梶芽衣子【ライブレポート】欧州でアナログレコードが復刻!ニューアルバムはロックに挑戦  鳴り止まぬ拍手とアンコールの声!梶芽衣子ライブレポート

アウトローヒロイン梶芽衣子、6年ぶりのライブを開催

『野良猫ロック』『女囚701号さそり』『修羅雪姫』などの主演映画で、1970年代にアウトローヒロインとして一時代を築いた女優・梶芽衣子。また、自身の映画主題歌を中心に歌手としても活躍し、「怨み節」の大ヒットを放ったことはよく知られるところである。

そんな彼女が、喜寿の誕生日を迎えた今年3月24日に、6年ぶりのオリジナルアルバム『7(セッテ)』をリリース。そのお披露目ライブが5月12日の日曜日、渋谷PLEASURE PLEASUREで開催された。ライブ自体が、前作アルバム『追憶』をリリースした際の2018年、新宿ReNYでのライブ以来、こちらも6年ぶりである。

幅広い年齢層からリスペクトを受けている梶芽衣子

約300席の会場を埋め尽くした観客には同年代の男性をはじめ女性の姿も多く、中には着物姿の女性や外国人リスナー、さらに1人で訪れた若者もあちこちで見かけ、梶芽衣子がワールドワイドかつ幅広い年齢層からリスペクトを受けていることを再認識させられた。

開演の16時を少し回り、客電が落ちると黒い衣装を身にまとったバンドメンバーが登場する。ドラムの重い響きに乗せ、1曲目「愛の剣」のイントロが始まると、オフホワイトのジャケットに白のニット、白のパンツに、足元も白のグルカシューズといったいでたちの梶芽衣子がスタンドマイクの前に立つ。黒ずくめのバンドと絶妙のコントラストを描き、さらには強力な赤のライトがステージを照らし出し、"ロックな梶芽衣子" を鮮烈に印象付ける。

「心焦がして」「星空ロック」と『7(セッテ)』からのナンバーが披露されると、最初のMCに。まずは “PLEASURE PLEASUREへようこそ!梶芽衣子でございます。どうぞよろしくお願いします” という挨拶。続いて、海外レーベルから『梶芽衣子のはじき詩集(うた)』をリリースする際、現地のスタッフから言われた “新曲はないのか? ” という話が『7(セッテ)』制作のきっかけとなったことを披露。

そして、このアルバムに収録された楽曲のうち、梶の代表作である『曽根崎心中』を監督した巨匠、増村保造に詞を書いてもらったこと、同時に長くレギュラーを務めたドラマ『鬼平犯科帳』の懇意にしていたスタッフからも詞を提供してもらったエピソードを語る。長い間、梶の元で大切に保管されていたこれらの詞に、今回、プロデュースを担当した鈴木慎一郎が曲をつけて世に出ることになった。そして増村監督の作詞による「真ッ紅な道」「恋は刺青」など大切な4曲を披露し、梶と鈴木のトークへと移る。

今回のアルバムとライブの中心人物でもある鈴木慎一郎

スクリーンではクールで寡黙なイメージの強い梶だが、東京・神田生まれの、チャキチャキの江戸っ子とあって、ぶっちゃけトークを交えた語り口の痛快さで、何度も会場を爆笑の渦に巻き込んでいく。

今回のアルバムとライブの中心人物でもある鈴木慎一郎は、幼い頃より梶と交流があり、京都太秦などの撮影現場で梶の付き人も経験している。それだけに丁々発止のやり取りがなんとも可笑しい。10代の頃に音楽活動をスタートさせ、ソロシンガーやバンド活動を経て、現在は音楽プロデューサーとして活躍している。

鈴木はこの日のステージでもギターで参加しているが、彼の父であるすずきまさかつ(鈴木正勝)も、1974年に梶芽衣子のアルバム『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』をプロデュースした人物。大野克夫や松任谷正隆らが参加した、ソフトロック仕様のアルバムで、親子二代に渡る梶芽衣子ワークスは、いずれも「怨み節」に代表される従来のイメージを大きく覆すものだった。

ⓒTV MAN UNION, INC.

この中に収録された「舟にゆられて」が、海外の映画監督から使用の許諾が来たことなどを明かし、バンドの紹介へ。メンバーはISAO TANAKA(G)、ICHIRO(B)、KANGO ANZAI(Dr)、酒井ミキオ(key)、そして音楽監督でもある鈴木慎一郎(G)。

パワフルなロックチューン「上等じゃない」

バンドがいったん袖にはけた後、キーボードの酒井ミキオと梶だけがステージに残り、「とばり」を歌い出す。3拍子のノスタルジックな曲調で、途中で梶が歌詞を間違え最初からやり直すというハプニングもあったが、観客も終始和やかなムードで、梶の挑戦を見守っていた。そして再びバンドを呼び込み、自身の口癖を鈴木が歌詞に引用したというパワフルなロックチューン「上等じゃない」をギラついたサウンドで聞かせてくれた。リードギターISAOのソリッドなギターソロ、メンバー最年少KANGO ANZAIの荒削りだがパワフルで瑞々しいドラミングも、この曲の挑発的な歌世界と絶妙にマッチしている。

それにしても、とても喜寿を迎えたとは思えない声の張りで、演奏陣のパワフルなサウンドに負けることのない、力強く確信に満ちたヴォーカルは、「怨み節」のセリフを呟くように歌う歌唱法とは全く異なる印象を受ける。それはまるで黒ずくめの男たちを従えて戦いの場に向かうアウトローヒロインの姿にも思えた。

ⓒTV MAN UNION, INC.

“私、今歌うことがとっても楽しいんです。6年前のライブから、歌ってこんなにいいものかって。もっと歌いたいと思うようになりました” と語り、”ロックは演歌と違って一本道ではないけれど、頑張ってみたい” と今後の抱負を述べた。そして最新アルバムから「それだけで…」に続き、代表作の1つ「修羅の花」が本編ラスト。この曲は73年の映画『修羅雪姫』の主題歌で、2003年にクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』の挿入歌として使用されたことで、一躍脚光を浴びた楽曲だ。今回の『7(セッテ)』にも新たなロックアレンジで収録されており、歌の前には作曲者である平尾昌晃とのエピソードを懐かしく語っていたのが印象的だった。

アイコールは八代亜紀の名曲「舟唄」も

アンコールに応えて登場した梶芽衣子は、改めてオーディエンスに感謝の言葉を述べた後、 “1曲ぐらいは人の曲を歌ってみようと思いまして” と述べ、酒井ミキオを再び招き入れ、八代亜紀の名曲「舟唄」をキーボード1本のバックで歌い上げた。

この曲は1980年にリリースされたアルバム『酒季の歌』でカバーされており、声質や歌いぶりもどこか八代を思わせるものがあるが、物語を紡ぐかのようなしみじみとした語り口は、女優の歌ならではの魅力だろう。歌い終わりに “八代さん、安らかに” と稀代の名歌手へ哀悼の意を述べた。

再びバンドメンバーを呼び込んで、最後は “もう1曲、やってない曲があるんです” と語れば、会場は待ってました! の大盛り上がりに。もちろんその曲とは「怨み節」。こちらも「修羅の花」同様、ブルージーなロックスタイルにアレンジされて歌われる。前半は梶がロックテイストの曲調に挑戦していく様を目の当たりにしたが、「修羅の花」以降は、むしろバンドが梶芽衣子ワールドに今のサウンドスタイルでトライしていく、そんな印象も受けた。

ⓒTV MAN UNION, INC.

鳴り止まぬ拍手とアンコールの声に、再び登場した梶芽衣子は、“もうやれる曲は全部やっちゃったわよ!” と嬉しそうに語ると、鈴木が “同じ曲でいいんですよ!” と返し、1曲目に披露した「愛の剣」を再びフルバンドで歌い、6年ぶりのライブは大盛況のうちに幕を閉じた。“今日はどうもありがとうございました。またお会いしましょう!” と告げてステージを後にした梶芽衣子は、歌手キャリア50年を超えて、なおキレッキレの現役シンガーであった。次なるライブが待ち遠しい。

カタリベ: 馬飼野元宏

© Reminder LLC