若者は自分の在りたい姿を自分で考え、大人はそれに寄り添う――「子どものウェルビーイング」を意識できる社会を目指して

Day1 ブレイクアウト

日本の子ども・若者は自己肯定感が低く、社会に対する自己有用感も低い――。こうした課題は指摘されているものの、教員不足により学校現場も苦しい状況に置かれている。子どものウェルビーイングとは何か、そのために大人は何をするべきなのか。また大人たちのウェルビーイングはどう向上させるのか。さまざまな形で教育に関わるトップリーダーたちがSB国際会議2024丸の内に集い、会場も巻き込みながら議論を繰り広げた。(横田伸治)

ファシリテーター
青木茂樹・SB国際会議 アカデミック・プロデューサー/駒澤大学 経営学部 教授
パネリスト
岡田晴奈・ベネッセホールディングス サステナビリティ推進本部 常務執行役員
平岩国泰・特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール 代表理事
庄子寛之・ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 研究員

  • 対話でしか未来の教育は変わらない――庄子氏
庄子氏

まずはベネッセ教育総合研究所の庄子寛之氏が取り組みを紹介した。小学校教員の経験もある庄子氏は教員の人手不足を深刻に受け止め、「2024年度の東京都教員採用試験(小学校)の倍率は、過去最低の1.1倍。問題は教員の質ではなく、産休や育休を取得した教員の代わりがいないということ。他のクラスの教員が受け持つしかない」と警鐘を鳴らし、併せて教員の業務の再定義を訴えた。

その上で「子どものウェルビーイングは大人のウェルビーイングから」を唱え、同社で進めている「未来の教育を考える会」を紹介。教員などの教育関係者や地域の保護者などが参加し、これからの教育について対等に対話しながら未来の教育を考える場だという。これまで、福岡や名古屋、東京などで開催してきた。最後に庄子氏は「社会は変わり続けているのだから、学校も変わらなくてはいけない。対話でしか未来の教育は変わらない」と大人と子どもが対話し続ける重要性を強調した。

  • 学校は子どものやりたいことを叶える最適な場所――平岩氏
平岩氏

放課後NPOアフタースクールでは、放課後の学校施設を活用し、小学生向けの体験活動を展開している。「市民先生」と呼ばれる講師として地域人材を巻き込んでいる点が特徴で、工作や料理、スポーツなど分野は多岐にわたる。同法人の平岩国泰氏は「学校には理科室も調理室もあり、子どものやりたいことを叶えるには最適な場所。放課後の時間帯で、学校を二毛作のように再活用すると同時に、教員は自分の作業に集中してもらう」と意義を語る。

平岩氏は、鉄道好きの利用者が、アフタースクールでの対話をきっかけに鉄道写真展の開催を経験し、自己肯定感が高まっていったというエピソードを披露。子どものウェルビーイングのポイントを「ありのままの存在の受容」「自分の行動の自己決定」「誰かの役に立てる経験」「指導ではなく共感・応援してくれる伴走者」――の4点と指摘した。

  • まず、親のウェルビーイングを実現すること――岡田氏
岡田氏

ベネッセホールディングスの岡田晴奈氏は企業の立場から、事業を通して子どものウェルビーイングを目指す取り組みを語った。同社では2022年に「ベネッセ ウェルビーイングLab」を設立。ウェルビーイングを深める活動として対話の場を提供しており、「子ども本人がウェルビーイングの概念を理解することは困難」だとして、親子で参加するワークショップを開発したという。

小学生の保護者らが集まり、「子どもの幸せとは?」を自由に議論した回では、複数の居場所があること、自己肯定感を高めること、大人が幸せを定義しないこと、といったポイントが見えてきた。さらに、「親のウェルビーイングを実現しないと、子どものウェルビーイングにもつながらない」といった意見も出たという。岡田氏は「学校や放課後も含め、子どもと信頼関係を結べる大人の存在が重要となる。まずは家族が対話していくべき」と訴えた

ファシリテーターの青木茂樹氏は、自身が生活拠点を置く[^undefined]デンマークの教育・社会システムを引用。まず土台とする親や先生からの愛情・信頼から、「自己選択、他者への貢献、自己の再発見」を育むようにしているという。そして「日本の子どもにこれらの機会をつくるために、学校・企業・NPO・地域が何をすればいいのか」とパネリストに質問した。
※セッション開催当時

庄子氏は「まずは教員自身が幸せになること。教員がもっと教育を緩く考えて、子どもともっと対話したり、自分のためにも時間を使えたらいい」と語り、平岩氏は「家庭の経済状況によって子どもの体験格差が生まれている。体験の提供こそ企業の出番だと考え、アフタースクールでも企業と連携したさまざまなプログラムを実施している」と事例を紹介した。岡田氏は「幸せについて、人と比べないことがすべての前提」と話し、ベネッセホールディングスが開発を進めている、保護者と子どもの対話をサポートするアプリケーションの構想を披露した。

質問する高校生。会場から活発に質問が出た

会場からも質問が相次いだ。真っ先に手を挙げたのは、サステナブル・ブランド ジャパンが提供する高校生向けプログラム「SB Student Ambassador」プログラムの参加者だった。高校生は「親や教員として子どもに関わっていなくても、個人それぞれができることは?」と質問し、平岩氏は学童など子どもと接するボランティアを提案した。そして平岩氏は「将来は楽しみですか?」と高校生に質問した。高校生は「大人になるのが怖いと思っていたが、いろんな人と関わる中で『大人は(今の自分から)意外と近いな。大人になるための今(という時間)なんだな』と思えるようになった」と答え、会場からは拍手が起きた。

また、無気力が理由の不登校生徒が増えている中で「学校に行っている子と、不登校の子の関わりの違いは?」との質問に対して、庄子氏は「統計以上に不登校が増えていると感じている」と述べた。平岩氏は「『子どもに選ばせるとろくな選択をしない』と大人が考え、詰め込み過ぎる実情がある。子どもを信じることから始めて、毎日同じクラスで授業を受けなくてもいいような、多様なセーフティネットが必要では」と回答。岡田氏も「日本の若者は就職活動まで、自分の選択や将来について自覚がないことが多い。自分の在りたい姿を自分で考え、そこに寄り添ってくれる人がいる状況が重要」と強調した。

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