を使うという意味では仕事を続けたほうがいい。あるいは趣味のサークルもなるべく続けること。そういうことが認知症を遅らせるためにはとても大事です。

それでも厄介なのは、人によってやはり運・不運があって、たとえば、進行がすごく速い若年性認知症といわれる病気にかかってしまうと、1、2年のうちにどんどん悪くなって、人と話が通じなくなったりしてしまう。

また、頭を使っていても、なる人はなってしまいます。レーガン米大統領とかサッチャー英首相のように、どんなに頭を使う仕事をしていても、どんなに頭がいい人でも関係ない。

ただおそらくレーガンさんやサッチャーさんは、大統領や首相になっていなかったらもっと早く認知症になっていたと思いますよ。認知症っていうのは、頭を使い続ければ続けるほど進むのを遅らせられるけれど、使い続けていてもなる人はなるということです。だとすると、ある一定以上、認知症がひどくなった場合の準備をしておくことも必要になる。

たとえば老人ホームを探すとか、介護保険について検討しておくといったことです。

備えあれば憂いなし…介護保険やサービスについて勉強しておく

介護保険って、実は40歳を過ぎたら給料から天引きされます。65歳を過ぎると、今度は、年金から介護保険料を引かれてしまう。にもかかわらず、自分がボケたり寝たきりになって要介護の状態になるまでに、介護保険の申請方法とか、どんなサービスを受けられるのかといったことを事前に勉強している人はほとんどいません。なってからあわてるケースが多いのです。

さっき言ったように、認知症になってからも頭を使えば使うほど、以後の進行が遅くなります。だからデイサービスのようなところに行って、頭を使う遊びとかをすることで進行を遅らせられるわけです。

だけど、事前に準備していない人たちほど、あんなところへ行くのはいやだって言い出すから、そうなる前に、自分が認知症になったらデイサービスでどんなことをするのか知っておくとか、身の回りのことができなくなったらどこの老人ホームに入るかということも前もって決めておいたほうがいいと思います。

いまは体験入居というシステムがあるから、ちょっと入居してみて、たとえば食べ物が口に合うかどうか試してみるといいでしょう。いまは老人ホームのほとんどが、健康にいいからってやたらに薄味のものを食べさせようとします。

まあ大概まずいですから、多少体に悪くたってうまいものが食べたいという人は美味しいものを出すところを探すとか、介護職員のサービスをチェックしておくとかね。

スタッフには当然、いい人も悪い人もいるわけだから、それによって老後の暮らしはずいぶん違ってくる。だから認知症になってしまったあとのサービスはけっこう用意されているので、なってしまってからどういうサービスを受けようとか、どういう老人ホームに入ろうかと考えるよりも、備えあれば憂いなしで、事前に検討しておくことが望ましい。

誰もが認知症になるのを不安がっていますが、その不安がいくらか軽くなるだけでもメンタルヘルス的にはいいと思います。運悪く進行の速い認知症になってしまってパニックになるんじゃなくて、そうなってしまった時のための対策はいっぱいありますから、ちゃんと勉強をしておくべきでしょう。

和田 秀樹
精神科医

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