2歳女児が車の窓に首を挟まれ死亡、今後の捜査の行方は? 元警察官僚の見方

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東京都練馬区で車に乗っていた2歳女児が5月21日、車の窓に首を挟まれ死亡する事故が発生した。

報道などによると、女児は後部座席に1人で乗っており、チャイルドシートは設置されていたがベルトを装着していなかったという。座席かチャイルドシートの上に立ち開いていた窓から女児が顔を出したタイミングで、母親が電動で開閉するパワーウインドウを閉めて首を挟んでしまった可能性があるようだ。

自宅を出発する際、母親が換気のために車の窓をいったんすべて開け、その後女児がいた右後部座席側の窓以外を閉めたつもりだったようだが、「後ろを確認していなかった」と話しているという。その後声をかけても女児から返事がなく、赤信号で車を止めて振りむいて気づいた母親が119番通報した。

首が挟まれた経緯の詳細は現時点不明だが、仮に母親が窓を閉めた際に女児の首を挟んでしまったとしたら、何か罪に問われることはあるのだろうか。刑事事件に詳しい澤井康生弁護士に聞いた。

●「刑事裁判まで発展する可能性は低い」

──どのような刑事責任を問われる可能性がありますか。

現時点では事実関係が不明なので、仮定の話ということになりますが、母親が後方を確認することなくパワーウィンドウを閉めたところ、女児の首を挟んでしまったという場合について検討します。

2歳児をチャイルドシートのベルトを装着させずに1人で後部座席に乗せた場合、2歳児が窓から顔を出したり、座席上で立ち上がって転倒するなどの恐れがあります。

母親は女児の親権者として子どもを看護する義務を負っています(民法820条)。そのため、母親としては、子どもが怪我をしないように後方を確認するなどして子どもの様子を注視する義務があります。

母親がそのような注意義務を怠り、子どもの様子を確認せずにパワーウィンドウを閉め子どもの首を挟んで死亡させた場合には、過失致死罪(刑法210条、50万円以下の罰金)または業務上過失致死罪(同法211条、5年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金)が成立します。

──今後の捜査の方向性はどうなることが考えられますか。

今回のような痛ましい事故について、実際に立件されて刑事裁判まで発展する可能性は低いのではないかと思われます。

確かに親権者の不注意によって子どもを死なせていることから、理屈上は過失致死罪や業務上過失致死罪の成立は否定できません。しかしながら、児童虐待などとは違い、本件はあくまで過失犯です。

過失犯の場合、過失の程度や行為態様、加害者本人の事故後の反省態度、他の遺族の処罰感情などを総合的に考慮し、起訴猶予となることも考えられます。

もともと過失犯は不注意で誤って他人を死傷させてしまった場合の犯罪ですから、故意犯と比較して法定刑が軽く設定されています。過失致死罪が成立するにとどまるのであれば、法定刑は「50万円以下の罰金」にすぎません。

特にこのような事故で一番ショックを受けているのはほかならぬ母親自身でしょうから、加害者であると同時に被害者的立場も兼ねているということもできます。

このような場合、他の遺族(特に子どもの父親である夫)の処罰感情も高くはないと思われますし、仮に起訴しても前科前歴がなければ執行猶予となる可能性が高いことに鑑みれば、上記事情を総合考慮して略式起訴で罰金刑または起訴猶予となることも十分に考えられます。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/

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