【星野リゾート温泉宿「界 長門」宿泊記】温泉・食・街歩きで心が潤う山口旅

山口県、長門市。かつて歴代の藩主が訪れていた長門湯本温泉は、緑に囲まれた風光明媚な地に存在します。そんな歴史ある温泉街で星野リゾートが運営する宿「界 長門」に宿泊しました。自慢の温泉に癒やされ、街のそぞろ歩きを楽しみ、山口で採れた地の食材に舌鼓を打つ。心が豊かになれた1泊2日の宿泊記をお届けします。

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歴史ある温泉街にたたずむ「界 長門」

星野リゾートが行政とタッグを組み「長門湯本温泉観光まちづくり計画」として地域の再開発に取り組むなかで生まれた温泉宿が「界 長門」です。

ホテルの目の前に流れる音信川(おとずれがわ)を中心にそぞろ歩きを楽しむのも、温泉街らしい過ごし方のひとつ。川沿いにはたくさんのベンチが並び、そよ風を浴びながら自然豊かな景色を眺めることができます。

「藩主の御茶屋屋敷」がコンセプトの温泉宿「界 長門」に、早速入ってみましょう。

ロビーへ足を踏み入れると、まるで一枚の絵画のような景色が目に飛び込んできます。新緑の季節は鮮やかな緑が眩しいですが、春は一面が桜色に染まるようです。

壁に飾られた木原千春さんの作品「桜這雲図」と「桜這月図」や、器などの伝統工芸品も注目したいポイントです。

ショップコーナーには、ご当地スイーツや焼き物など旅の思い出になりそうなグッズが並んでいました。

ご当地部屋「長門五彩の間」とは

山口の伝統工芸「大内塗」の可愛らしい鍵と一緒に客室へ向かいます。今回宿泊する部屋は、別館に4室のみ存在する「特別室」。

「界 長門」の客室は、藩主が休む寝台をイメージしているそう。約72平米の広々とした和室にはソファやベッドが備わり、床で過ごし慣れていない人でもリラックスできる心遣いが感じられます。

ベッドボードは山口市の無形文化財「徳地和紙」で彩られ、シンプルな空間に華を添えています。客室を彩る「萩ガラス」「萩焼」「大内塗」「窓から見える景色」を加えた5つの要素から「長門五彩の間」と名付けられたのだとか。

坪庭付きの特別室。光の差し込む庭を向いて、のんびり寛ぐ至福のひととき。こちらは筆者お気に入りの場所です。

ぼーっと外を眺めながら、客室に備えられたアメニティを楽しみました。

冷蔵庫で見つけた「長門ゆずきちくん(有料)」。長門ゆずきちとは、こちらの地方で採れる酢橘、かぼすです。酸味が効いて甘すぎず、温泉のあとにぴったりの爽やかなドリンクでした。

スティック状の夏みかんの皮に砂糖がまぶされたお菓子は、止まらなくなる魅惑の味。

美しい茶器でルームアメニティのホットドリンクを楽しめます。

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何度でも入りたい「プライベート露天風呂」

坪庭の奥には、広々としたプライベートの露天風呂付き。そよそよと揺れる木々を眺めながら身体を温め、旅路の疲れをリセットします。目の前のもみじは秋になると赤く染まるようです。

洗面所はゆとりのある空間にダブルシンク。シンク横だけでなくシャワールームからも露天風呂へ出ることができ、とても便利でノンストレスでした。温泉宿では何度も入浴を楽しみたいので、使い勝手のよさは大切な要素だと思うのです。

すっかり気に入ってしまい、1泊という限られた滞在時間で3回も露天風呂を堪能しました。

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湯上がり処も充実の「大浴場」

続いて、旅館自慢の温泉施設をご紹介します。

「長門湯本温泉」の特徴は、源泉がぬるいこと。アルカリ成分が強く、神経痛、筋肉痛、冷え性、疲労回復、自律神経不安定症、不眠、うつ状態、末梢循環障害などに効能のある源泉掛け流しにそのまま入ることができます。内風呂にはそんな「ぬる湯」に加えて、湯温を高くした「あつ湯」も並んでいます。

奥には露天風呂も併設。

大浴場で素晴らしいのは、こちらの湯上がり処。音信川を一望できるソファに腰掛け、ご当地ドリンクで身体の中から潤しましょう。

筆者のおすすめは、ほんのり苦味の効いた「夏みかんジュース」。これを飲むために大浴場へ行きたいほど!

そしてなんと日本酒まで。こちらは「ラプラスヤチヨ」という、山口県萩市の八千代酒造から生まれたブランドのものです。モダンなボトルが素敵。

アイスキャンディーも。

テラス席もあるので、気候のよい季節はぜひこちらで涼んでみてください。山口県最古の温泉に癒やされ、自然に囲まれたロケーションに身を置き、すっと深呼吸。なんと贅沢なウェルネスライフでしょうか。

山口の恵みをいただく「特別会席」

夕食の時間になりました。季節の特別会席「牛と旬菜の瓦焼き会席」から、いくつかのお料理をピックアップしてご紹介します。

ドリンクは「長門ゆずきち」を使用したサワーを選びました。ほかにも、長門湯本温泉街で生まれたクラフトビールや山口の日本酒など、ご当地ドリンクが勢ぞろい。

神社の茅の輪をイメージした装飾の先八寸がやってきました。食事に集中できる半個室の席で、窓の外の緑を眺めながらマイペースに味わいます。

こちらは「烏賊の二色和え」。イカスミと大葉であえたイカは、トロンとなめらかな口当たりにコリコリ食感で、イカの摂取量が全国第二位だという山口ならではの逸品です。器は萩焼のもの。

続いて、有田焼の上で咲いた花のように美しい「ふく薄造り」。縁起物である「福」とかけて、山口では「ふく」と呼ばれているそうです。添えられた3種の薬味は、近海で採れた釜炊き塩、チリ酢、粒雲丹だれ。さまざまな味わいを楽しめます。

まずは塩でシンプルにいただき、素材の味を感じてみることに。コリっとした歯ごたえに、上品な旨味がじんわり。ネギやすだちと組み合わせても好相性でした。

チリ酢はもみじおろしと合わせてピリ辛にアレンジするのが筆者のお気に入り。てっさはもちろん、ふぐ皮にもベストマッチ。地酒をちびちび飲みながらなんて最高でしょうね。

オリーブオイルを合わせた「粒雲丹だれ」は、カルパッチョ好きの方にハマりそう。洋風でよいアクセントになってくれます。

こちらは「牛と鶏と旬菜の瓦焼き」。瓦そばから着想を得て、こだわりの食材を石州瓦で焼き締める調理法です。

ゆずきち果汁をサッとかけて、ベースは爽やかな味付けに。

醤油麹、ゆずきち胡椒、百姓庵の塩、ガーリックパウダー、粉山椒と、5つの薬味が並びます。とくにガーリックパウダーはご当地ならではの食べ方。ガーリックチップよりやさしく食べやすいのに、ほどよくパンチがプラスされます。

ほかにも蛤真薯、葛寄せ、揚げ物、そして釜で炊いたご飯など、逸品揃いの特別会席。地元の食材だけでなく、それぞれの調味料や器にストーリーが込められていて、最後まで印象に残る彩りに満ちたダイニング体験でした。

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夜の街歩き「音信あかりみちさんぽ」

夕食後は、週末の天候のよい日に開催されている「音信あかりみちさんぽ」に参加しました(人数限定、条件あり、要予約)。旅館のスタッフによる夜の街歩きイベントです。お昼の雰囲気とは一変した幻想的な川沿いを、ランタンを手に進みます。

足元に注意しながら飛び石で音信川を渡り、写真撮影のおすすめスポット「竹林の階段」を案内してもらいました。

「ゆずきち坂」や「紅葉の階段」などがライトアップされた姿は、この時間にしか見ることができません。また、光の少ない場所から空を見上げると、たくさんの星も肉眼で見えます。温泉街にまつわる歴史的な話を聞きながら、かつて藩主もここで癒やされていたのかと思いを馳せるひとときでした。

カラダが目覚める「早朝参拝そぞろ歩き」

爽やかな朝を迎えました。この日も朝からホテルのイベント「早朝参拝そぞろ歩き」へ参加することに。夜同様、スタッフによるガイド付きです(人数限定、条件あり、要予約)。

同じ場所も、朝と夜では全く違う景色に。この日はちょうどクローズされていましたが、長門湯本温泉の開湯の起源となった住吉神社にも参拝できるコースでした。早起きして軽く身体を動かすと、朝食と朝風呂がさらに楽しみになりますね。

山口の食材がずらり「桶盛り朝食」

目覚めた身体で向かうはダイニング。楽しみにしていた朝食の時間がやってきました。目の前にセッティングされた桶盛り朝食は「まごわやさしい」をテーマに栄養・バランスともに満点。

「山口とくぢ味噌」を使用した味噌汁は、目の前で温めてもらえます。ほんのり甘くて、これがもう何杯もおかわりしたくなるおいしさ。2杯目には別添えの海藻「アカモク」や「ゆずきち胡椒」を混ぜながら、味の変化を楽しみます。アカモクはかなり粘り気が強く、味噌汁の口当たりまで全く別物に変えてしまうほどインパクトがありました。ミネラルや食物繊維などの栄養素も言うことなし!

アジの一夜干し、烏賊しゅうまい、出汁巻き玉子に加えて、たくさんのものを少しずつ楽しめる和朝食。カラダが喜ぶラインアップでした。

ご当地楽「大人の墨あそび」

ロビーの一角に書院をイメージしたスペースがあり、こちらでは全国の「界」で開催されているご当地楽を楽しむことができます(人数限定、要予約)。

界 長門で開催されているのは、800年以上の歴史をもつ山口県の伝統工芸「赤間硯」を使用した「大人の墨あそび」。

簡単に赤間硯の特徴などを教えてもらいながら、実際に墨をすっていきます。

小学生ぶりの書道体験に、忘れかけていた墨の香り。なんだか懐かしい気持ちになりました。

こちらは30分ほどの体験で、あくまで気楽に遊ぶもの。気負わず書けるようにスタッフさんが促してくれます。「あえて利き手と逆の手で筆を持ったりしても味のある作品になりますよ」と教えてもらいました。

「あけぼのカフェ」でふんわり甘いスイーツを

長門湯本温泉街へ訪れたなら、必ず立ち寄りたいのが旅館併設のテイクアウト専門店「あけぼのカフェ」です。

こちらでは、どら焼きとドリンクが販売されています。この日のどら焼きは、夏みかん、ゆずきち、あずきの3種類。季節によって限定味の販売もあるそうです。

皮はふんわり軽く、あっさり歯切れがよいもの。写真の「夏みかんのどら焼き」は、みかんの酸味のおかげで「どら焼き」と聞いて想像するような重さはなく、とても食べやすかったです。コーヒー豆にもこだわり、どら焼きに合うものをチョイスしているのだとか。

目の前を流れる音信川には、ところどころに川床テラスが設置されています。こちらでのんびりいただくもよし。

どら焼き片手にそぞろ歩きを楽しんでもよし。「あけぼのカフェ」は宿泊者以外も購入できます。

ノスタルジックな温泉街で、心と身体をリセット

2024年5月現在、長門湯本温泉街は、小鳥のさえずりや川のせせらぎの音も聞こえてくるほど長閑。観光客で溢れかえることもなく、ノスタルジックで、どこか懐かしい場所でした。今や世界中から多くのツーリストが訪れる知名度の高い温泉街もよいけれど、そうそう、ひと昔前の日本の温泉街ってこんな感じだったはず。

自然いっぱいの環境に身を委ねて、地域の食材をのんびり味わい、温泉で心も身体もじんわりほぐれてゆく感覚を味わう。人混みの中で前進を求められる日々に、小休止をとれる場所。温泉の効能だけでなく、旅の効能にも改めて気付かされた1泊2日でした。

長門湯本温泉街のこれからの進化に期待しつつ、自然と共存した温もりのある雰囲気はいつまでも変わらないでと願いました。次の休みは、長い歴史が誇るホリスティックな温泉街に出かけてみてはいかがでしょうか。

界 長門

住所:山口県長門市深川湯本2229-1

電話:050-3134-8092(界予約センター)

料金:1泊1名 32,000円~(2名1室利用時1名あたり、サービス料・税込、夕朝食付き)

アクセス:JR「長門湯本温泉」駅より徒歩約15分

>>アメニティ・設備はこちら

公式サイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kainagato/

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