嫌気がさした昭和体質「自分がやった方が早い」 “小中一貫”の野球チーム誕生のワケ

広島・福山ウエスト野球クラブの練習の様子【写真:チーム提供】

広島・福山市の「福山ウエスト野球クラブ」は小中一貫…全力で野球を楽しむ

子どもたちの未来を大切にする広島・福山市の「福山ウエスト野球クラブ」は、小中一貫の少年野球チームとして注目を集めている。小学生は軟式で連盟無所属、中学生はポニーリーグに所属。2021年に創部したチームの部員数は現在、70人を超えるほどになった。同チームの代表を務める福田明男さんは「1人1人をしっかり育てることが一番の目標」と、力を込める。

一からチームを作ったきっかけは、“昭和体質”の野球界に嫌気がさしたからだ。令和の時代でも暴言、罵声が飛び交い、米2合を食べさせる強制的な食育などを行うチームを目の当たりにした。本来、楽しむはずの子どもたちが、大人の顔色を伺いながらプレーする姿に違和感を覚え「これなら自分がやったほうが早い」と決断した。

全力で子どもたちが野球を楽しめる環境を作っている。チームの特徴は練習時間の短縮だ。平日はチームが確保した練習場で自主練習を行い、全体練習は土日祝日の半日のみ。その意図を福田代表は「子どもの集中力はもって1時間30分ほど。野球は効率の悪い練習をやると時間がかかる。集中してやる分、短時間でも私たちのチームの練習は厳しいと思います」と口にする。

子どもたちには「やや物足りない」と思うぐらいの練習時間だが、野球以外にも充実した日々を過ごしてほしいと考えている。空いた時間は家族や友達と過ごしたり、勉強に充てても構わない。強制的な押し付ける指導では「子どもたちは考えることをやめてしまう」とし、「やらされる練習ではなく、やりたい練習などを見つけることも大事」と、自主性を促している。

福山ウエスト野球クラブの集合写真【写真:チーム提供】

お茶当番などの保護者への負担なし…故障予防も重要視

チームはがっつり野球に打ち込む「Aチーム」と、楽しく上達を目指す「Jr.チーム」とにカテゴリー分けされ、選手のカテゴリー選択は自由。甲子園、プロ野球選手など個々により目標は違うため「自分に合ったカテゴリーを見つけてほしい。選ぶのは子どもたち」。新入部員募集のスカウト活動も行っていない。共働き家庭にも配慮し、お茶当番などの雑用をなくし保護者への時間的な負担はなく、練習の出欠管理もアプリを使い無駄な手間を省いている。

大切にしていることは“保護者目線”で視野を広げることだ。レギュラー9人だけが優先的に練習を行い、その他の補欠は球拾い。「保護者として、その姿を見るのはどうなのか?」。小・中学生の段階で将来の可能性を潰しては、必然的に野球が嫌いになってしまう。そのため、練習試合を含め預かった子どもたちには全員に出場機会を与えることを心がけている。

試合でしか得られない野球の楽しさや厳しさを伝えるなかで、注視しているのは成長段階で起こる故障だ。低学年からボールを投げることで、肘肩には思った以上の負担がかかる。実際に全国には幼少期の野球肘が原因で、プレーを断念する子どもたちがいる。

そこで、福田代表は地元の整形外科とタッグを組み、チームに怪我予防などの検診を取り入れた。「投げ過ぎもダメですが、幼いころに体の使い方を知ることが重要。体幹を鍛えたり、柔軟性を高めることで怪我を防げることもある。早く理解することで、将来にもつながります」。練習前のウオームアップも体を温めるだけでなく、トレーニングの一環として考えている。

創部3年目の若いチームだが、年々部員も増加し、地元でも注目のチームになりつつある。子どもたちの輝ける未来を作るため、福田代表は歩みを止めることはない。新進気鋭の「福山ウエスト野球クラブ」は、6月3日から開催される「少年野球フェスティバル」に登場予定だ。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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