ウィークデイに強い『碁盤斬り』と『ミッシング』 ようやく年配層も劇場に戻ってきた?

5月第3週の動員ランキングは、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』が6週連続の1位に。週末3日間の動員は27万8000人、興収は4億800万円。5月19日までの公開から38日間で動員943万300人、興収135億2600万円を記録し、今週中にも前作『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の興収138.8億円を超えて、シリーズ歴代1位の記録を塗り替える見込みだ。

注目したいのは、4位に初登場した白石和彌監督、草彅剛主演の『碁盤斬り』と、7位に初登場した𠮷田恵輔監督、石原さとみ主演の『ミッシング』。前者は古典落語の演目「柳田格之進」を基に、脚本家加藤正人自らが原作を手がけた小説の映画化作品。後者は吉田恵輔監督のオリジナル脚本。実写作品でも、シリーズ作品か、コミック原作やテレビドラマの映画化作品ではないとなかなか上位に食い込むことができない近年の日本映画を取り巻く環境下において、同時期に二矢を報いるかたちとなった。『碁盤斬り』のオープニング3日間の動員は8万7500人、興収は1億2200万円、『ミッシング』のオープニング3日間の動員は7万4100人、興収は1億400万円と数字も拮抗しているが、両作には他にもいくつか共通点がある。

一つは、白石和彌監督も𠮷田恵輔監督も多作家で、これまでメジャー配給、インディペンデント系配給を問わず、コロナ禍の時期も含めペースを落とすことなくほぼ毎年のように、年によっては1年に複数の新作を発表してきたこと。もちろん、その中には興行的に成功した作品も失敗した作品もあるわけだが、常に複数の企画が動いている多作家のいいところは、必要以上に一つ一つの作品の結果に引っ張られないところかもしれない。

もう一つ、白石和彌監督にとって初の時代劇となる『碁盤斬り』も、𠮷田恵輔監督が得意とするコメディ要素を封印してシリアスなヒューマンドラマに徹した『ミッシング』も、メインのターゲットとなるのは30代以上の観客で、年配層への波及も期待できる題材かつ上質な仕上がりの作品であることだ。

実際、『碁盤斬り』と『ミッシング』はウィークデイに入っても週末とほとんど動員が変わらず、『ミッシング』に関しては動員が週末を上回る日も出ているという。コロナ禍以降、客足が戻るのが最も遅かったのが年配層の観客で、近年の国内実写映画のヒット作は10代、20代の観客が牽引する作品ばかりが目立っていた。そういう意味で、この両作品には現在の映画マーケットに対するカウンター的な意義も生じることとなった。

(文=宇野維正)

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