永野芽郁、高橋文哉だから出せた原作の空気感―映画『からかい上手の高木さん』今泉力哉監督インタビュー

永野芽郁と高橋文哉が初共演する映画『からかい上手の高木さん』が公開される。原作は山本崇一朗による同名人気コミック。中学で隣の席になった女の子・高木さんに何かとからかわれる男の子・西片。どうにか高木さんにからかい返そうと策を練るもいつも見透かされてしまい失敗。そんな二人のからかいをめぐる日常が描かれている。映画はとある理由で高木さんが島を離れることになり、離ればなれになってしまってから10年が経った頃、島で再会するところから始まる。公開を前に今泉力哉監督にインタビューを敢行。作品に対する思いやキャストについて語ってもらった。(取材・文/ほりきみき)

原作の空気感を大切にしたい

──本作のようにカラッとした明るさのある恋愛作品は監督の作品では珍しい気がします。監督オファーを受けたとき、ご自身のどんな部分がこの作品に活かせると思いましたか。

今までの作品は浮気や不倫などを扱ったものが多く、一見この作品とは反対に見えるかもしれません。でも、それらの登場人物たちも、器用でずる賢く生きているというよりも、正直に目の前の状況と向き合い、悩んでいる人たちのお話でした。今作も、好きな相手に堂々と好きと言える、みたいな人たちの話ではない。恋愛に対して真面目で、考えすぎてしまう辺りは、これまでの作品と共通するな、と思いました。

高木さんが西片を好きということは明白だけど、西片は自分が高木さんのことを好きなのかどうかはっきりとは分かっていない。高木さんは、自分の正直な想いを伝えたら今の関係性が壊れて、変に気まずくなったりするんじゃないかと考えている。そういう些細な悩みや葛藤にはずっと興味がありましたし、今までの作品との差はそこまで感じませんでした。

──10年が経過し、大人になった2人が再会するところから物語は始まります。

“どこを描くか”については脚本家チームやプロデューサー、みんなで話し合いました。原作は本当にピュアな中学生2人の物語で、映画でもその空気感を大切にしたいというのはもう絶対条件。そのうえで原作の関係のまま大人になった2人を描くのはどうかという話になりました。原作からあまり時間が経過していない高校時代ではなく、10年経過させることで純粋さがより際立ち、変わらない部分がある良さが見えてくる。その辺りを意識して、時間を設定しました。

そんな2人の周りには、結婚する同級生カップル、付き合っては別れてを繰り返している同級生カップル、告白したことをきっかけに少しだけ気まずい関係になっている教え子の中学生などを配置しました。恋愛においては、それらの登場人物たちは全員、告白すらしていない高木さんと西片の少し先を行く<先輩たち>になる。2人が様々な関係性のカップルから影響を受けて、自分たちの気持ちに向き合っていく流れになれば、と考えました。

また、原作には「からかい上手の(元)高木さん」というスピンオフ漫画が存在していて、そこにある設定はできるだけ生かしたいと思い、10年経ってはいるものの、その間、高木さんも西片も他に好きな人ができたり、他の人と付き合っていた経験などは一切ないことにしました。

24~25歳だとそれはけっこうなファンタジーだと捉える人もいるかもしれません。しかし、そこだけは遵守することで、逆に独自性というか、作品のオリジナリティが生まれて、なおかつ、ピュアさが保てた気がします。第三者を登場させて、その人を好きになって、で、一方が嫉妬して、みたいなことをすると物語は作りやすいのですが、ありきたりなものになるかもな、と。それはわざわざ、この原作の実写化でしなくていいことだと思いました。原作ファンの方々にも楽しんでもらえるよう、出版社の方も交えて丁寧に作っていきました。

──原作者の山本崇一朗さんの地元、香川県小豆島で撮影されました。

原作では舞台がどこか、具体的に描かれていませんが、アニメのときに小豆島が出てきて、実際に先生の故郷ということもあり、今回は小豆島で撮影をしました。

もし、都会で撮っていたら、大人であのピュアさでいるのがもっと嘘っぽくなってしまった気もします。小豆島の景色や空気に助けられながら撮影を進められて、本当に良かったです。

天真爛漫さと高い演技力を併せ持つ永野芽郁

──高木さんを永野芽郁さん、西片を高橋文哉さんが演じています。

中学生の頃と変わらない純粋さやあの空気感を誰なら出せるんだろうと思っていましたが、プロデューサーから2人の名前が挙がり、ぴったりだなと思いました。実際、衣装合わせで初めてお会いしてみて、これはもう間違いないなというくらい、2人は高木さんで西片でした。

永野さんは全体の本読みのときに、自分のシーンではなくて、西片の教え子の中学生、大関と町田のとあるシーンを読み上げているのを聞いた時に、「くー、このシーン、いい!」と感激していて。そういう純粋な場面で、きちんと素直にキュンキュンできる永野さんになら、安心して高木さんを任せられるなあ、と思ったことを覚えています。

また、花火のシーンは、実際に島の花火大会に合わせて撮影したのですが、「きれい!」と純粋に楽しんでいました。そんな天真爛漫さと高い演技力を併せ持ちつつ、技術に頼らず、ちゃんと目の前の人と芝居ができる。10年後という設定ゆえに、どうしても大人の色気みたいなものが出てしまう可能性もあったのに、その辺りも永野さんはわかっていて、明るく快活にいてくれて、絶妙な加減で微調整してくれました。素晴らしかったですね。

──西片の高橋さんはいかがでしたか。

西片のような天然な部分がご本人にあるのかどうかはわかりませんが、高橋さんはとても真面目な方で、その点では西片感はあったような気がします。先にドラマを撮影して、編集を終えていたので、高橋さんは中学生の西片を演じた黒川くんの芝居を見て、決して真似るわけではないですが、「過去の自分はこんななのね」というのをヒントにできたみたいです。ドラマから映画に繋がっていく上で違和感がないように考えてくれてました。

公開に向けて、高橋さんと一緒に取材を受けたことがあったのですが、そのときに「西片は鈍感ですが、これだけピュアでいいヤツだったら、みんなに好かれますよね」と言っていて。それを聞いて、高橋さんは西片を演じることを楽しんでいて、ある種の不器用さをかわいいと感じて愛せる人なんだなと思いました。それはすごくよかった。演じる人によっては西片という人物を、オーバーなお芝居でカッコ悪くしたり、ダサくしたりする可能性もあったのですが、高橋さんは西片を見下していないので、そのドタバタさ加減も、まったく嫌みな感じがなかったです。

──具体的にはどのような場面でしょうか。

本当にちょっとした行動です。例えば、1つのイヤホンで一緒に聴こうと高木さんから言われて「わかったよ、聴くよ」といって横に座るときに両足を揃えずにばたばたっと段差を下りる瞬間とか、高木さんから置いていかれそうになって、慌ててリュックを背負るドタバタさとか。そのカッコ悪さが絶妙でした。

永野さんの芝居を受けてやったところとしては、プールのあと、着替えてからバスタオルで髪を拭いているシーンですね。「真似しないでよ」「真似してないよ」というやり取りがありますが、それは台本にはありません。テストか何かのときに生まれたアドリブで、そのやり取りが面白いので本番でもやってもらったのですが、そういうことって2人の関係や空気感、キャラクターを理解していないと生まれてこない。2人とも相手に合わせる能力が高かったので、随分と助けられました。

──永野さん、高橋さんには細かな演出はされなかったのですね。

からかわれるのを悔しがったり、嫌だといったりするけれど、それを全否定するのではなく、どこか楽しんでいるようなニュアンスは残したい。その辺りの加減についてはちょっと話をしましたが、演技について細かく話をすることはなかったですね。

──高木さんは大人になっても中学の頃と変わらず、西片への好意が駄々洩れでからかっていますが、西片は中学の時ほど向きになって、からかい返す策を練ろうとしなくなりました。

からかいは一歩間違えると意地悪に見えてしまいますが、からかわれた側がどう反応するかで観客の受け止め方が大きく変わってくる。もちろん、真剣にむかついたり、嫌がったりする部分は必要ですが、高橋さんはそこをちゃんと意識して、調整してくれていたように思います。

原作にはいろいろなからかいがありますが、大人がやってもからかいとして成り立つのか、24~25歳のリアリティとのバランスを考えて、脚本に落とし込んでいます。さすがに中学生でなければ成り立たないものもありますからね。本当に嫌がっているように見えないように気をつけました。

──高橋さんのお人柄がわかるようなエピソードはありましたか。

高橋さんはとにかく、すごくいい人です。僕がずっと家を空けて撮影をしていたので、夏休み期間に家族が小豆島へ遊びに来たのですが、息子たちは高橋さんにとてもかわいがっていただきました。現場で一緒に炊き出しを食べたときも、息子たちは高橋さんにすっかり懐いて、久しぶりに会った父親の僕ではなくて、高橋さんと一緒に食べていて(笑)。「野菜もちゃんと食べなよ」と息子たちに言っておいたら、息子たちが残した野菜を高橋さんが食べてくれたらしくて。いい人すぎませんか。

──撮影を振り返り、永野さん、高橋さんはいかがでしたか。

永野さんは技術がとても高く、しかし技術で演じるのではなく、きちんと感情で演じてくれる人。本当に繊細なお芝居ができる人だと思います。細かいニュアンスの差も理解してくださるので、演出していて楽しかったです。けっこうお任せも多かったです。

高橋さんは芝居が好きな方ですね。また、細かいことでも気になったら聞いてきてくれましたし、お互いにいろいろな話をしました。

これまでイケメンのカッコいい役が多かったと思いますが、西片のような役も楽しんでやってくれていたので、場数を踏んだら、もっともっといける気がします。僕みたいなタイプじゃなく、がっつり厳しい監督さんと一回やったらいいんじゃないかなとも思います。より高みを目指してほしいし、もっといろんな役を見てみたいです。

原作者と原作ファンが喜んでくれるものにしたい

──ドラマと同じようなシチュエーションが映画にもあり、それを重ねるように編集をされていました。それを見ていたら、ドラマも見たくなりました。

あれは僕のアイデアというよりも、カメラマンや編集マンといったいろんなスタッフのアイデアです。僕が現場で「ドラマと同じアングルで」と言ったわけではありませんが、カメラマンは意識して撮ってくれていました。この作品をどういうものにするかという意識がスタッフみんな、すごく高かった気がします。

また、「曇っているから今日は撮影をやめよう。晴れの日に撮ろう」など、天気にもこだわって撮影しました。プロデューサーが全体の撮影スケジュール、予算など、いろんな面で、ゆとりを持って準備してくれたからできたことですが、現場に集まったのにその日の撮影がなくなったりしても、俳優部もスタッフも「いいものにするためにはそうしましょう!」という意識を持っていて、本当にありがたかったです。全般的にすごく丁寧に作れました。

──原作があるものを映画化する際に何か意識されることはありますか。

原作モノを映画化するときは、まず原作者と原作ファンが喜んでくれるものにしたい。この思いはすごく強いです。ですから、脚本執筆時などに、原作ファンの方々がその作品の何に惹かれているのか、原作へのファンの声、感想を検索して調べたりします。自分が原作を読んでいるだけでは気づけない原作の魅力に気づけるので。

この作品の脚本を作っているときも、原作ファンの声を検索しました。僕もこの作品を読んで面白かったのですが、なぜこの作品が特別にヒットしたのか、何が他のマンガと違うのかを知りたかったのです。それによって高木さんというキャラクターだけでなく、からかいを受ける西片のかわいらしさに魅かれている方が多いことがわかりました。これはこの作品を理解するうえでとても貴重な情報でした。

できあがった作品を原作ファンの方がどう見たかも気になって、よく検索しているのですが、先に配信、放送されたドラマを見て、「すごくよかった」という声も多く、中には「実写化に不安もあったけど、(ドラマを見て)手の平をひっくり返しました!映画も楽しみです」と書いてくれた人もいました。そういうものになればと思って作っていたので、すごくうれしかったです。

──これからご覧になる方々にひとことお願いいたします。

多くの恋愛モノ(創作物の中の恋愛)って、好きな人がいるところから始まって、その「好き」って気持ちは疑わずに進むものが多いと思います。そんな中で、“好きってどういうことなのか”に悩んでいたり、好きを伝えられなかったり、好きな気持ちを伝えたことで2人の関係性が変わるのが怖かったりといった、そういう恋愛の細部、機微を自分の映画では扱いたいという思いが常にあって。また、そもそも「好きな人がいる」前提で始まること自体がハードルが高いよ、好きな人とかいないよって人も一定数いて。現実の世界だって、24~25歳で誰かと付き合ったことがないとか、好きな人がいないって、全然珍しいことじゃないと思うんです。

この作品では、西片の性格の優柔不断さや真面目さ、また、二人のピュアさを通して、そういう人たちが見ても楽しめる恋愛映画を目指しました。この作品を見ることで、自分だけがこんなちっぽけなことで悩んでいるのでは、という思いから少しだけ解放されたり、誰かを好きになる手助けになったりしたら嬉しいです。中学生、高校生にも見てほしいし、大人の方が若い頃を懐かしんで見ていただいてもいいかなと思います。

<PROFILE>
今泉力哉
1981年生まれ、福島県出身。2010年、『たまの映画』で商業監督デビュー。2013年、『サッドティー』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品され、高い評価を受ける。2019年、『愛がなんだ』が大ヒットを記録。2023年、Netflix映画『ちひろさん』を手がけ、世界配信と劇場公開を同日に行う。その他の主な作品に『his』(20)、『あの頃。』(21)、『街の上で』(21)、『猫は逃げた』(22)、『窓辺にて』(22)、『アンダーカレント』(23)など。

『からかい上手の高木さん』2024年5月31日全国ロードショー

<STORY>
10年の時を越えて紡がれる、最高に愛おしい、初恋(からかい)の物語。
とある島の中学校。隣の席になった女の子・高木さんに、何かとからかわれてしまう男の子・西片。
どうにかしてからかい返そうと策を練るも、いつも見透かされてしまい失敗…。
そんなかけがえのない毎日を過ごしていた二人だったが、ある日離ればなれになってしまう…。
それから10年――、高木さん(永野芽郁)が島に帰ってきた!
母校で体育教師として奮闘する西片(高橋文哉)の前に、教育実習生として突然、現れたのだった!
10年ぶりに再会した二人の、止まっていた時間と、止まっていた「からかい」の日々が、再び動き出す――。

<STAFF&CAST>
出演:永野芽郁 高橋文哉
鈴木仁 平祐奈 前田旺志郎 志田彩良 白鳥玉季 齋藤潤 / 江口洋介
原作:山本崇一朗「からかい上手の高木さん」(小学館「ゲッサン少年サンデーコミックス」刊)
監督:今泉力哉 
脚本:金沢知樹 萩森淳 今泉力哉
主題歌:「遥か」Aimer(SACRA MUSIC/Sony Music Labels Inc.)
音楽:大間々昂 
配給:東宝 
(C)2024映画『からかい上手の高木さん』製作委員会 (C)山本崇一朗/小学館

映画『からかい上手の高木さん』公式サイト

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