《リポート》「貸し切り」タクシー実証 茨城・大洗町、最大11キロ500円 高齢者や妊婦 交通弱者の支えに

大洗町が4月から実証を始めた500円タクシーは最大11キロを移動できる=大洗町五反田

数百~1000円で気軽に利用できる〝ちょい乗りタクシー〟で、茨城県内の自治体でも「貸し切り運行」の動きが広がっている。同県水戸市が2019年から本格導入したのを皮切りに、23年から結城市、今年4月から大洗町が実証に乗り出した。同町では最大約11キロを500円で移動でき、交通空白地域に暮らす高齢者のほか、妊婦や要介護者など「交通弱者」に広く対応する。タクシーの閑散時間帯を活用し、協力事業者も「稼働率が上がって売り上げ増につながりそう」と期待する。

■全域ワンコイン

「1人で暮らす高齢者の外出を促せそう」。同町の実証に協力する「グリーン交通」(水戸市浜田町)の鬼沢正光会長(76)は「500円タクシー」の手応えを語った。

運行記録では、町中心部の利用者宅からスーパーまで5分程度の乗車があれば、町南部にある自宅から海沿いの病院まで約10分の利用とさまざまだ。

実証に協力するのは同社と「ひまわり交通」(同町五反田)の2社。

町によると、町北端の海門橋手前から南端の鹿島臨海鉄道大洗鹿島線涸沼駅まで、通常4500円ほどかかる道のりも500円になる。

実証では町内限定で自由に乗り降りでき、用途も回数も制限はない。運行は午前9時~午後4時で、タクシーの稼働率が下がる閑散時間帯。5月20日までで延べ175件の利用があり、「生活のいろいろな場面で使える」と歓迎する声が聞かれたという。

タクシーに注目したのは3月策定の町地域公共交通計画から。策定に伴う調査では、中心部から北部にかけて、徒歩圏内にバス停のない交通空白地域があり、中には高齢化率が高い上に道路が狭く、急坂の多い地区もあった。町民アンケートや聞き取りで、バスの減便や停留所と目的地の遠さが挙がり、タクシーの利点が見直された。

■活性化に

県交通政策課によると、交通空白地域の解消や交通弱者の移動手段を確保するため、県内約30自治体で、対象エリアを定額運賃で走行する乗り合いタクシーが運行している。

一方、相乗りせずに一組の乗客で貸し切るサービスは同町のほか、水戸市の「水都(すいっと)タクシー」、結城市の「高齢者タクシー」がある。水戸市は市境に近い郊外の住民限定で、結城市は65歳以上の市民が対象。自治体が車両を借り上げる形で稼働台数も限りがある。

これに対し、大洗町は75歳以上の町民に加え、要介護者、障害者、妊婦、未就学児(保護者同伴)もOK。町役場で事前登録し、予約時に利用の旨を伝えた上で、乗車時に登録証を見せればいい。介助者も同乗できる。

実証に協力する2社によると、利用客には「値段設定が分かりやすい」と好評で、運行時間の延長を望む声も寄せられた。ひまわり交通の吉川勝弘社長(59)は「商店街や町の催しに行く使い方もいいかも」と町の活性化にも期待を寄せる。

通常の運賃との差額は、町の本年度一般会計予算で計上した821万円から補う。町は既存の交通網であるタクシーの活用で導入費を抑えられたという。

町の担当者は「ドアを開ければもう目的地に着く『ドア・ツー・ドア』の公共交通で、バス停まで移動するのが難しかった町民の気軽な外出を支えたい」と広がりを望んでいる。

© 株式会社茨城新聞社