齋藤潤、『カラオケ行こ!』『正欲』で爪痕を残す 『9ボーダー』でさらに“発見”される予感

「出会ってしまった」

映画やドラマを観ている時、そう思わせる俳優に出会ったことはないだろうか。弱冠16歳にして、さまざまな作品でそんな爪痕を残し続ける俳優がいる。

そんな俳優の名前は、『9ボーダー』(TBS系)第6話から本格登場する齋藤潤。第4話の最後、第5話の最初でわずかに登場し、SNS上には「あの子は誰?」という声が数多く上がった。一方で、『カラオケ行こ!』の岡聡実役の子だと気づいた人も多いだろう。

1月に公開された映画『カラオケ行こ!』で、齋藤は合唱部で部長を務める中学生男子・岡聡実を演じている。本作は、岡聡実とヤクザの男・成田狂児(綾野剛)が出会い、カラオケの練習を通して不思議な友情を芽生えさせていく物語。聡実は中学生らしい小生意気さと神聖さが両立した役柄で、いつもスンっとした無表情で誰に対しても本心を明かさない。当時15歳だった齋藤にしかできない役だが、感情が表現しにくい役であるとも言える。

そんな多くを語らない聡実は、自身の声変わりによりソプラノの音域が上手く出せなくなっていくことに深く悩む。齋藤は、そんな彼の悩みをどこか諦めたような声色や表情の変化で、繊細に表現していた。そして聡実の葛藤や狂児との絆が積み上げられたラストに捧げられる「紅」。これまで感情表現が乏しかった聡実が感情を爆発させて、必死に歌い上げる姿にはどうしたって目が奪われてしまう。

映画『カラオケ行こ!』は、原作漫画の人気の高さから実写化に厳しい目が向けられていたことは否めない。しかし、上映されるとそのクオリティの高さからロングラン上映となり、繰り返し舞台挨拶が行われるほどの人気を見せた。脚本や演出の巧みさ、綾野剛をはじめとしたベテラン俳優たちの名演はもちろんだが、新人俳優・齋藤潤が岡聡実として懸命に生き抜いた軌跡があったことも、ここまでの人気作となった一因と言えるだろう。齋藤はオーディションで岡聡実役に抜てきされており、本作が銀幕デビュー。岡聡実として齋藤潤を見つけたことは、この映画の功績の一つだ。

2020年にデビューし『カラオケ行こ!』で高い評価を受けた齋藤だが、その他の作品でもその存在感を感じることができる。

『トリリオンゲーム』(TBS系)第1話では、主人公・天王寺陽(目黒蓮)の中学生時代を演じた。無邪気な笑顔から一転、目から光を消して不良に殴りかかる姿からは、大人の陽と地続きとなる得体の知れなさが感じられる。

映画『正欲』では、自身の性的嗜好に悩む佐々木佳道(磯村勇斗)の中学生時代を演じている。実はこの中学生時代のシーンには、セリフがほとんどない。それでも主人公・夏月の方を振り向く瞬間や水道から噴出する水を浴びながら恍惚の表情を浮かべる姿からは、佳道が抱えてきた罪悪感や夏月との仲間意識の芽生えを感じることができる。

2作とも作中に登場するのはほんの一瞬。それでもその瞬間を逃さずに、たったワンシーンで作品の空気を変え、視聴者に強烈な印象を与える存在感を見せている。繰り返すがまだ16歳。自ら望んで俳優の道に進んだ彼は、今後はどんな役でその輝きを示すのか。

キーパーソンとなりそうなタイミングで登場する『9ボーダー』と、5月31日公開の映画『からかい上手の高木さん』で、さらにその名を世に知らしめて欲しい。
(文=古澤椋子)

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