【25歳・奇跡の長寿猫】が波乱万丈の人生を変えてくれた。その物語とは?

25歳の三毛猫ちゃん、と聞いて、驚かない人はいないでしょう。飼い主は児童文学作家の村上しいこさん。新刊『25歳のみけちゃん』(主婦の友社)は、古民家で弟猫2匹と暮らすみけちゃんの日々をつづったフォトエッセイです。みけちゃんと村上さんを訪ねたレポートをお届けします。

\\あなたの声をお待ちしております//
↓↓をクリックしてアンケートへ
【読者アンケート実施中!】ハマっていることも、お悩みごとも、大募集!!

古民家には三毛猫がよく似合う。
古い街道沿いにある1軒の古民家を訪ねた時にそう感じた。

主は村上しいこさん。ここでパートナーと3匹の猫と暮らしている児童文学作家である。

訪ねたのは、ここで暮らす三毛猫のみけちゃんと会うためで、みけちゃんは御年25歳と5カ月の猫。県の最高齢長寿猫として2022年に23歳で表彰されてから記録更新中とのことで、人間の年齢に換算すると、なんと116歳になるそうだ。

訪ねたのは、この地ではまだ肌寒い季節で、通された広い畳敷の和室にはだるまストーブが焚かれていた。その前に置かれた猫用ベッドの上に彼女はゆったりと身をゆだねており、私を見上げた。見知らぬ訪問者に対して泰然としたようすは、さすがである。

みけちゃんが猫界隈で有名になったのは、インスタグラムの短い動画がきっかけだった。キッチンの椅子からテーブルの上にひょいっと身軽に飛び乗るドレス姿の猫に、HappyBirthdayにテロップが入り、投稿によると「25歳をむかえた」とある。猫はテーブルの上でトーストに塗ったバターをおいしそうに舐めている。この動画は32.1万人ものページビューを集め、1.4万人のいいねを集めた。みけちゃん衝撃のデビューであった。

もともとこのインスタグラムは村上さんの作家活動の報告用で、この時点でフォロワーは数千人ほど。フォロワー数をはるかにしのぐ反響に村上さんは驚いた。しかもその動画を見たという出版社から「みけちゃんのフォトエッセイを出さないか」というオファーまで届いたのである。

そこで村上さんは、みけちゃんと2匹の弟猫専用のインスタグラムのアカウントを開設することにした。これが2023年の11月。日ごとにフォロワーは膨れ上がり、2024年5月現在は5.8万人。1カ月で1万人増えた計算である。

みけちゃんの毎日は、ご飯を食べ、部屋を歩きまわり、昼寝をし、と、ごく普通のシニア猫と大差ないが、歯がほぼ残っていてカリカリも食べられ、おむつ姿ではあるが足腰もしっかりしている。その姿に、村上さんが「おはようにゃの」「バターくれないなんて母ちゃんケチにゃわわ」などと軽妙なテロップをつけてアップすると、「勇気をもらえる」「私も頑張って生きたい」というフォロワーの声が、多い日に200人近く届く。日本だけでなく海外のファンも多く、もしかしたら世界一有名な三毛猫になったのかもしれない。

「勇気をもらえる」のは飼い主の村上さんも同じである。4月に発行となったフォトエッセイ『25歳のみけちゃん』の表紙には「あなたと生きる一日一日が愛おしい」という文言が書いてある。24年(みけちゃんを飼い始めたのは推定1歳)もの長きに渡りともに暮らす家族であるのだから、それも当然であるが、村上さんがみけちゃんと出会ってから人生が劇的に変わったことを考えると、その言葉の重みを感じざるをえない。

村上さんは、いつも笑顔を絶やさないきさくで明るい方だ。初めて顔を合わせたときから、おしゃべりがはずんで笑いが絶えなかった。その姿からはとても想像がつかないが幼い頃には児童福祉施設で暮らす時期があり、その後自宅に戻ってからも養母から激しい虐待を受け、小・中学校ではいじめに遭って育ったとのこと。中学卒業後は高校へ進学させてもらえず、飲食店で長く働いていたそう。

転機となったのは転職先の料亭での、現在のパートナーとの出会い。2000年に結婚し、村上さんは初めて自分の家庭を持つこととなるが、アパートで同居していた。前年の秋、6階にあったその部屋の開いていた玄関から、三毛猫が突然入ってきた。みけちゃんが村上さんの人生に登場した瞬間だ。

みけちゃんは部屋のソファに飛び乗り、そのままくつろいで寝てしまったとのこと。驚くのは村上さんもパートナーもそのまま受け入れ、この日からともに暮らし始めたことである。なんと大らかな夫婦! そしてその後すぐに村上さんの人生には大きな転機が訪れる。

その頃、村上さん夫妻は飲食店から独立して料理店を開くという決断をする。が、しかし店は閑古鳥が鳴き、わずか半年で閉店を余儀なくされてしまう。その時、預金通帳の預金残高はわずか数百円。すっからかんである。が、ここからの村上さんのポジティブパワーが素晴らしい。焼き肉店のパート従業員として働く傍ら、書店で見かけた『公募ガイド』誌から、賞金つきの童話コンテストに手当たり次第に応募を始めるのである。

これには不遇な少女時代に、教室にいられず家庭にも居場所がなく、ずっと図書室で本を読んでいた経験が生きてくる。何度も落選を続けてもくじけず応募し続けていると、ついに2001年、大手新聞社主宰の文学賞を受賞。2003年には児童文学作家としてデビューを飾る。村上さんは大学の文学部に属したこともなく、小説執筆の指導を受けたこともない。一介の焼き肉店のパートのおばちゃん(失礼!)が文学作家になったのだ。まさにドラマチックな人生の逆転ではないだろうか。みけちゃんが、村上さんに幸運を運ぶ天使であったことはもはや疑いようがない。

そこから順調に作家活動は続き、著作物は100冊を越えた。みけちゃんの弟となる猫2匹が増え、2021年には憧れであった江戸時代後期建築の古民家に越した。庭で季節ごとの花を育てながら猫たちとの平穏の日々。そんな中で知人から勧められて始めたインスタグラムで「我が子かわいさ」に投稿した動画が、冒頭のみけちゃんの姿だった。

ここからさらに村上さんに人生にまさかの転機が訪れる。「村上家の長女みけ」は「シニア猫の星」「奇跡の健康体」としてさまざまなマスコミから取材が引きも切らず。村上さんの人生は賑やかになった。

「元々あたしが主役デビューしたかったのにゃわ」と、みけちゃんは思っているかもしれない。とはいえ、さすがに25歳である。18歳でてんかん発作が始まり、今は夜中に何度も起きておむつを替えなくてはならない介護の日々だ。そしていつか「その日」が訪れることを村上さんは理解している。だからこそ「あなたと生きる一日一日が愛おしい」のだ。

インスタグラムでは、古民家から毎朝届く「おはようにゃわ」というみけちゃんの挨拶を、実に6万人近くの人が待っている。「普通に生きているだけ」の1匹の猫の姿は、命の尊さを伝えてくれ、多くの人の勇気となる。そこには村上さんの幸せもある。1日でもこの挨拶が長く続きますように、と祈らずにはいられない。

みけちゃんの飼い主 村上しいこさんのプロフィール
猫好き児童文学作家。三重県生まれ。『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)で第37回日本児童文学者協会新人賞、『れいぞうこのなつやすみ』(PHP研究所)で第17回ひろすけ童話賞を受賞、2015年に『うたうとは小さないのちひろいあげ』(講談社)で第53回野間児童文芸賞を受賞、『なりたいわたし』(フレーベル館)で第70回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞。著書多数。
【村上しいこInstagram】
https://www.instagram.com/shiiko222/

子猫時代の写真提供/村上しいこさん 撮影/奥山美奈子 取材・文/森信千夏


© 株式会社主婦の友社