【5月24日付社説】国見の救急車問題/健全な執行か厳正に検証を

 国の地方創生政策に民間企業への依存度を高める側面があるとはいえ、官民連携事業で公金を無駄にした国見町の責任が免除されるわけではない。事業執行の公正性と透明性が問われる。

 官民連携で開発した高規格救急車を貸し出す町の事業が頓挫した問題を巡り、町議会の調査特別委員会(百条委員会)は、6月中に報告書をまとめる。町の第三者委員会も検証に当たっている。

 町は企業版ふるさと納税で寄せられた約4億3千万円を事業費に充てた。公募で受託者に選ばれたのは備蓄食品開発やコンサルティング業などを展開し、町に救急車事業などを提案した宮城県の企業だ。しかし前社長が「行政機能を浸食する」などと発言していたことが分かり、契約の解除に至った。導入した救急車12台は県内外の消防本部などに譲与された。

 事業の提案から契約解除まで一企業に振り回され、4億円超の公金を無駄にした形だ。町の対応はお粗末と言わざるを得ない。

 百条委で問題視されているのは町と受託企業の関係だ。救急車の仕様書の作成に当たり、町は事前に受託企業から参考資料の提供を受けた。町はさまざまな資料を参考にしたと説明しているが、その他の資料は残っていないという。

 今年3月の百条委では、町職員が、公募に関する決裁前の文書を受託企業側に見せていたとみられる資料が示された。この件について、町は精査中としている。

 町は公募手続きに問題はないとしているが、事前の擦り合わせで競合他社が応募しにくくなるよう仕向けたのではないか―との疑念は拭えない。百条委と第三者委には、厳正な検証が求められる。

 コンサル企業が過疎自治体の事業に関わるケースは少なくない。背景には、企業は公的市場の開拓を目指す一方、人材不足や財政難にある自治体は民間のノウハウなどを求める現状がある。

 企業提案の事業が頓挫するなどした事例は全国に散在している。補助金や企業版ふるさと納税の税制優遇を狙って自治体に近づく企業もあるとされており、それを可能とする制度にも問題がある。

 県外では官民連携事業を巡り、自治体が予算を適正に執行しているかを確認する住民監査請求が行われたケースがある。ある関係者は国見町でも「官製談合の有無とは別に、住民監査請求があってしかるべきだ」と指摘する。

 より多くの町民が、町全体の財産を守る意識を高めることが重要だ。今回の問題を含め、町の財政運営の在り方を注視してほしい。

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