70代・年金月18万円…妻に先立たれた「昭和タイプの男」、子どもたちに疎まれ老人ホームに入所も、思わず半年で飛び出した「まさかの理由」

(※写真はイメージです/PIXTA)

かいがいしく尽くしてくれる妻に先立たれ、呆然とするある男性。子どもたちから勧められて施設への入居を決めるも、せっかく決まった先から退去することに…。なぜそのようなことが起こるのか。実情を見ていく。

威張り腐っているが…「まるで幼児」な、家事力ゼロの昭和夫

古本として購入した女性雑誌に掲載されていた広告の内容がひどすぎると、SNSで話題になっている。およそ半世紀前の女性向け雑誌に掲載された、家電の広告だ。

ダイニングにどっかり座った夫が、キッチンに立つ妻へ「オイ!」と命令口調で要求を突きつけ、そのたびに妻は「ハイ!」と笑顔で答え、手際よく対応していく。この内容から、当時の女性の大変さがしのばれるが、令和のいま、万一このようなふるまいがSNSで拡散されれば、炎上は不可避だ。

男女雇用機会均等法が施行されたのは、日本がバブル経済に沸き立つ1986年。だがその後、バブルは崩壊し、失われた30年ともいわれる長い不況が訪れる。

その間、日本人の給料はまったく増えず、高度成長期からバブル時代までに多くあった、夫ひとりの収入で家計を支え、妻が専業主婦として家族に尽くすというモデルは激減。共働きがスタンダードとなり、夫婦2馬力でどうにか家計を回している、という家庭が一般的になった。

ならば、上述したような「妻に命令」するだけで一切家事をしない夫はもちろん、共働きとして、片方に大きく家事負担がかかるような家庭の運営スタイルは減っているのか…というと、実際はそうでもないようだ。

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』によると、60歳未満の現役世代において、妻の平日1日の平均家事時間は、「30代」が最⾧で253分。最短の「20代以下」でも226分だった。一方の夫は、「20代」の69分が最長。最短の「50代」では39分と、妻の6分の1程度の時間しか家事をしない。

休日も、妻は「40代」の281分が最長、「20代」の237分が最短だ。しかし夫は、最長が「30代」で110分。最短は「50代」で64分。妻は平日も休日もフル稼働なのに対し、男性は休日は家事時間は増えているものの、それでも妻の1/2~1/3程度に過ぎない。最も家事をしない「50代」に至っては4分の1にも満たない。

日本人の平均寿命は、男性が81.05年、女性が87.09年となっている。夫婦の場合、男性のほうが女性よりも1~2歳程度年上の組み合わせが多い。そのため、男性はいつまでも「妻に世話してもらえる側」という意識がなくならないのかもしれず、女性に至っては、「自分が世話するしかない」というあきらめの心境に至っているのかもしれない。

妻に先立たれ…「老人ホーム」への入居を勧める子どもたち

まさに「昭和モデル」型の人生を生きてきた、70代のある男性。人生の途中、男女雇用機会均等法の施行も、バブル崩壊も、平成不況も経験してきたはずだが、ついに意識をアップグレードできないまま、「オイ!」とドスの利いた声で、妻に幼児のような要求を突きつける、イタいシニアになってしまっていた。

ところが、笑顔で要求にこたえてくれていた、2歳年下の妻が急死。

食事も食べさせてもらえず、汚れ物も洗ってもらえない男性は、あたかも年金受給資格を有する幼児のような状況になってしまった。

「姉貴、親父がかわいそうじゃないか。引き取ってやれよ」

「冗談じゃないわよ。気の毒がるならあんたのところに送り込むわよ!」

「お義姉さん、お願いだからやめてー!!」

娘や息子、果ては息子の嫁にまで敬遠される、気の毒な高齢父。

子どもたちは相談のうえ、自宅を売却して老人ホームに入居させしてはどうかと考え、父親に話を提案した。

「身の回りのことは、全部周りの人がやってくれるよ?」

「同世代が多くて、話し相手に困らないよ?」

子どもたちの提案に、季節外れのヨレヨレの服を着た父親は、黙ってうなずいた。

複数の施設のパンフレットを見比べ、担当者からも話を聞いたうえで、月18万円の年金と預貯金、郊外の築古の戸建てを売却したお金で入れる、医療や介護のフォローがしっかりしているホームを選び、無事に入居が決まった。

「申し訳ないけど、ホームに入ってくれて安心したよ」

「とても家では面倒見切れないもの。お母さんがあんなに甘やかすから…」

子どもたちは一安心した。

「施設のスタッフも入居者も、親父の部下じゃないんだから…」

ところが半年後。突然、父親がホームを退所するといいだし、子どもたちは愕然。

話を聞けば「ちっとも大事にしてもらえない」と、耳を疑うようなことをいう。慌てた息子が、一体施設でどんなことがあったのかと話を聞き出すと、出てきた話は、次のようなものだった。

・サービスはいいが、ビジネスライクで他人行儀な接し方に孤独を感じる

・ほかの入居者と話が続かず、孤独を感じる

・周囲の人たちはレクリエーションに夢中になっているが、自分はなじめず、孤独を感じる

・なぜ、こんなに思い通りにならない環境なのか

「そりゃあそうだろうよ、施設のスタッフも入居者も、親父の部下じゃないんだから…。周囲の人と楽しくやっていけないのは、自分の心がけの問題じゃないの?」

息子があきれると、

「母さんなら、そんなこと言わなかった…」

と、ポツリ。

「この期に及んでなにをいっているんだか…」

いったんは息子の家に引き取られていった男性だが、今度こそ終の棲家となる施設を探すため、2人の子どもたちは血眼になって奔走している。

入居前の施設見学は必須だが、チェックすべきポイントは多岐にわたる。とくに重要なのが「入居者」についてだ。施設によって、要介護者のみ、自立している人のみ、要介護者も自立している人もOKなど、条件はさまざまだ。同じような入居条件でも、要介護者が多いのか、自立している人が多いのか、認知症患者が多いのか、施設によっても違いある。そこを確認して決めないと「人と合わない」ことになりかねず、退去理由になってしまうケースもあるのだ。

[参考資料]

国立社会保障・人口問題研究所『第7回全国家庭動向調査』

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