【5月24日付編集日記】郵便値上げ

 「竜文切手」は1871年に発行された日本最初の切手。江戸末期に藩札の彫刻などを手がけ、当代きっての銅版彫刻師とされた松田敦朝らによる作品だ。中央に「銭四十八文」など値段が記され、2頭の竜が向き合う形で彫られている

 ▼鉄道開業の前年で、もちろん車はなく、手紙は人力で運ぶしかなかった。料金は距離に比例し、東京―横浜間で48文。この頃、そば1杯が15文程度というから現代なら千円近くする換算だ。決して安くはない

 ▼2年後、料金は全国一律になった。どんなに遠く離れた場所にも同料金で送れる仕組みは、今に受け継がれている。スマートフォンなどで瞬時に文書をやりとりできる現代でも、送り主の気持ちが手書きの文字から伝わる手紙やはがきは代え難い存在だ

 ▼郵便料金が10月にも値上げされることが決まった。手紙は現在の84円から110円、はがきは63円から85円になる。値上げは消費税増税時を除くと30年ぶり。人件費や輸送コストの高騰で踏み切った形だ

 ▼ただ今回の値上げでも、黒字を維持できるのは1年間だけという。値上げをしても、まだ割安感はある。150年以上続く郵便文化を守るのにこれで十分なのだろうか。少し気がかりだ。

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