サブリナ・カーペンターの新曲「Espresso」ヒットの理由

1999年5月11日生まれ、ディズニーチャンネルから人気となり、シンガーソングライターとして活躍しているサブリナ・カーペンター(Sabrina Carpenter)。

そんな彼女が2022年7月に発売した「Nonsense」、そして2023年8月に発売した「Feather」が連続してシングルヒットを記録。さらに、2024年4月に配信した「Espresso」が自身初、そしてキャリアハイとなる全英シングルチャート1位、全米シングルチャートでも4位をヒットを記録している。

彼女やこのヒットについて、様々なメディアに寄稿される辰巳JUNKさんに解説いただきました。

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新時代ポップスターの座

2024年のサマーアンセム「Espresso」で世界を席巻中のサブリナ・カーペンター。ケイティ・ペリーが「世界一の名曲」と絶賛し、LE SSERAFIMのHUH YUNJINがカバーを披露するなど、アーティストたちまで夢中になっている。「一発屋で終わりがち」なイメージも持たれるTikTokヒットだが、ここ1年半で三曲ものヒットを出しているサブリナの場合、新時代ポップスターの座を手に入れたと言って良さそうだ。

近年珍しくなっている大規模な成功を手に入れたことは、ある種当然でもある。1999年生まれのサブリナは、現在25歳ながら、2011年にデビューした芸歴を誇るベテランだ。テレビドラマ『ガール・ミーツ・ワールド』によってディズニーアイドルとして名を馳せたのち、社会派映画『ヘイト・ユー・ギブ』や製作兼主演のNetflix映画『ワーク・イット』等で人気俳優として活躍してきた。

しかしながら、9歳からカバー動画をアップしていた本人はシンガーソングライターを本業と自認しており、これまで5枚ものアルバムをリリースしている。

アリアナ・グランデのツアー前座をつとめるなどしてファンをつけてきたサブリナだが、歌手として一気に脚光をあびたのは2021年。それは、彼女のキュートなイメージを一転させる事件でもあった。

 

大ヒット曲「drives license」での三角関係?

ディズニーの後輩オリヴィア・ロドリゴによる大ヒット曲「drives license」において、主人公の元カレの新恋人である「ブロンドの女の子」がサブリナだという説が生まれ、三角関係ゴシップに巻き込まれていったのだ。

実際、オリヴィアの共演者ジョシュア・バセットとデートしていたサブリナは、すぐさまシンセポップ「Skin」を発表。キャリア初のBillboard HOT100入りを果たした同曲の主題は噂や誤ったイメージの問題とされたが「drives license」への返答と思わしき詞でも注目を浴びた。

Maybe you didn’t mean it Maybe blonde was the only rhyme
特別な意味もなくて  “ブロンド”はただ韻を踏んでいるだけなのかも

 

レーベルを移籍して心機一転

じつはこのころ、サブリナは環境を一新していた。それまで歌に演技に忙しい日々を送ってきていたが、レーベルを移籍し、ミュージシャンとしてじっくり音楽に専念する体制を整えていたのだ。ここに新型コロナウイルス危機による自粛期間も加わったことで、2022年、内省的で自由な5thアルバム『emails i can’t send』が完成した。

このアルバムを聴いてわかるのは、キャリアの過渡期、制御不能な噂にさらされたサブリナがつらかったということだ。「drives license」騒動のことだと思われる「because i liked a boy」では「ただ一人の男の子が好きだっただけ」で世間から「あばずれ」と罵られていき、犯罪予告まで受けた被害経験がつづられている。

 

サブリナ最大の個性は“ユーモア”

『emails i can’t send』によって、サブリナ・カーペンターは、作家としての個性を証明してみせた。その才能とは、ずばり、ユーモアだ。

「私はだいたいユーモアで人生のものごとに対処するので、創作にジョークがたくさんあるのも自然なことなんです。人生最大の困難に見舞われたときすらそうしています。ばかみたいな冗談ではあるんですけど、正直自分でも笑っちゃうので。本当に傷つけられた状況でも乗りこえられました」 

ユーモア作風を象徴する曲が、その名も「Nonsense」。コメディ調に恋の高揚を歌ったこのR&Bポップで出色なのは、リスナーに質問を繰り出してくるかのようなアウトロだろう。

This song catchier than chickenpox is
I bet your house is where my other sock is
Woke up this morning, thought I’d write a pop hit, ha-ha
How quickly can you take your clothes off? Pop quiz
この歌は水疱瘡よりも伝染しやすい
私のもう片方の靴下はきっとあなたの家にある
今朝起きたら売れるポップソングを書こうと思った
ここでクイズ あなたはどれだけ早く服を脱げる?

 

サブリナ、ツアーでの機転

「Nonsense」がインターネットで話題になると、サブリナは機転をきかせて魅力を広めていった。自身のコンサート、そしてテイラー・スウィフトのエラズ・ツアーの前座として「Nonsense」のアウトロを公演場所それぞれに合わせてアレンジするフリースタイルを行い、世界各地で話題を巻き起こしていったのだ。

たとえばアルゼンチンでは、地元の英雄であるサッカー選手へのリスペクトとして「ベッドで彼のボール(玉)を操れる私はリオネル・メッシと呼ばれた」含意のセクシーネタを披露。日本公演でも、以下のとおり健在だった。「お寿司を食べて満足、でもアレが私のなかに入るほうがもっとだね。東京のみんな、めっちゃ大好き!」 。

 

『emails i can’t send』と「Feather」

「『emails i can’t send』について、ロマンティックコメディ(ラブコメ)みたいだと言われたことがあります。最初は変な表現だと思ったんですけど、今ならなんとなくわかります。私はロマンチックな作風のソングライターですが、純真さとユーモアがまじりあう瞬間を特別に感じるんです」 

サブリナ・カーペンターを語るにおいて見のがせない魅力が、経験豊富な俳優としてのスキルだろう。『emails i can’t send』のユーモア自体、エマ・ストーン主演のラブコメ映画『小悪魔はなぜモテる?!』からインスピレーションを得たものだ。

映画プロデュースも行ってきた彼女には、映像によるストーリーテリングや美術のセンスもそなわっている。この魅力を示したのが、2023年に発表された5thデラックス盤『emails i can’t send fwd:』収録曲「Feather」。

恋人と別れた爽快感を歌うこのダンスポップのミュージックビデオは、サブリナに嫌がらせをしてくる男たちが無惨に命を落としていくキュートかつホラーな内容で話題を呼んだ。同曲がUSポップラジオチャートで首位を獲得したことにより、彼女の人気は若年層やインターネットを超えるものとなった。

 

最大ヒットとなった「Espresso」

こうして2024年、サブリナ・カーペンターはポップスターとして王手をかけた。コーチェラフェスティバル出演記念に制作された新曲「Espresso」を大ヒットさせてみせたのだ。

夏にぴったりなディスコには、サブリナの魅力がつまっている。カフェインたっぷりのエスプレッソをモチーフに、男子をまどわして刺激するセクシーさを誇る言葉遊びが満載だ。飲みもののみならず、日本のゲーム機Nintendo Switchまでも登場している。

「帰りは遅くなるよ だって歌手だもん」。スターとしての現実的な状況を述べるラインは、身近さアピールが多い現在のポップとして珍しいが、だからこそTikTokでセンセーションを起こしたのかもしれない。それでも威圧感がない理由は、やはり彼女流のキューティとユーモアの魔法あってのことだろう。「ないんだよね ヤケクソになるとか」という大胆な宣言は、中傷を乗り越えてきたサブリナ・カーペンターその人だからこそ軽やかに歌える詞でもある。

「今のサブリナ・カーペンターを見るのは、力強く、爽快で、エキサイティングだ。(スキャンダルによって人々から性的な侮蔑を受けたのち)自分のセクシャリティをとりもどし、己の美しさを受け容れ、歌のなかでほのめかして遊んだりしながらも、楽しく女子らしい方法で若い女性たちを魅了している」 (詩人ジェス・モーガン)

「Espresso」のテーマとは、女性らしさの強力さ、そして「ビッチであること」の自信。だからこそ、激動を駆け抜けたサブリナ・カーペンターのアンセムとしてふさわしい。ユーモアをもって苦難に対処した彼女は、自分らしさを変えることなく、ポジティブかつ優雅に大成してみせたのだから

Written By 辰巳JUNK

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