曲調はポップでも…なぜか怖かった!? 「トラウマ」で語り継がれる「みんなのうた」の名曲

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1961年に放送開始されて以降、現在まで長い歴史を持つNHKの音楽番組『みんなのうた』。さわやかで元気が出る曲調のものから、ヒット歌手を起用した曲まで、番組からはさまざまな名曲が誕生した。しかし、中には油断して聞いていると思わず「ゾッ」としてしまうような「トラウマ曲」と呼べるような曲もある。

曲調はポップでも歌詞が不気味だったり、映像で描かれるストーリーがダークだったりと、その怖さはさまざま。子どもにとってはなぜ怖いのか分からないようなものもあり、逆にそれらの曲が大人になってからも忘れられないという人も多いのではないだろうか。

■イカロスの悲劇『勇気一つを友にして』

たとえば、『みんなのうた』の「トラウマ曲」としてよく話題に上がるのが1975年に放送された『勇気一つを友にして』だ。

ギリシャ神話のイカロスの話をモチーフにしたこの曲は、ロウで固めた羽を身につけたイカロスが空に飛び立つというもの。空を自由に飛べるようになるが、あまりに高く飛びすぎたため、太陽に近づくにつれて熱でロウが溶け、翼が壊れてしまう。翼を失ったイカロスは、そのまま落下。最後はイカロスの死を無駄にしないようにと、仲間たちが意思を強く固めるという歌詞だ。

タイトルは『勇気一つを友にして』と、希望に満ちた雰囲気なのだが、突然のイカロスの最期は衝撃的だ。青い空を飛んでいるイカロスの映像から、突然背景が赤くなり、翼がバラバラになるという映像も、なかなかにショッキングであった。

この曲は小中学校の教科書に掲載されていた時期もあり、音楽の時間に歌ったという人も多いのではないだろうか。勇気を見せたイカロス本人がバッドエンドとなるのは、子ども心に悲しい気分になったものだ。

なお『勇気一つを友にして』はテレビ朝日系のバラエティ番組『マツコ&有吉の怒り新党』でも話題になったことがあり、有吉弘行さんが「俺のトラウマソング」「すげえイヤな歌」と当時の思い出を振り返っている。そのドラマチックな内容が印象に残っているという人は少なくないだろう。

■バッドエンド感が漂う『メトロポリタン美術館』

同じく「怖い」とよく話題になるのが、1984年に放送された大貫妙子さんの楽曲『メトロポリタン美術館』だ。

天使の像に魅せられた女の子が誰もいない夜のメトロポリタン美術館で遊ぶという曲で、夜の美術館をテーマにしているため、ストップモーションで撮られた映像は全体的に薄暗い。2番では、ぐるぐる巻きの包帯をほどいたりしながらファラオのミイラたちと遊ぶ様子が描かれる。

全体的に不思議な歌詞ではあるものの、曲調はポップで明るいイメージだ。しかし、「トラウマ」として語られるのが曲の最後。夢中で遊んでいた少女は、たどり着いたある絵画の中に閉じ込められてしまう。映像的にも人形であった少女が、完全に絵に溶け込んでしまい、動かなくなってしまうのだ。

大人になって歌詞を読み解くと、楽しすぎて絵の中に入り込むような感覚になるという幸せな歌だと解釈できるのだが、子どもの頃は、深夜の美術館に忍び込んだ罰で、少女が絵の中に永遠に閉じ込められてしまったバッドエンドのように感じてしまった人もいるだろう。

その薄暗い映像とあいまって、「怖い曲」として記憶に残っている人も多いのではないだろうか。

■不気味な夜の世界を描く『まっくら森の歌』

最後は、1985年に放送された谷山浩子さんの楽曲『まっくら森の歌』。

闇の中では物の見え方が違うと、視聴者の子どもに教えてくれる歌詞となっており、暗闇が怖くなるきっかけともなってしまった歌である。

映像は、猫とネズミの二匹が真っ暗な森に迷い込むというもの。子ども心に夜の世界は怖いもので、卵型の何かが地をはっていたり、目が光る虫がいたりと、映像に出てくる生き物は不気味なものばかりだった。

中でも強烈なのが、影が強調された巨大な魚が不意に登場してギョロッとカメラに視線を向けるシーンだ。寝ているフクロウが、夜になると急に羽を広げこちらに向かってくるシーンにも肝を冷やしたものだ。

「まっくら クライ クライ」と繰り返されるフレーズも、どこか奇妙。低めのメロディーになるのも相まって、恐怖感が高まった思い出がある。

真の歌詞の意味を理解すると、本当は希望があったり、実は楽しい歌詞であったりするのだが、深く考えずに聞くと、ホラー感が強い。今回紹介したのは怖いと言われた『みんなのうた』だが、当時「逆に安心する」という子どももいた。あなたはどう感じただろうか。

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