榊愛花ら生命線の負担と「大人のサッカー」を進化させる佐藤ももサロワンウエキ【U17アジア杯2位リトルなでしこ「北朝鮮戦の敗因」と「W杯への希望」】(3)

北朝鮮に敗れるも新たな光明が。異彩を放つFWたちがU17アジアカップで躍動した。(写真はイメージです) 撮影:中地拓也

「リトルなでしこ」こと、サッカーU-17日本女子代表が、アジアでの戦いを終えた。惜しくも連覇はならなかったが、未来につながる輝きを放った。U-17女子アジアカップでの戦いぶりを、サッカージャーナリスト後藤健生が振り返る。

■チームの生命線2人の「負担」を軽減

決勝戦では眞城美春と榊愛花の動きは重そうに見えたが、2人に負担がかかりすぎていたのではないだろうか。せっかくローテーションを使って負担を分担しながら戦ったのだから、チームの生命線である眞城、榊の負担も軽減させておけば、決勝戦はもう少し違った展開になっていたかもしれない。どの試合でも、ある程度、点差が開いた段階で交代させることは不可能ではなかったと思うのだが……。

もちろん、これらはいわゆる「結果論」だ。

チーム内には、外からはうかがい知れないようなさまざまな事情があることは承知している。選手起用は戦術的な判断だけで決まるものではなく、それぞれの選手の体調など、外から見ていただけでは分からない事情がある。

しかも、僕は今大会現地で取材しているわけではなく、映像を見ていただけだ。したがって「これが敗因だ」といったように決めつけるわけではない。ただ、こうしたさまざまな事情が決勝戦のパフォーマンスに何らかの影響があったのではないかと疑問を呈しているだけである。

■これまでと「異なるタイプ」のFWが躍動

ただ、眞城や榊は将来の日本の女子サッカーで中心的な役割を託せそうな存在だったし、FWにも171センチの長身を武器とする津田愛乃音や佐藤ももサロワンウエキといった個性的な選手も活躍した。

津田は初戦の後半から出場して、ペナルティーエリアに入ったあたりでボールを受け、反転から強烈なシュートをゴール左下隅に突き刺し、また171センチの長身を生かして豪快なヘディングを決めるなど可能性を示した。

そして、佐藤はオーストラリア戦で開始10分までに2ゴールを決めるという華々しい活躍を見せた。とくに、先制ゴールはロングボールを胸でコントロールして、そのまま深い位置まで踏み込んで強烈なシュートを決めたもの。フィジカルコンタクトの強さを武器とした選手だった。

どちらも、日本人選手としては、これまでと異なったタイプのFWだった。

今大会もそうだが、最近の日本チームはアジアの相手に対しては「大人のサッカー」で勝利することができる。今大会でも初戦のタイ戦では、前半はスコアレスで眞城が先制ゴールを決めたのは51分のこと。中国戦では前半9分に福島が先制ゴールを決めたものの、2点目は74分。準決勝の韓国戦でも根津里莉日が先制ゴールを決めたのは40分のこと。

佐藤がいきなり2得点したオーストラリア戦以外は、いわゆる“勝ち味が遅い”試合。

しかし、相手が守備を固めてなかなか点が取れなくても、少しも慌てず、じれず、リスク管理をしながら丁寧に攻撃を繰り返すことで勝利をつかみとった。

■本当の勝負は「U-17女子ワールドカップ」

ただ、時にはそんな「大人のサッカー」から離れて、一気に勝負を決めてしまうようなパワーも必要だ。とくに自分たちより強い相手と戦うときには、リスクを冒した攻撃も必要となる。そうした意味で、オーストラリア戦で10分までに2ゴールを決めた佐藤のプレーが異彩を放って見えたのだ。

まずは思い切って勝負に行って、それが結果に結びつかなかった場合には「大人のサッカー」でじっくりと戦う……。そんなバランスが理想だろう。

いずれにせよ、U-17代表というのは育成のためのチームだ。決勝戦での敗退は残念なことではあるが、重要なのは才能あふれる選手たちが、これからどのように成長し、フル代表までつなげていくかだ。

決勝戦では北朝鮮に完敗してしまったが、この年代での本当の勝負は、10月から11月にかけてドミニカ共和国で開催されるU-17女子ワールドカップだ。北朝鮮より上の順位に進めれば、それは北朝鮮を上回ったことを意味するし、最終的にはフル代表での勝負になったときに北朝鮮を上回って、アジア最強の地位を確保することが目標となる。

才能あふれる選手たちの将来の成長を楽しみにしたい。

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