“他人の財布”を使った謎解きゲームが半年待ちの大ヒット “すぐ答えにたどり着かない&ゲームとリアルの交錯”魅力を分析

話題沸騰の『人の財布』 ※画像はPARCOが運営するアートフィギュアブランド「1/ ONE SLASH」の公式X(旧ツイッター)『@parco_oneslash』より

通常、新品を購入し、素材に使われた革などの経年変化を楽しむものである財布。それが現在、若者の間ではポイントカードやレシート、学生証などがすでに入った『人の財布』(税込・6800円)なる商品が人気を集めているという。

この『人の財布』とは、どのような商品なのだろうか。

「架空の持ち主が存在し、すでに中身が入った財布のことです。そんな“使用済み”の財布をいったい誰が買うのかと思いきや、常に入荷待ち状態の人気ぶり。その理由は、財布の中身を紐解くことで、財布の持ち主に迫ることができるというゲーム性にあるようです」(トレンドライター)

もともと『人の財布』は2023年10月20日に、現実と仮想の間の曖昧な領域に物語をつむぎ出す、を謳い文句に掲げるクリエイター集団『第四境界』が商業施設PARCOのネット通販であるONLINE PARCOにて販売開始。すると、1日足らずで売り切れたという。

『人の財布』はその後も再販を繰り返し、24年4月16日には『第四境界』公式オンラインストアで6次販売を開始。24年10月~12月発送分の注文受付で、年内入荷分は最後となる。注文から入手まで半年待ちという、とにかく人気のアイテムなのだ。

「『人の財布』は、すでに入っている財布の中身から連想されるキーワードをネット検索することで、用意されたWebサイトにたどり着くことができる。サイトに入ると、架空の人物から直接メッセージが届くなど、まるでリアルと錯覚するような物語体験を楽しめるのが特徴です。

一見何の変哲もない財布であることが、謎解きゲームのリアリティを増幅させる面白いところ。『人の財布』は謎解きゲームの要素があるため、ネット上でのネタバレは禁止になっていました。それでも、購入者からはSNS上で盛り上がりたいという意見が多かったようで、4月16日の6次販売とともに、購入者を対象に“SNS利用上のガイドライン”も策定したとのことです」(前同)

『人の財布』の購入者によるSNSへの投稿が“解禁”されて以降X(旧ツイッター)では、すぐに、

《これを作った方々は天才ですか!!?》
《内容的に一気に出来ずに日数かけてやるやつで最初は待ち時間面倒だと思ったけどリアリティが出てくるから没入感めっちゃある》

など、興奮する声が続出している。

以前より“参加型”や“没入型”、さらには“謎解き”系コンテンツは人気だが、この『人の財布』がよりユニークなのは「ネットとリアルを“往復”できる」点だろう。

“没入型・謎解き”系コンテンツの進化について、弊サイトは若者研究の第一人者として知られるマーケティングアナリストで芝浦工業大学デザイン工学部教授の原田曜平氏に話を聞いた。

■SNS時代、日常生活に入り込む「考察・謎解き」

『人の財布』に代表されるような“没入型・謎解き”系コンテンツの魅力――前出の原田氏は、その魅力を「自分が主役、あるいは物語の登場人物として主体的に関われること」だと解説する。

「会話や推理を中心に参加者の中からオオカミ人間を見つけ出す人狼ゲームや、1つの会場に集まった参加者が、さまざまなヒントをもとに協力して、会場からの脱出を目指すリアル脱出ゲームのような、考察・謎解き系のゲームは根強い人気です」(原田氏)

このブームの波は衰えるところを知らず、今年2月にはリアルな物語体験ができるテーマパーク『東京ミステリーサーカス』(東京・新宿)がリニューアルオープン。推理小説の登場人物の1人になって、参加者たちとのディスカッションを通して犯人を探し当てるゲーム『マーダーミステリー』の人気が広まったりするなど、あらためて注目されている。

「人気の秘密は、ゲームや物語という“非リアル”でありながら、リアルに自分が主役、あるいは物語の中に出てくる1人として、あくまでも自分目線で楽しめることです」(前同)

一方で原田氏は、「SNS時代になって、考察・謎解きは人々の生活の一部になっている」と指摘する。どういうことか。

「SNS上のコミュニケーションを前提にエンタメ作品が作られるようになり、受け手もSNSでの口コミや反応なしにはエンタメ作品を楽しめなくなっています。常にSNS上でみんながどう思っているのかをチェックするのが、生活者にとっても欠かせない習慣となっている。

またSNS上の投稿で、作品の感想にとどまらず、分析や考察を投稿する人が増えているのは、SNS上で他者とのコミュニケーションにつながるためですよね」(同)

SNSがない頃は、一般人の分析や考察は自分だけかネット上の限られた空間で楽しんだり、リアルに友人と会って話し合うものだった。それがSNSの登場によって、圧倒的に手軽に誰かに披露できるうえ、あわよくば反応してもらえるようになったのだ。

「単なる感想をSNS上へと投稿しても、あまり注目してもらえない。しかしながら、分析や考察は、誰かの目に留まる可能性が格段に上がる。エンタメ、SNS、分析・考察は、もはやセットになってきています。裏を返せば、SNSは“(ネット上で)誰かとつながれる”ツールであるからこそ、リアルな世界において“一人でコンテンツを楽しめるようになってきた”とも言えます」(同)

■“SNS疲れ”にフィットする『人の財布』の特異性

SNS上で注目を集めようと人気ゲームやエンタメ作品の考察を投稿するユーザーが増えているのは事実。とはいえ、人の意見ばかり気にしてしまい、“SNS疲れ”が出てきている人がいるのも確かだ。そのうえで、前出の原田氏が『人の財布』の特異性について分析する。

「考察、謎解きにユーザーが慣れたなかで、『人の財布』が他とは異なるのは、ネタバレ禁止な点です。SNS上に“答え”はなく、こちらから謎解きをして、ネット検索をしなくてはいけないような主体的・能動的な行動がこのゲームには求められる。正解にたどり着けば、作中の人物とコミュニケーションが取れるのも刺激になる。正解にたどり着くまでに時間がかかるというのも、“すぐ答えにたどり着ける”時代にはかえって新鮮なポイントです」(原田氏)

また、リアルな自分の生活とゲームが地続きになっている点も参加者にとっては魅力だと語る。

「財布という日用品を使った謎解きゲームという点も、ゲームのリアリティを増幅させる仕掛けとして機能しています。参加型ゲームは一般的に複数人でプレーをする前提で作られていますが、1人で楽しめるのも自由度が高い。ゲームと参加者の生活が交錯するのが魅力だと思います」(前同)

リアルの生活に刺激をもたらしてくれる、新しい“没入型”ゲーム『人の財布』。人気に火がついた影響もあって、一部SNS上での“実況・ネタバレ”が解禁されたが、いずれにせよ制限つき。謎が謎を呼ぶ興奮は、まだまだ続きそうだ。

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