経営再建へ非公表で手続き可能…注目集める「事業再生ADR」 山形屋、28日に最終債権者会議 条件の「全員合意」得られるか

〈資料写真〉1998年10月、ライトアップされた山形屋の新しい外壁=鹿児島市金生町

 360億円の負債を抱え、再建を目指す山形屋(鹿児島市)が申請した私的整理の一種「事業再生ADR」は、裁判所が介入する法的整理と異なり非公表で手続きできる点が最大の特徴だ。専門家は「イメージダウンを懸念する企業の利用が増えている」と指摘する。一方で、債権者が1社でも反対すれば成立しないデメリットもあり、山形屋の再建は、地域で長年培った信用力も鍵となりそうだ。

 ADRは「裁判外紛争解決手続き」の意味で、事業再生ADRは国が認めた第三者機関が債権者との調整役を担う。民事再生に詳しい照国総合事務所(鹿児島市)の神川洋一弁護士は「事業を続けたまま水面下で再生手続きができ、さらに中立性も担保できる。純粋な私的整理と法的整理のいいとこ取りだ」と述べる。

 民事再生法に基づく法的整理では、裁判所の関与を受けながら債権者の同意を得て債務の圧縮などを行う。公的機関が間に入ることで、当事者間で協議する私的整理とは違って安定性は期待できるものの、手続きは公表され取引先との事業にも制限がかかる。

 百貨店というだけあり、山形屋の取引先は多岐にわたる。神川弁護士は「風評被害の観点から、手続き自体を公にしたくない企業は多く、ADRの導入は増えている」と話す。客商売である以上、ブランドイメージは大切で、山形屋のADR選択は「自然な流れだろう」とみる。

 事業再生ADRは、主に金融機関を対象とした債務整理。法的整理では、全債権者の過半数の合意が必要なのに対し、ADRでは全員の賛同が必要なため合意形成が難しい。合意に至らない場合、民事再生法や会社更生法に基づく法的整理へ移行することになる。

 ただ正式な申請前には第三者機関の審査があり、成立見込みの有無を判断した上で受理する。経済産業省のまとめでは、ADRが始まった2007年から24年3月まで受理された99件のうち、合意形成に至ったのは70件と7割を超える。

 鹿児島で活動する別の弁護士は、273年の歴史を持つ山形屋のブランド力と信用力は大きいと指摘する。山形屋の倒産は金融機関も危惧しているとして「債権が減ってでも事業を継続して、利益を還元してほしいと考えるはず。山形屋が与える経済効果は大きい。合意形成はされるだろう」と推測した。

 山形屋の事業再生ADRは、28日の最終債権者会議で全17金融機関の合意が得られれば成立し、事業再生計画案の実行に移る。

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