反射神経と瞬間的な判断が求められるイモラの難しさ。互いを高め合う角田裕毅と今季のRB【中野信治のF1分析/第7戦】

 イタリアのイモラ・サーキットを舞台に行われた2024年第7戦エミリア・ロマーニャGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季5勝目、自身通算59勝目をポール・トゥ・ウインで飾りました。

 今回はヨーロッパラウンド初戦となったイモラ・サーキット攻略に欠かせない要素、そして角田裕毅とRBの戦いぶりについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

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 イタリア・イモラでのエミリア・ロマーニャGPは初日からレッドブル、フェルスタッペンが苦しんでいる様子が明確に見てとれた一戦でした。レッドブルはこのイモラでフロントウイング、フロアエッジ、リヤコーナー(リヤブレーキダクト周辺のボディワーク)、フロアボディ、ノーズにアップデートを導入していましたが、初日、そして土曜日のフリー走行3回目(FP3)まではマシンバランスのスイートスポットを見つけることにかなり苦労していました。

 一方、FP1、FP2ではフェラーリのシャルル・ルクレール、FP3ではマクラーレンのオスカー・ピアストリがトップタイムをマークしていたこともあり、予選のポールポジション争いには今季一番の注目が集まりました。ただ予選ではトー(スリップストリーム)も使って、バランスが決まっていないレッドブルのマシンをねじ伏せたフェルスタッペンがポールポジションを獲得し、パルクフェルメではなかなか見せないほど、フェルスタッペンは本気で喜ぶ様子を見せました。

2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 初日のFP2終了後、レッドブル陣営はイギリス・ ミルトンキーンズにあるファクトリーにて、セバスチャン・ブエミをはじめとするシミュレータードライバーがさまざまなセットアップを試し、そこで見つけたセットを土曜日の走行に反映したところなんとかポールポジションを獲得したという状況でした。改めて、あのレッドブルも苦しむ場面があるのだ、そしてフェラーリやマクラーレンがポテンシャルを上げつつあるなか、レッドブルにもそれほど余裕があるわけではない、ということを感じさせる予選となりました。

 また、マシンのバランスが仕上がってきているマクラーレンのピアストリが2番手、ランド・ノリスが3番手と続き、イモラでフロントウイング、リヤウイング、サイドポッド・インレット、コーク/エンジンカバー、フロアエッジ、ディフューザー、リヤサスペンションと、かなり大規模なアップデートを投入したフェラーリのルクレールが4番手、カルロス・サインツが5番手となりました。

 フェラーリのアップデートはイモラではその効果を結果で示すことはありませんでしたが、マシンのポテンシャル全体を考えれば、今後開催されるコースによっては効果が如実に出てくるかもしれない、そう感じさせる動きでした。

2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)とオスカー・ピアストリ(マクラーレン)

 そんなエミリア・ロマーニャGPの予選では、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)、ルイス・ハミルトン(メルセデス)、そしてセルジオ・ペレス(レッドブル)といったベテラン勢がチームメイトの後塵を拝する結果に終わりました。イモラは右に曲がってすぐに左に切り返すというシケイン状のコーナーが多いレイアウトで、ドライバーの反応スピードの面で若さが要求される、という印象です。

 年々コーナリングスピードが速くなりつつあるF1ですが、イモラはコース幅も広くはなく、ランオフエリアも舗装ではないオールドサーキットということもあり、ステアリングを握っているドライバーも他のコース以上にスピード感を抱くコースだったりします。そしてコーナーの間の距離も短いこともあり、ドライバーの目、反応という部分での影響があったのではないかなと個人的には感じました。

2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGPの舞台イモラ・サーキット

 また、イモラではシケインの縁石の使い方も鍵となったと感じます。たとえば、ターン14と15のシケイン(ヴァリアンテ・アルタ)だと、ターン13の立ち上がりから坂を上がり、そこから少し下ってターン14へのターンインを迎えるレイアウトとなっています。ドライバーの目線からはターン14直前までシケインの縁石の内側が見えず、ブラインド気味です。

 さらに路面も起伏があり、ステアリングを切るタイミングが掴みづらく難しい。ドライバーとしてはできるだけ真っ直ぐにシケインを通過したいので積極的に縁石を使いたいのですが、イン側にあるイエローの縁石は高さもあるかまぼこ型で、縁石に乗りすぎるとクルマが跳ねてしまう。ですが、逆に守りに入るとタイムは出ないという、タイムアップの鍵となるコーナーでした。肉体的な反応スピードに加え、シケインへのターンイン時の縁石に対する瞬時の判断が求められる、イモラはドライバーにとっても気の抜けない場面が続くコースだと改めて感じました。

2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP ターン14を通過するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

■互いを高め合う角田裕毅とRB

 そして、今回は裕毅の走りも大変見応えがありましたね。前戦のマイアミGPでアップデートを投入してから、RBのマシンは非常にバランスが良く見えます。開幕前のテストの段階から低速コーナーを得意としていたRBでしたが、イモラでのエミリア・ロマーニャGPでは低速コーナーだけではなく高速コーナーでもバランスを決まっていました。アップデートの投入と持ち込みセットも含め、RBはセットアップを最適化するための鍵を、マイアミGPから見つけているという印象です。

 予選ではQ2の1アタックでQ3進出を決めた集中力は秀逸でした。Q2を1アタックで通過したことで、ほかの上位勢と同じ状況(新品ソフトを2セット使える状況)でQ3を迎えることができました。これは今後に向けかなりポジティブな仕事ぶりですし、裕毅自身の自信にも繋がったと思います。

 決勝ではスタートでニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)に先行され、ストレートの速いハースをなかなか攻略できずに我慢の周回もありましたが、先にピットに入りアンダーカットを成功させました。終盤もタイヤをうまくマネジメントし、ポイントを持ち帰るなど、戦い方の面でも裕毅は成熟を迎えてきていると感じました。

 また、DAZNで毎週水曜日に配信される番組『Wednesday F1 Time』で裕毅から直接聞きましたが、昨年以上にエンジニアだけではなく、チーム代表も含めたRB全体で十分にみんなが納得できるまでディスカッションを重ねた上でレースに臨んでいるということで、レースで何かがあった際、状況が変わった際に昨年見せたような戦略面での“迷い”が減っている。その分走りに集中ができているということは、裕毅にとってとてもポジティブです。裕毅、そしてチームがともに成長し、お互いが高め合っているといういい環境が、成績につながってきていると改めて感じることができました。

 さて、いよいよ今年もモナコGPを迎えます。モンテカルロ市街地コースは狭く、抜きずらいことから予選が非常に重要かつ注目です。レッドブル&フェルスタッペンがいかにマクラーレン勢、そしてストリートサーキットを得意とするフェラーリ勢と対峙するのか。そして引き続き“乗れている”裕毅とRBの走りを楽しみにしたいと思います。

2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP RBのピーター・バイエルCEO、ダニエル・リカルド、角田裕毅、チーム代表ローレン・メキース

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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