「こんなにかっこいいんだ」舘ひろし『西部警察』から『あぶ刑事』へ!柴田恭兵の軽くてオシャレなお芝居「舘さんがチャーミングだったから」

舘ひろし・柴田恭兵 撮影/有坂政晴

1986年にスタートし、2作のテレビシリーズと、7作の劇場版が公開されてきた『あぶない刑事』。最新作である第8弾『帰ってきた あぶない刑事』が、タイトル通り、帰ってきた。主演を務める舘ひろしと柴田恭兵はそれぞれ御年74歳と72歳。ダンディでセクシーなスーツにサングラスでバシっと決め、混じるシルバーヘアは隠さずに。スクリーンからそのまま抜け出たように目の前に現れたタカ&ユージこと、舘さんと柴田さんが『あぶない刑事』とTHE CHANGEを語る。【第1回/全5回】

都心の高層ビル。30階を超す高層階で舘さんと柴田さんの取材は行われた。早く取材部屋入りした舘さんが、ガラス張りの窓辺に佇む。外を見やるその姿だけで、完全に映画のワンシーンだ。見惚れていると、舘さんが取材席の前で立っていたインタビュアーのもとへと歩み寄ってきた。

「そんな立っていないで。腰かけてください。肩でも揉みましょうか?」

あまりのスマートさに立ち眩みを覚えていると、ほどなくこれまた笑顔に余裕がにじむ柴田さんが入ってきた。タカのもとにユージが合流。写真撮影のためにとサングラスを手に取るふたりは、そのまま事件を前に走り出しそうだ。

――2016年の『さらば、あぶない刑事』から8年。劇場版第8作が公開です。改めて『あぶない刑事』、そしてタカ&ユージとの出会いが、舘さんと柴田さんの役者人生に与えたTHE CHANGEを教えてください。

「僕は恭サマのお芝居にすごく影響を受けてるんです。自分がそう思っているだけかもしれないけれど、恭サマと出会ったことによって、すごく軽いお芝居もできるようになった気がします」

恭サマと出会い、『西部警察』の世界から『あぶない刑事』の世界へ

――そうしたお芝居には、最初は驚きも覚えましたか?

「驚きでしたね。僕は東映でデビューをして、そのまま映画を何本かやり、石原プロの『西部警察』の世界に入りました。基本的に重い、義理人情の世界にいたわけです。柴田恭兵という人によって、軽くてオシャレなお芝居を初めて見ました。“こんなにかっこいいんだ”“お芝居って、もっと軽くていいんだ”と。今まで自分がいいと思っていたお芝居とは、全く違うものだった。すごく刺激になりました」

――では『あぶない刑事』との出会いというのは、舘さんにとってはイコール。

「恭サマとの出会いです」

柴田「昔は、アドリブって言ってはいけなかったんです。そうした時代でした。でもこの『あぶない刑事』の企画が出たときに、楽しいことをやりたいと思いました。僕はアドリブをたくさん言いたいと思った。でもアドリブというのは、ひとりではできません。その場のニュアンスで生まれるものですからね。ニュアンスが楽しいんです。舘さんがすごくシリアスな芝居をしていて、そこを僕がつつく。こうしてね」

隣に座る舘さんを優しくつつく柴田さん。

柴田「そうすると舘さんが“なにするんだよ”となる。これがおかしい(笑)。台本には全く書かれていないんですから。つつくなんて。真面目にしているタカに僕がちょっかいを出す。無視されるから、さらにつつく。ここで生まれるちょっとしたニュアンスがおかしい。僕が変な芝居をするので、舘さんは、たしかに最初はアドリブが苦手という感じもありました。でもその感じもすごくチャーミングだったんです」

「遊ばれてたんです」

柴田「ステキだったんです(笑)。はじめ鷹山はすごく冷静沈着でクールでした。でもそこにちょっとお茶目な部分を見せたいと思ったんです。だから“舘さん、エプロンして”と(笑)。そしたらそれがまたチャーミングで、かっこよくて。役者としてチャレンジさせてもらって、僕自身もチェンジしました」

鮮烈だった恭サマのアドリブ

「昔ね、日活で撮ってたんです。そこで本当に最初のほうのエピソードで、ふたりでラーメンを食べてたんですよ。そしたら本番で突然、恭サマが“タカ、ナルト、ちょうだい”と言ってきて。僕は“ええ!?”と(笑)。“あ、ありがとう”って、そう言うのが精一杯でした」

――具体的に覚えているんですね。

「鮮烈でしたからね。“タカ、ナルト、ちょうだい”って。突然(笑)」

――柴田さんは、それまでのお芝居でアドリブをやってきたわけではないんですよね?

柴田「してません。役者は台本をちゃんと言いなさいという時代でしたから。僕は舞台から出てきましたし。特に舞台ではアドリブなんて言っちゃいけないんです。決められたセリフをひと月、ふた月と稽古していく。あとは山田太一さんの作品とかね。山田さんの本は、セリフ自体にアドリブに近い部分があったりして、とてもステキな本だということもありますが、とてもアドリブを言うような世界ではありません。『あぶない刑事』の本はいろんな人が書いてくれましたが、もっと膨らむように、もっと楽しくなるようにと思ったんです」

――そうやって『あぶない刑事』の空気が生まれていったんですね。

柴田「あっちゃん(浅野温子)も(仲村)トオルくんもベンガルさんも、僕らだけじゃなくてね。それをちゃんと受け止めてくれた中条(静夫)さんが真ん中にいて、締めるときは締めていたから、ドタバタにならず、締まるときにはちゃんと締まる港署が出来上がったんだと思います」

※中条静夫・・・『あぶない刑事』シリーズにて神奈川県警察横浜港警察署の捜査課、近藤課長を演じた。

舘さんと柴田さんだからこそ出来上がった『あぶない刑事』。作品との出会いを、「イコール恭サマとの出会い」と断言した舘さん。その言葉を受け止める柴田さんとの間には、8年ぶりの新作とは思えぬ、なんとも言えぬタカ&ユージ空気があった。

舘ひろし(たち・ひろし)
1950年3月31日生まれ、愛知県出身。76年に映画『暴力教室』で俳優デビューを飾る。ドラマ『西部警察』をきっかけに石原プロに入社する。36歳の時に『あぶない刑事』のタカ役でブレイク。18年には『終わった人』で第42回モントリオール世界映画祭最優秀男優賞を受賞した。近年の主な映画出演作に『アルキメデスの大戦』『ヤクザと家族 The Family』、土方歳三を演じて話題を呼んだ『ゴールデンカムイ』など。現在、ドラマ『ブルーモーメント』に出演中。

柴田恭兵(しばた・きょうへい)
1951年8月18日生まれ、静岡県出身。1975年に劇団「東京キッドブラザーズ」に入団。1986年、ユージを演じたドラマ『あぶない刑事』でブレイク。ドラマ『はみだし刑事情熱系』『ハゲタカ』など、さまざまな作品で演技派として認められている。主な出演映画に『野蛮人のように』『福沢諭吉』『集団左遷』『半落ち』『北のカナリアたち』など。今年2月から放送されたドラマ『舟を編む 〜私、辞書つくります〜』での演技も支持を集めた。

© 株式会社双葉社