「もう限界」カスハラに耐え兼ね廃業する銭湯の貼り紙が話題に「常連のほうがモンスター化しやすい」同業者明かす“意外な事実”

カスハラに耐え兼ね廃業を決めた座間市の「亀の湯」(タイジュさん提供)

5月16日、神奈川県座間市の老舗銭湯がXにポストした投稿が、物議をかもしている。客から理不尽な要求をされるカスタマー・ハラスメント(カスハラ)や、数々の迷惑行為を理由に、30日に閉店するという内容で、文面はあまりに切実だった。

閉店を決めた「亀の湯」は1967年の創業。小田急線・相模原駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅街にある。投稿は、店頭に貼り出した告知をそのまま撮影した写真とともになされた。

《昭和42年にこの地に公衆浴場を開業し、約57年営業を続けてきました。私の祖父が建てた最後の銭湯として、少しでも長く、と励んでまいりました》と書き出し、閉店日を知らせ、その理由を以下のように綿々とつづっていた。

《何よりも、営業する中で、駐車場のルール違反、カスハラ、壊したものを何も報告されないこと、備品を盗まれること、サウナ代を支払わずに無断利用されること、店舗敷地内並びに駐車場への一般ごみ、木材や家具などの不法投棄をされること、一度注意したことをやめてくれないなど、悲しい出来事があまりにも多いこと》で、《営業を続ける意欲が無くなった》という。

銭湯に何度か電話したが、出ないか、メッセージを残せない留守電になったまま。詳細を知りたいと、Xのポストに反応していた「亀の湯」利用者に接触。5月2日に訪問した感想をサウナ検索サイトの『サウナイキタイ』にも投稿していた、アカウント名「タイジュ」さんと連絡が取れた。

「カスハラなどの理由で閉じちゃうと知って、正直、驚きました。サウナは比較的新しく、3名しか入れないですが、それなりに快適。訪問したときは、僕ともうひとりぐらいしか客がおらず、ほぼ独占状態で、迷惑客も見かけませんでした」

サウナブームの影響で、いわゆる「サ活」にハマって4年半になるタイジュさん。いまでは全国100施設以上はめぐったが、亀の湯は「味のある銭湯だった」という。

「店主夫婦はまだ若くて、40代でしょう。入るときには男性が、帰る際には女性がフロントにいました。サウナ代として、プラス100円かかるだけなのはお得。その100円をケチる人がいるのかと、さらに驚きです」

『サウナイキタイ』のほかの「亀の湯」への投稿を見ると、2年前までサウナ代も60円、さらに前は無料だったようだ。そのころを知る、古くから通う常連が納得せず、黙って利用してしまう可能性もある。神奈川県公衆浴場業生活衛生同業組合の安田信篤理事長は、カスハラについて「常連客のほうがモンスター化しやすい」と語る。

「『亀の湯』さんからは、今度の件で個別に相談を受けていません。ほかの銭湯でも、ほとんど自分たちで解決しようとするので、カスハラなどが議題に上がったことはないんです。今回は被害がたび重なっていたようですし、おそらく問題のお客は新規ではなく、むしろ常連だと思います。銭湯を自分の家の風呂の延長線上みたいに思ってしまうんですよね」

理事長自身も、川崎市で「バーデンハウス」「バーデンプレイス」という2軒の銭湯を経営する。前者は創業80年に及び、改築を機に、現在の店名にあらためた。後者は1995年開業と、比較的新しい。いかにも昭和の銭湯の「亀の湯」とはコンセプトが異なるが、理事長によると、それでもかつて同様な目に遭い、「毅然とした対応で乗り越えた」経験があるという。

昔は、銭湯でのマナーを知らない客をたしなめ、みんなで気持ちよく湯船につかろうとしたのが、昔の常連客の姿だった。しかしいまは、一見の客を「自分たちのテリトリーを荒らす存在」として、少しでも落ち度があると、容赦なくやり込める常連客もいるそうで、そんな場面にタイジュさんも何度か遭遇したという。そして、そんな「迷惑な常連を切る覚悟」も必要だと、安田理事長は語る。

《本当に亀の湯を大切に想って通い続けていただいているお客様がいることも、大変有り難く、その方達を励みに頑張ってきました。ですが、もう限界です》

マナーを守る利用者にとっては、これほど悲しい話はない。

文・鈴木隆祐

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