【インタビュー:前編】キズ、来夢が感じるライブの“匂い”の正体「迷わなくなった」

「ライブで”匂い”がするようになった」と言われて理解できるだろうか? キズのボーカリスト・来夢は真剣に「”匂い”がする」と話す。

キズは6月に国立代々木競技場第二体育館でワンマンライブ<星を踠く天邪鬼>を開催する。このライブ前にBARKSでは来夢に取材の機会をもらったわけだが、今回のインタビューは新曲でもライブの宣伝でもない。ただ、来夢が話したくなったから話すだけだ。

今回は、を担当した神谷敦彦氏と来夢が再び邂逅。前後編のパーソナルインタビューで、最新の来夢の姿をお届けする。

◆ ◆ ◆

◼︎「ストロベリー・ブルー」からライブで”匂い”がしてきた

来夢:起きたばっかでまだ脳みそが動いてないなぁ。

──思い出話でもしますか。私が来夢さんと最後に話したのは2020年の10thシングル「ストロベリー・ブルー」のリリース時です。

来夢:え、そんなに前? 僕の髪の毛はブレイズヘアーでした?

──違いました。言葉を選ばずに言えば、いまよりも一般社会に適合した髪型でした。

来夢:おい(笑)!

──言葉を選ばずに申し上げました!(笑)

来夢:目が覚めてきたわ。「ストロベリー・ブルー」といえば、僕的にはこの辺りから、「新しいバンドがひとつできた」くらいキズが変わった感覚です。この頃からライブで“匂い”がするようになりました。

──雰囲気が出てきたってことですか?

来夢:いや、本当に”匂い”がするんですよ。僕だけなのかな。キズも含めていままでの自分のバンドでは、”匂い”はしなかったです。でも「ストロベリー・ブルー」から、「客席で感じていた匂い」が自分のステージにやってきたんです。

──“匂”いがした自分たちの最初のライブはいつですか?

来夢:めちゃくちゃ覚えています。渋公のワンマン(2022年1月8日LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)開催<キズONEMAN「VISUAL」>)です。ここで全てが変わったかもしれないな。いままではライブでもまだ等身大じゃなかったけど、渋公で「自分が思う自分」に近づけたのかな。

──渋公は特別な日になったんですね。

来夢:そうそう。全曲全力なんですけど、各ライブでは「特にこれを伝えに行くんだ」という曲があるんですよね。あの日はそれが「ストロベリー・ブルー」でした。旗を持ってたんですよ。僕らはバックドロップ(背景幕)とか似合わなくて、何回か使ったけど使わなくなりました。他のバンドは似合うのになぁ。「キズのロゴはダサいのかな」とかいろいろ思ったりして(笑)。でも旗を持ったらしっくりしたんですよ。

──どうしてですかね?

来夢:もう解決した話です。以上。

──読者の誰ひとりとして解決してないですよ!(笑)

来夢:そりゃそうか(笑)。客席にいた友だちが、旗持って「行くぞお前ら!」って煽っていた僕を見て「やってること昔から変わらないな」って言ったんですよ。そこで気づきました。バイクに乗っている時とバンドでやっていることは変わらなかったんですよ(笑)。

──「自分が思っている自分に近づけた」とありましたけど、来夢さんは自分のことをどういう人間だと思っていますか?

来夢:なりたい自分はないけど、表現したい何かは確実にあるんですよ。だから、「本来の自分がやりたいことができた」ってことかな。メンバーにも話したんですけど、「ストロベリー・ブルー」は伝えたいことの30%もメンバーに伝えられていなかったんですよ。僕がデモ音源をつくるんですけど、僕も楽器が100%できるわけじゃないですし、メンバーの方が当然うまいんです。僕の脳内にあるものをどう伝えるかっていったら、楽器が下手くそな僕がいやいや打ち込んで渡すしかないわけだから、そんなところから100%を感じ取れるわけがないんですよ。ライブも似たところがあります。伝えきれなかったから、メンバー以外のあらゆるものにヘイトを向けていた時期もあったけど、ようやく自分の伝えたいことを伝えられるようになりましたね。

──何が変わったから、伝えられるようになったんでしょうか?

来夢:きょのす(キズのドラマー・きょうのすけの愛称)かな。コロナ禍を経てドラムがめちゃくちゃ上手くなって帰ってきたんですよ。きょのすは昔から華はあったけど、お世辞にも上手いとは言えませんでした。コロナ禍って、みんな暇すぎて特殊能力を身につけて帰ってきたと思うんですよね。何かの能力の実を食べるというか。それが、きょのすにとってはドラムが上手くなる実だったんですよ(笑)。びっくりしましたね。いまでは自信を持って「全ドラマーに聞いてほしい」と言えるくらいです。

──きょうのすけさん、コロナ禍でパワーアップしたんですね。

来夢:あいつは自分からは全然言わないけど、相当努力したんだと思いますよ。努力は見えるじゃないですか。僕は感動しましたよ。いまは安心感がある。reikiにもユエにも、きょのすにもなんの心配もない。

──来夢さんはコロナ禍でどんな実を食べましたか?

来夢:人とめっちゃ話すようになる実かな(笑)。これまでもメンバーの仲は良かったですけど、さらにめちゃくちゃ話すようになったかもしれないです。

──どうしてそんなに話しをするようになったんですか?

来夢:それはあれですよ。きょのすのドラムの影響(笑)。

──今日は全部「きょのす」って言えばいいと思ってないですか?(笑)

来夢:いやいやいや!(笑)。やっぱりメンバーってお互いリスペクトがないと成り立たないじゃないですか。リスペクトが深まるほどすごいことができますね。キズは仲が良い上にリスペクトまで深まったから、とんでもないバンドになったんですよ。

──「メンバー以外は全部敵」だった来夢さんから、コミュニケーションの大事さの話が出るなんて思いませんでした。

来夢:まぁあれですよ、歳をとったんですよ(笑)。コミュニケーションって大事なんだとようやくわかりました。それまでは横のつながりも、縦もないし。全て遮断してきて、人間関係なんて点でしかつくってなかったですよ。でもいまならコミュニケーションが取れていなかった頃の自分がすごく嫌いだし、先輩とも仲良くできなかった自分も嫌い。前の自分に戻りたくないですね。僕と同じような後輩を見ていると「うわっ」て思います(笑)。尖ってて人と近づきたくなさそうにしている、でも葛藤してるんだろうなっていうのがよくわかる。

◼︎「続けるかっこよさ」がわかったから、タバコも酒もやめた

──これまでのインタビューは来夢さんがテーマの話をしているから当たり前ですけど、来夢さんが主語になることがほとんどでしたよね。でも今日は登場人物が多く感じます。きょうのすけさんもそうですし、先輩や後輩の話が最初から出てきています。

来夢:確かに確かに! なんかそれ、気持ち悪いですね。最近なんですけど、この1ヶ月誰のために頑張ってるかと考えると、自分じゃない。人のために頑張っている気がする……なんだこれ。

──《誰かの為に生きるなんて簡単だから》と7thシングル「ヒューマンエラー」で歌っていた来夢さんにとって、大きな変化ですか?

来夢:そうなんですよ。最近は自分のためだけには生きてないかもしれない。その実感はあります。でも、無理にしようと思ったわけじゃないです。自然に変化してますね。

──どうして自分以外のひとのためにも頑張れるようになったんですかね?

来夢:僕が一番わかってないかもしれない。だって、いま言われて気づきましたから。余裕ができたからかな。いまは「ソールドアウトさせないと」とか余計な心配もプレッシャーもありません。だってできるし。キャパが1000だろうが2000だろうが、上がってもできるんです。迷わなくなったな。

──いつからその「迷いがない」状態になりましたか?

来夢:きっかけは2022年の<V系って知ってる?」です。憧れのバンドであるMUCCとの初対バンを武道館でやる。やばくないですか? タイムテーブルがMUCCの後にキズってなっていて「やべー、殺される」ってなって、迷いはじめました。「どうやったら勝てるんだろう」とかいろんな余計な事を考えて悩んだんだけど、そのライブがあり得ないくらいうまくいきました。「自分がやっていることは正しいのかもしれない」と確認がとれたというのかな。

──”匂い”はしましたか?

来夢:ずっとしていました。あんまり言いたくなかったですけど、ずっと鳥肌が立っていました。もうパニックですよ。セットリストも何もかも真っ白になるくらい。ライブやってる感覚もありませんでした。でも、1秒が1秒が洗練されていました。あの日はあり得ないプレッシャーだったな。「hide Respect Session」でPATAさん(X JAPAN)とミヤさん(MUCC)と明希さん(シド)がいるし。自分の声の出し方も一瞬わからなくなるんですよ。ボーカリストはよくあるらしくて、本当に声が出なくなる人もいるらしいです。

──いわば“ステージの魔物”がやってきた、と。でも来夢さんはうまくいったんですね?

来夢:身体に染み付いていたんでしょうね。染み付いていたことをそのままやっただけなので、等身大になれたんだと思います。

──フロー状態に入ったのかもですね。例えばサッカー選手とか、大声援の中でも自分の周りだけ静かになって、周りの選手の動きもゆっくりに見えて、自分が打つべきシュートの道がくっきり見える、みたいな。

来夢:へぇ〜! おもしろいですね。フロー状態に近いのかもしれない。武道館の日は全編で鳥肌が立っていたから、あれが技術で毎回出せたらすごいですよね。

──フローは自分で作れるみたいなんですよ。試合の日は必ず左の足の靴紐から結ぶとか、120%を出すためのスイッチになる行動を毎回している、といった話もあるんです。

来夢:いつもやることか。確かに、後から振り返っても良いと思えるライブができるときって、ライブ前に楽屋で格闘技を見ていたりするんですよ。年末の特番とか見ると燃えてきます。武道館は格闘家としても来ていたこともあるので、武道館の匂いを嗅ぐと闘争心が出てくるですよ。

──匂いは記憶に直結している感覚みたいですね。「なんだかおばあちゃんの家を思い出すな」みたいな。

来夢:やっぱそうなんですね。僕は春の匂いを嗅ぐと懐かしい気持ちになるし。あれなんなんだろう。不思議ですね。

──いまも格闘技のトレーニングはしますか?

来夢:最近はやれてないなぁ〜。バンドマンの友人よりも格闘家の友人と遊んでる方が多いかもな。生活リズムが変わったんですよ。昼型になりました。朝の7時には起きて、8時には曲をつくったりしてるんですよ。11時半にはもう飯食ってて、12時半にはまた曲つくりはじめていて、17時には終わるみたいな生活です。夜遊びに来る友人は減りましたね。

──ミュージシャンは夜のイメージを持っていました。

来夢:そうなんです。でも僕は23時とか24時には寝ちゃいます。健康なんですよ。タバコも酒もやめちゃったし。

──だ、大丈夫ですか?

来夢:オレはどんなイメージよ(笑)。自分に必要のないものはもう省きました。「早寝早起きの生活を20代前半からやってたらもっと人生変わってたんだろうな」って思いますね。おっさんになっちゃったな(笑)。あの頃は17時とかに起きて、みんなに朝を託して寝る、みたいな生活です。そうなると酒も飲むし、飲むような人間といるとダメなんですよ! 酒って飲んだらすぐ終わるわけでもないじゃないですか。酔っ払って仕事もできないし、次の日にも響くし。

──いまは音楽に集中できそうです。

来夢:ほんとそう。音楽しかしてないです。でもロックしている感覚はとても強いです。酒を飲むことがロックだとは思わない。タバコを吸うことも、不健康であることがロックとも思わない。冷静に考えて、朝7時からつくる奴の曲はすごいですよ。

──タバコやめたのはいつからですか?

来夢:話が前後しちゃうんですけど、きっかけは<Vocal Summit>なんですよ。「一撃」が<Vocal Summit>のボスの目に止まってオファーしてもらって。中島卓偉さん、田澤孝介さん(Rayflower)、椎名慶治さん(SURFACE)、牧田拓磨(wyse)さんはいるし、RYOさん(KING)さん、逹瑯さん(MUCC)、DAISHIさん(Psycho le Cému)って、すごい人しかいないわけですよ。第一回の頃は「一撃」もやって、歌が上手いつもりでいたんです。心折られましたね。本当に歌の上手い先輩たちが近くで歌っている様子を見て、「自分は歌がうまいんじゃなくて、声が高いだけなんだ」って気づいちゃって。恥ずかしくなりましたね。そこから歌を真面目にするようになっちゃいました。

──以前は「練習はしない」と話してましたね。

来夢:いまはします。吸入器とか「気持ちの問題だ」くらいに思ってたけど、いまはめっちゃ使います! ちゃんとやっているひとがさらにちゃんとやってると、マジでかっこいいんですよ。<Vocal Summit>の一年目は吸い続けてたんですけど、二年目も呼んでもらって、「一番下手くそなくせに喫煙所でタバコ吸っている自分はダサい」って気づきました。

──禁煙するのも大変ですよね?

来夢:<Vocal Summit>のボスと沖縄に一緒に行く機会があったんですけど、そこでボスに「この沖縄でタバコやめますわ」って宣言しました。そうするとやめるしかないじゃないですか。やめて半年以上経ちますね。そのおかげで、肺はひとつ増えたくらいの感覚です。声もめちゃくちゃ出るようになりました。ファンのみんなは気づいてると思うんですけど、僕は自分でつくったのに「地獄」のサビをつるっと歌えたことはなかったです。どう考えてもブレスが必要で、人間的に無理なんです。でもタバコやめたら歌えるようになっちゃって。全ボーカリストはタバコやめた方がいいですよ(笑)。

──タバコって影響力が強いんですね。

来夢:損してたな、もっと早く辞めればよかったなと思います。きょのすも後輩もやめはじめました。たくさんのひとの肺を守っています(笑)。

──お医者さんのような来夢さんが出てきました(笑)。

来夢:田澤さんにも言われたんですよ。「めちゃくちゃいいもの持ってるから、タバコやめたらもっとおそろしいことになるよ」って。田澤さんの脅威になりたいと思って。田澤さんは師匠と呼んでいます。歌はだいぶ変わりましたね。表現の仕方というか、ライブ一本一本、一曲一曲にしても、セットリストひとつとってみても、丁寧に考えるようになったな。器用になっちゃったかもな。

──これまでは「倒れたらそれまでだ」といった印象でした。

来夢:そうだった(笑)。でもいまは僕が倒れたら困る人が増えたんですよ。バイクも全部後輩にあげました。昔は「いつバンドを辞めてもいい」ってずっと言ってましたけど、いまは続けたいんですよね。できるならですよ。「続けるかっこよさ」が見えてきたんです。

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武道館のあの日から変わり続ける来夢は、半生を共にしていた酒もタバコも手放した。代わりに得たものは大きいようだ。ライブの“匂い”もその一つである。

後編は来夢が「見えてきた」と話す「続けるかっこよさ」を深掘りする。キズの魅力の一つであった、花火のように一瞬咲いて散る「瞬間の美学」は捨ててしまったのだろうか?「音楽は手段」に込めた真意は何なのだろうか?

後編は、変わり続ける来夢の変わらない“芯”が明らかになる。

取材・文◎神谷敦彦
編集◎服部容子(BARKS)

15th SINGLE「鬼」

2024年5月13日 RELEASE
1. 鬼
発売元:DAMAGE

配信開始日
2024年5月13日(月)0時より
※各サービスの開始時間に誤差が出る場合があります。

<キズ 単独公演「星を踠く天邪鬼」>

2024年6月1日(土) 国立代々木競技場第二体育館
[開場 / 開演]16:00 / 17:00

【チケット料金】
アリーナVIP席:¥12,000 SOLD OUT
[アリーナセンターブロック席+VIP限定グッズ+先行物販優先レーン]
アリーナ席:¥6,000 SOLD OUT
[アリーナ上手側か下手側ブロック席のいずれかになります]
スタンドVIP席:¥10,000 SOLD OUT
[スタンド前方席3列エリア+VIP限定グッズ+先行物販優先レーン]
スタンド席:¥2,800 残少

【チケット発売中】
・TicketTown
・イープラス
・ローソンチケット
・チケットぴあ
info. NEXTROAD 03-5114-7444(Weekdays 14:00~18:00)

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