5月23日は、高橋名人の誕生日だ。1980年代から日本のファミコンブームを牽引し、コントローラーのボタンを“1秒間に16回”押す「16連射」を披露した高橋名人。当時の子どもたちの神様のような存在だった。
その人気は映画の公開や、名人をキャラにした漫画までも作られるほど。修行で研ぎ澄まされる必殺技、強力なライバルの登場など、さながら熱血スポ根漫画のごとき展開に子どもたちは夢中になった。
そこで今回は、1980年代のファミコン時代を語るうえで絶対に外せない高橋名人の「伝説」を振り返っていこう。
■連射でスイカが木っ端みじん!? トンデモ特訓やハラハラドキドキ対決に子どもたちはクギヅケ
今から38年前の1986年7月20日、実写映画『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』が公開された。夏休みにぶつけたこの映画は、アニメ映画『RUNNING BOY スター・ソルジャーの秘密』と二本立てで、こちらでは主題歌の歌唱を名人が担当している。
映画タイトルにも登場する毛利名人こと毛利公信さんは、高橋名人がハドソンに招いた際に『スターフォース』で高得点をマークしたため、ゲーム大会「全国キャラバン」に参加してもらうようになったファミコン名人である。
映画では、公開のひと月前に発売された『スターソルジャー』で対決する展開が描かれるが、オープニングでの特訓シーンはインパクト十分。毛利名人は集中力を鍛えるために、プールサイドでトランプタワーを作り、箸で豆を仕分け、ラジコンカーやピアノなどスマートな特訓を行う。
その一方で高橋名人といえば、素手で岩壁を登り、工事用ドリルで地面を砕き、右手指先だけでバイクを止めるなどトンデモ特訓を行うのだ。特に“16連打”でスイカを粉々に砕いたシーンは圧巻で、今なお語り継がれている。
後に、高橋名人は自身のブログで、映画フィルムで連射シーンを計測したところ「86年の私は、“17連射” が正解だった」とつづっている。全盛期ともいえる27歳の高橋名人は、やはり「すごすぎ」だった。
■伝説だらけ、野生味たっぷりの脚色モリモリな漫画『高橋名人物語』
そんな高橋名人の半生を題材に描かれたのが、河村一慶さんによる漫画『ファミコンランナー 高橋名人物語』だ。小学館の漫画雑誌『月刊コロコロコミック』で1986年から1988年まで連載され、コミックス全6巻が刊行された。
同作は、名人本人から聞いた話に脚色をふくらませたフィクション。その内容はというと、小6の夏休みに野生にかえった名人が、木々を飛び移り大量のウンコを投げることで「新しいセミ採り」をしたり、トカゲの尻尾がイカゲソよりもおいしかったから「トカゲソ」と名付けて集めていたり、北海道なのにライオンやパンダに見守られながらワニを投げ倒したりと、現実離れした野生味がたっぷり。
成長してからも、連打で丸太をきれいに等分割り、女の子のスカートをめくってパンツに書かれたファミコン大会の予定を確認、ゴキブリが考えた汚い材料で作るハンバーグを美食家に食べさせるなどなど、とんでもない展開ばかり。
とはいえ、1986年に発売されその後の人気シリーズとなったファミコン用アクションゲーム『高橋名人の冒険島』でも野生的なキャラとして描かれていた高橋名人。創作と真実の区別より、面白さ優先の子ども読者にとっては、漫画の中の高橋名人はもう一つの憧れの姿だったのかもしれない。
高橋さんは30年近く在籍していたハドソンを2011年5月31日付けで退社し、現在は『コロコロチャンネル【公式】』などで活躍している。本日で65歳の誕生日を迎えたが、名人は2022年5月にYouTubeでNintendoSwitch『マリオパーティ スーパースターズ』の連射ミニゲーム「れんだでサンボ」のプレイ動画をアップし、1秒間に12連射という超技術を披露。今もその腕前は健在だ。
1980年代に登場した新しい玩具・ファミコンに子どもたちは夢中になったが、高橋名人は「ゲームは1日1時間」と親たちの気持ちを代弁していた。現在、ソシャゲにはまってスマホを手放せない私たちにとっては、耳の痛い金言である。