状況証拠もとに「殺意あった」 検察の主張を全面的に認定 青森県七戸町の知人殺害・公判争点

 殺人など七つの罪に問われた本籍青森県七戸町、住所不定、無職の被告の男(37)の裁判員裁判。青森地裁が22日に言い渡した判決は有期刑として最長の懲役30年だった。殺人、殺人未遂、放火の各事件は直接的な証拠がない。しかも被告が否認する中で、最大の焦点は、検察側が積み上げた状況証拠を裁判所がどう判断するかだった。判決は、検察側の主張を全面的に認める形となった。

 殺人事件について、裁判体は、亡くなった工藤勝則さん=当時(64)=の発見状況や専門家の見解などを基に(1)事件性(2)犯人性(3)殺意-を検討。後退する除雪機が自走する力だけでうつぶせの工藤さんの頭に乗り上げる可能性は低いとし、事件性を認めた。

 その上で、被告と工藤さんが最後に目撃された時刻から工藤さんが発見されるまでの約30分間で、第三者が工藤さんに接触した形跡はなく、事件の第1発見者が被告だった点も踏まえ「犯行機会があった」と指摘した。被告に殺害動機があるほか、行為の危険性を認識していた点から、殺意を認定した。

 殺人未遂事件については、軽トラックの後輪ブレーキホースを被告が切断したと認めた。一方、前輪ブレーキは利く状態だったため「ブレーキホースが切れたことによる事故」とする弁護側の主張を否定。争点の殺意に関しては、車両を海に転落させる危険性を被告が認識しており「殺意があった」と結論づけた。

 複数の放火事件は、火災発生時に被告が現場付近にいた点に加え、わずか7日の間に、いずれも被告が仕事上でトラブルを抱える関係先で5件の火災が発生したことを「偶然とするのは不合理」とした。

 また、いずれの事件についても、法廷での被告の証言は「内容が不自然、不合理で信用できない」とし、退けた。

 有期刑の上限となった司法判断に、青森地検の中川知三次席検事は「長期間にわたり裁判員、裁判官に多数の証拠を丹念に検討していただいた結果」とコメントした。

▼主文後回し 理由朗読3時間/被告、身じろぎせず

 青森地裁の第1号法廷。開廷の2分前、上下紺のスーツ、青のネクタイ、短髪姿で現れた被告は一礼して入廷した。弁護人の隣の席に腰かけると、傍聴席に何度も視線を向け、ネクタイを直すしぐさを繰り返し、やや落ち着かない様子を見せた。

 「判決宣告は、厳粛な法廷で被告によく聞いてもらいたいので、主文は最後に述べることとします」。主文後回しは従来、厳刑を言い渡すケースが多いだけに、藏本匡成裁判長がこう告げると傍聴席にはざわめきが広がったが、「(判決理由の朗読に)3時間程度かかる」との説明もあった。朗読は途中に挟んだ20分の休憩を除き、実際約3時間に及んだ。被告は証言台に座り、裁判官のいる正面を向き身じろぎせず聞いた。

 「さあ、それでは主文を述べますので、被告はその場に立ってください」と裁判長に促された被告は、手を後ろに組んだ状態で起立。「被告を懲役30年に処する」。裁判長がやや語気を強めて主文を告げた。被告を教え諭す説諭はなかった。

 被告はじっと前を向いたままだったが、閉廷を告げられると深く頭を下げ、証言台の席に座り込んだ。

▼傍聴希望者が殺到/青森地裁

 殺人など七つの罪に問われた被告の判決公判が開かれた22日、青森地裁の第1号法廷前には午後1時10分の開廷前から傍聴希望者が列をつくり、同地裁の刑事裁判でまれに見る注目の裁判となった。

 同法廷は72席。法廷内の被害者家族保護の観点から、空席とした3席を除く69席(記者席16席)が埋まり、開廷後も法廷外で傍聴のチャンスを待つ希望者が10人以上いた。傍聴席に座ることができた人が休廷中に席を立ってもトラブルにならないよう、急きょ傍聴券が配られた。

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