空き家を“にぎわいの拠点”に 昭和の面影を残す市場が夜市で活況 名古屋の夫婦が挑戦

全国の空き家の数が過去最多を更新したことが分かりました。そんな空き家を“にぎわいの拠点”に変え、街の再生に取り組んでいる名古屋の夫婦を取材しました。

時の移ろいとともに、衰退を余儀なくされた「地元の台所」。 「(店の数が)相当どんどん減って。歯がこぼれてくような形でなくなって」(平野屋精肉店 店主 平野隆さん) 昭和の面影を残す、名古屋の金城市場。しかし、夜になると―― 月に1度、開催される「夜市」で再び、活気を取り戻します。仕掛けたのは、空き家問題の解消に取り組む夫婦です。 「空き家を放置している大家さんは、どこかで後ろめたさがあると思う。後ろめたさで埋め尽くされた街をちゃんと変えていきたい」(小田井孝夫さん) 空き家に、再び息吹を。熱い思いで、様々な取り組みを進めています。

「空き家が点在、見えない空洞化が進んでいる」

4月、総務省が発表した「空き家」の数は全国で約900万戸と過去最多を更新。 愛知県でも、43万3000戸と過去最多を記録し、深刻な問題となっています。 「一見、街を歩いてると住宅街だなって見えるんだけれども。よくよく見ると空き家が点在している。そこに人が住んでいない。人の営みがない。見えない空洞化が進んでいる」(小田井孝夫さん) 名古屋市北区で不動産の管理を行う小田井孝夫さんと妻の康子さん。孝夫さんは、東京でライターとして活動していましたが4年前、亡くなった祖母から、複数の空き家を引き継ぎました。 「以前から古い建物だったり空き地だったりが簡単に駐車場になったりマンションになったり、いたずらな繰り返しという疑問は持っていたので、自分で決断できる土地がある以上はそういうふうにはしたくない」(小田井孝夫さん) そのひとつが「金城市場」です。

かつてのにぎわいを…市場再生に奮起

昭和30年に小田井さんの祖父母が開業し生鮮食品の店など、一時は20店舗ほどが入っていましたが―― バブルの崩壊とともに店の数は減少。6年ほど前には、精肉店のみとなってしまいました。 「半分ぐらいになった時には、やっぱりどうするかということで相当みんなで悩んであれなんだけど、まあ自然の流れだよと言って…」(平野屋精肉店 店主 平野隆さん) かつてのにぎわいを、何とか取り戻したい。奮起したのは、祖母から市場の管理を引き継いだ小田井さんです。 「金城市場をまた何かにぎやかにしていきたいと思っているってことは、最晩年のおばあちゃんには伝えていました。『やるならやりきれ(と言ってくれた) 』」(小田井孝夫さん)

月に1回の定期イベント「金城夜市」

老朽化した市場の一部分を改装。 去年にはイギリスのミュージシャンがSNSで金城市場を知り、ここでライブがしたいと音楽イベントの開催に至りました。 この成功をきっかけに、月に1回の定期イベントとして今年1月から始めたのが「金城夜市」。 「さっき夜市にご近所の人がたまたま来てくださって『小田井さんこういうことをやっていたのね』初めてきて喜んで帰ってくれて。どんなことをやっているか近くの人に知ってもらえたのがすごくよかった」(小田井康子さん) 「『金城市場またにぎやかになってよかったね』って言ってもらえるのがうれしい」(小田井孝夫さん) 4月に3回目の開催となった「金城夜市」には17店が出店し、500人ほどのお客さんで賑わいました。 「僕の好きなスタイル。夜市もあって(北区に)店を出そうと思った。よくないですか?この雰囲気が」(夜市出店者 稲垣雅也さん) かつて、この場所に祖父母が店を出していたという人は―― 「何もかも壊してしまうより、大事なものや、大切なものがそこにはなにか残っていて、今につなげていく意味でも素敵な取り組みだと思う。ありがとうございますとしか、感謝の言葉しか出てこない。」(当時の市場を知る人) また夜市を通じ、常設のテナントとしておにぎり屋さんが入りました。

借りたい人への仲介も

また、小田井さんが所有する別の空き家でも―― 「コロナで(ドイツ・ベルリンから)帰ってきたんですけど、帰ってくるときにインスタで物件募集したんですね。だれだれの友達みたいな感じでこの物件を紹介してもらったんですよ」(コロッケ屋みね 店主 嶺村歩さん) ドイツでコロッケ店を営んでいたという、名古屋市緑区出身の嶺村さん。空き家問題の解消に取り組む小田井さんに賛同し物件を自分の手でリノベーションしたといいます。 次なる目標は…なんとゲストハウスを作ること。 「みねの家です。ドイツ時代のお客さんも来てくれるんで、その人たちが泊まって名古屋を見ていけるような宿泊施設を作りたいなって」(嶺村歩さん)

「空き家」を昔以上に輝ける場所に

放置すれば、ただ朽ちていくだけ。でも、使い方次第で昔以上に輝ける。小田井さんは自分が管理する物件だけでなく、空き家を見つけては、所有者と連絡を取り、借りたい人への仲介もしています。 「幸い我々が持っていた物件はすごくいい出会いがあって、個性的な店が入ってくれてそのことで近隣の方もすごく喜んでくれた」(小田井孝夫さん) 「うちの空き家を取り壊すことをやめて、お店として貸すことにしてやっぱりやってよかったよっていう大家さんがいたから、そういう方に出会えるとほかの大家さんに声かけてもいいかなって思ったりもする」(小田井康子さん) 各地で深刻化する空き家問題。街の空洞化に「待った」をかける活動のシンボルとして、金城市場は温かな明かりを灯します。

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