島唯一の診療所で機器故障 更新は数カ月先? 現場の医師が“SOS”…投げかける課題 長崎

故障した心電図モニターの前で離島医療の窮状を語る西倉さん=5月10日、長崎市、高島国民健康保険診療所

 離島の診療所が危機にひんしている-。長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト(ナガポス)」に今月上旬、長崎市高島町唯一の医療機関で、市が開設している高島国民健康保険診療所の西倉哲司所長(66)からの“SOS”が届いた。状態の悪い患者の診断と治療に必要な心電図モニターが故障したが、市は8月にならないと更新できないとしているという。投稿後に市が対応を改め事なきを得たが、離島医療現場の環境整備の課題が浮かびあがった。
 心電図モニターは、患者の血圧や脈拍、酸素量などを表示する装置。西倉さんによると、患者の状態をリアルタイムで把握し適切に処置するため、救急外来の現場に必要不可欠な基本装備だ。実際に昨年、心筋梗塞を患った島民が診療所内で心肺停止となった時にも使われ、早期の蘇生処置につながった。
 ところが3月上旬、急にモニターが動かなくなった。すぐに市に連絡したが、予算がなく、購入に時間を要すると説明を受けた。具体的には6月開会の定例市議会に補正予算を計上。承認後は条例に基づき、複数の業者から見積もりを取り、業者を決定する。業者側のスケジュールなども考慮すると更新は8月中旬になるとされた。
 「このままでは本土では避けられるはずの死が高島では避けられなくなる」。危機感を持った西倉さんは今月、ナガポスの存在を知り6日に投稿。「本土でも、離島でも、急変時に同じ医療サービスが受けられるようにするのが、行政の役割ではないか」と窮状を訴えた。
 長崎新聞は投稿を受け、すぐに西倉さんに連絡し10日に取材に行くことを決めたが、8日に西倉さんから「市から再度連絡があり、新しい装置を購入するまでの期間、代替機を借りられることになった」と連絡があった。代替機は15日に診療所に届いた。
 西倉さんは胸をなで下ろしたが、「予期せぬ機器の故障などに備えた予備費を前もって計上しておいた方がいい」と市に提言した。
 市地域保健課によると、市が管理する医療現場の設備は、耐用年数に応じて随時更新しているが、突発的な故障の場合は更新に一定の期間がかかる。予備費はあるが額が少なく、「今回のように高額な機器には対応できない」とする。今後は市全体の予備費で対応できるよう財政担当者と協議するとともに、故障前の早期の機器更新に努めると説明した。

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