直接の面会「一番うれしい」 それでも…新型コロナ5類移行から1年、高齢者施設は気の抜けない日々が続く

母の木村恭子さん(左)に寄り添い、会話を楽しむ古屋洋美さん=南九州市知覧の特別養護老人ホーム音野舎

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが「5類」に移行し、1年が過ぎた。人の流れや経済活動が復活し、コロナ禍前の日常が戻りつつある中、県内の介護施設でも面会などの制限緩和が進む。一方で、重症化リスクが高い高齢者をケアするだけに、感染対策の徹底を続ける。

 「きょうはお父さんのところに行くよ」

 青空が広がった5月中旬、古屋洋美さん(56)=南九州市=は、母の木村恭子さん(83)がいる同市の特別養護老人ホーム(特養)「音野舎(のんのしゃ)」を訪れた。今年2月に93歳で亡くなった父・敬一さんの墓参りに連れて行くためだ。恭子さんはうれしそうに目を細める。

 ホームは今年4月、直接面会を再開したばかり。昨年の5類移行に合わせ、制限を撤廃する予定だったが、「第9波」の流行でさみだれ式に感染が起き、延び延びになっていた。

 それまではコロナ禍の頃と同様に窓越しの面会で、スマートフォンの電話で言葉を交わしていた。恭子さんは腕の力が弱くなり、スマホを長く持っていられない。耳も遠くなっている。洋美さんは毎週のようにホームを訪れたが、顔を見るだけの日々が続いた。
 
「体に触れられて、すぐ横で声を聞けることが一番うれしい」と洋美さん。母娘の会話を見守ったケアマネジャーの安藤由紀子相談室長(46)は「会いたくても会えず、触れることもできずに亡くなった人もいた。誰にも二度とそんなつらい思いをしてほしくない」と語った。

 さつま町の特養「さつま園」は、5類移行に合わせて面会を再開した。柿添信義施設長(72)は「オンラインや窓越しで会うのとは利用者の顔色が全然違う。家族の存在は大きい」と実感する。

 とはいえ、この1年が順風だったわけではない。今年3月には特養やショートステイ利用者、職員に感染が相次いだ。感染者と非感染者の活動領域を分ける「ゾーニング」を行い、面会も再び制限した。

 感染は断続的に発生、収束して面会制限が解けたのは5月に入ってからという。柿添施設長は「5類になっても対策は変わらない。慌てずに対応した」と振り返る。

 園では5類移行後も月1回、感染症対策会議を開き、その時々の状況に合った対応を確認する。感染者が出た場合の独自のマニュアルも用意している。職員のマスク着用の徹底も続ける。柿添施設長は「マスクで表情を伝えられず申し訳なく思うが、感染は利用者の命に関わる。医療機関とも連携しながら、今後もコロナと向き合っていく」と語った。

 県は昨年6月、高齢者施設向けの感染対策マニュアルを5類移行を踏まえ改訂した。それまで求めていたPCR検査での陰性確認は不要としたが、濃厚接触者の特定、感染した職員は回復しても発症から10日間は利用者との接触を避けるよう要請する。

 県高齢者生き生き推進課は「インフルエンザなど他の感染症と併せたマニュアル作成も検討したい」としている。

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