2のボノによるボブ・マーリー“ロックの殿堂入り”紹介スピーチ

YouTube: Rock & Roll Hall of Fame "Bono Inducts Bob Marley into the Rock and Roll Hall of Fame"

2024年、映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』の公開によって全世界的に改めて再評価されているボブ・マーリー。

そんな彼が1994年にロックの殿堂入りを果たした際のU2のボノによる紹介スピーチの翻訳を掲載します。

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今夜この場で、ボブ・マーリーはアイルランド人だと主張するのは少々無理があると思いますが(会場笑い)、どうかお付き合いください。

ジャマイカとアイルランドにはたくさんの共通項があります。ナオミ・キャンベル、クリス・ブラックウェル、ギネス・ビール、小さな緑の葉っぱ――つまりマリファナが好きなこと――。宗教。”先延ばし”の哲学――それは、明後日まで先延ばしにできることを、明日までにはやると言わないことです(会場笑い)。もちろん、自由がきくなら話は別です。

私たちの母国はどちらも島国ですし、どちらにも植民地だった歴史があります。だから、私たちは同じ苦しみを共有しています。私たちはアイデンティティを確立するために苦闘し、独立を成し遂げるために苦闘し、そして帝国の兵がようやく退いたあとも、脆く不確かな未来が私たちの前に残されていたのです。

ルーツ、目を覚ましたこと、立ち上がったこと、苦難、決して屈しなかったこと。そして暴力を伴うことの多かったそれらの苦闘の中で、人びとに理性をもって語りかけていたのが、ボブ・マーリーの歌声だったのです。だから初めてボブ・マーリーの曲を聴いたとき、私はその音楽を感覚的に感じていただけでなく、理解できたように思えました。

ダブリンで過ごしていた1976年当時の私たちは、パンク・ロックを聴いていました。だから私たちは、ザ・クラッシュを通して彼のことを深く知りました。また、EC(エリック・クラプトン)がカヴァーした「I Shot The Sheriff」もきっかけの一つでした。ボブ・マーリーのラヴ・ソングは胸を張って聴いていると言えましたし、苦痛を歌った曲は厳しくも心を癒してくれました。それが”タフ・ゴング”なのです。

彼の政治に口先だけのごまかしはありませんでした。彼の”自由の歌”は、自由という言葉に再び意味を与えました。踊る神に捧げる新しい賛美歌。”救いの歌(Redemption Song)”。ジャーは人びとの上に立たず、人びとと共にある”市民たちのヤハウェ”だと説いたセクシーな革命――そこでのジャーは人びとに溶け込んでいるだけでなく、楽しんでもいるのです。

“ユダのライオン”は、ユダ族の流れを受け継いでエチオピアで生まれました。その国は、ラスタファリ運動のすべてが始まった場所です。おそらく、そうだと思います。

私は妻のアリと一緒にエチオピアを訪れたことがあります。あの国ではどこに行っても、あちこちでボブ・マーリーの顔や、気高く聡明なソロモン王とシバの女王の肖像を見かけました。そしてそこでの彼は、神の教えを広めるのに相応しい格好をしていました。”私の民を解放せよ”という古くから伝わる願いの言葉――モザンビーク、ナイジェリア、レバノン、アラバマ、デトロイト、ニューヨーク、ノッティング・ヒル、ベルファストに広がった祈り。彼は”ドレッド・ヘアのキング牧師”であり、第三世界と第一世界の双方におけるスーパースターなのです。(会場拍手)

想像力が花開くことで、精神的な奴隷状態は終わりを告げます。あるころ、貧民街から新しい音楽が生まれました。カリプソを下敷きにしつつ、ニューオリンズを源流とするゆったりしたR&Bの影響を受けた音楽です。そしてルーズでのんびりとしたそのリズムはずばり、スキャンクと呼ばれました。スカ、ブルービート、ロックステディ、レゲエ、ダブ、そしてラガ――3台のBMWを乗りこなした男は、それらすべてを演奏しました。”BMW”――ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの頭文字ですね!だから彼はBMWを選んでいたのです。(編註:ボブの愛車はBMWだった)

ロックンロールには、若さ、風刺、戯画、プロテスト・シンガー、ゴスペル・シンガー、ポップ・スター、セックス・シンボル、それに成熟した救世主タイプの人物がよく似合います。そもそも私たちは極端なものを好むものです。だから私たちは、泥臭いブルースか清らかなゴスペルか、地獄の番犬か天使たちの一団か、といった両極端な選択を迫られます。ですがマーリーは、そのどちらかを選ぶようなことはしませんでした。かといって中道を歩むことなく、両極を追求し、極端なものをすべて受け入れて、調和を生み出したのです。彼にとっての調和とは、”ワン・ラヴ(一つの愛)”のことです。

彼はあらゆるものを同時に手に入れようとしましたが、彼自身にも実に様々な顔がありました。預言者、”魂の反逆者(Soul Rebel)”、ラスタ、マリファナの愛好者、型破りな男、”自然の神秘(Natural Mystic)”を纏う男、女好きな男、島育ちの男、家族を大切にする男、リタを愛する男、サッカー好きな男、ショーマン、シャーマン、ヒューマン(人間)、そしてジャマイカン!

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