【独白】「学校が無関係はおかしい」カンニング発覚の2日後に自殺 24日に初弁論 両親が取材に応じる「カンニングは悪い。指導は必要だが、適切だったのか」

大阪にある有名進学校「私立清風高校」の男子生徒が試験でカンニングをした2日後に自殺したことをめぐり、男子生徒の両親が学校側に損害賠償を求めて起こした裁判が24日に始まりました。裁判を前に、男子生徒の両親が読売テレビの取材に応じ、「カンニングが悪いことは分かっているが、だからと言って人格を否定する言葉を用いた指導が適切なのか問いたい」と訴えました。

■「母ちゃん大丈夫」と気づかう息子「学校の先生になるのが夢」

男子生徒の母親

「いつも『お母ちゃん大丈夫』と声をかけてくれるような子でした。学校とかでも馴染めない友達に自分から声をかけて一緒に帰ることもあって、卒業式に『ありがとう』って声をかけられることもありました」

真面目で責任感も強かった男子生徒は、公立の学校に通っていた中学時代は生徒会長を務めるなどし、卒業式では答辞を読み上げました。

一方、家族の中では踊ったり歌ったりしてみんなを楽しませる、ムードメーカー的な一面もありました。両親によりますと、「学校の先生になるのが夢」と話していたこともあったということです。

男子生徒の父親

「すごく真面目なところもあったので、警察官とかもいいかなと思っていました」

男子生徒の母親

「身体が大きくて力もあるし、お年寄りにも優しかったので、看護師とかが向いているのではと思ったこともあった。大学に行きたいと思ったら行ったらいいし、行く必要がないならその道に進んだらいいと話していた」

■カンニング発覚後…「ごめんね」繰り返す息子に励まし続けた両親

男子生徒は学習塾の勧めなどをきっかけに清風高校に入学しました。

訴状などによりますと、2021年12月、当時2年生だった男子生徒は、期末試験の1日目、倫理・政経科目の試験が行われた午前11時すぎ、カンニング行為が発覚します。

男子生徒は別室に連れていかれ、複数の男性教師らに囲まれながら指導を受けて、反省文を書かされるなどしたということです。学校に呼び出された母親の目の前で、カンニングがなぜ禁止されているか問われた男子生徒は「ずるいことをした」と答えます。しかし、「それにとどまらない卑怯なことだ」と問い詰められると自らのことを「卑怯者です」と言わされたとされています。男子生徒と母親が午後3時すぎに下校するまで、叱責や指導は約4時間にわたります。 清風高校では、常日頃から朝礼で「カンニングは卑怯者のすることだ」と訓話を行っていました。

母親は当時を振り返り、「自らのことを『卑怯者』と言う息子に違和感があった。帰り道に駅まで向かって二人で歩いている時に、『別に誰かを傷つけたり、人の物を取ったりとか、そういうことをした訳じゃないんやから、これからまた一緒に頑張ろうね。私も手伝うからね』と言ったのですが、その時は『うん』と言ってくれましたが、息子の中では色々思うところが多かったのではないかと思う」と振り返ります。

遠方で単身赴任中だった父親も、男子生徒から電話で「ごめんね」と言われたのに対し、励ましの言葉をかけ続けたということです。

■遺書に「もし生まれ変わるなら次も父ちゃんと母ちゃんのもとで」

全科目が0点となり、8日間の自宅謹慎を申し付けられた男子生徒には毎日反省日誌を書くことに加え、1巻1時間程度を要する「写経」を80巻分行うという課題が与えられます。

自宅謹慎の間、友人たちとの連絡を禁止され、翌日、男子生徒は1日中写経などに取り組みます。男子生徒は午前1時ごろになっても写経を続け、母親に「そろそろ寝なさいね」と言われても「キリのいいところまでやってから寝る」と話したということです。母親は「先に寝るね」と伝え、眠りにつきました。

翌朝、家から男子生徒がいなくなっていることに気がついた母親が警察に届け出ると、男子生徒は近所で変わり果てた姿で見つかります。死亡したのは、午前2時半ごろと推定されていて、課題に区切りをつけた後か、取り組んでいる途中にこっそり自宅を出て、自殺を図ったとみられています。

母親は当時の心境について、「救急隊が空のストレッチャーを持って帰って来たのを見て、もう病院にも連れて行けない状態なのだなと分かりました。本当につらくて、ダメなのだと分かって、単身赴任中の主人に連絡して大阪に帰ってきてもらいました。警察署の遺体安置所で対面したときには『遅くなってごめんね、母ちゃん来たよ』と謝りました。寒い朝でした。今でも12月頃の寒い朝は当時のことが思い出されて、ずっとずっと辛いです。なんであの時に、あの子が寝つくのを見てから寝なかったのかと、ずっとずっと悔やんでいます」と振り返ります。

写経の道具の下から男子生徒が書いた遺書が見つかり、「死ぬという恐怖よりも、このまま周りから(学校内から)卑怯者と思われながら生きていく方が怖くなってきました」と書かれていました。

続けて、「母ちゃん、いつも会社でしんどいのに早起きして弁当を作り笑顔で『いってらっしゃい』と言ってくれてありがとう(めっちゃうれしかった)。他にも色々な所で支えてくれてありがとう。もし生まれ変わるなら次も父ちゃんと母ちゃんの元で産まれ、今度こそ良い子で育っていきたいです。最高の家族でした。ありがとう。みんな、大好きです」と綴られていました。

■第三者委「指導が自殺の原因とは認定せず」両親「カンニングは悪いことだと分かってる。指導も必要。だが、『無関係』はおかしい」

男子生徒の父親

「カンニングが悪いことだと私たちも分かっていますし、指導が必要だというのは分かっているのですが、そのカンニング後の指導が厳しすぎないのかというところがきちんと調査されているのか、理解ができないのです」

男子生徒の母親

「あの子が宝物でした。今もまだ信じられなくて、『母ちゃん』って呼んでくれる声がまだ全然消えなくて。なんでここにいないのかなってまだすごく思ってしまいます。もっと迷惑をいっぱいかけてくれてよかったし、お弁当だってもっといっぱい作ってあげられたのにと思ったら、悔しくて…」

両親は、清風高校を運営する「学校法人清風学園」に対し、安全配慮義務に違反したほか指導が自殺の原因だったとして、1億円あまりの損害賠償を求め、4月、大阪地裁に訴えを起こしました。

男子生徒の死亡後、学校側が設置した第三者委員会は「『カンニングは卑怯者がすることだ』という表現はカンニングの禁止を超えた、一つの行為で全人格を否定するような強い決めつけを感じさせる」などと指導の問題点を指摘する一方、「指導が自殺に至った原因とは認定できない」と結論付けました。

第三者委員会は生徒へのアンケートは行わなかったほか、学校側が一方的に選任した委員だったことを不服として再調査を求めていますが、清風高校側は現在まで拒否しています。

また、遺族側の意見について第三者委員会は、「大阪府に対し『意見書』を添えて報告すればいい」と説明したものの、大阪府に意見書は受領されず、学校側に調査不足を指摘したものの、満足する回答は得られなかったということです。学校側は訴状の提出後、「係争中のため取材に応じることはできない」としています。

24日、大阪地裁で第一回口頭弁論が行われ、学校側は答弁書で、男子生徒への叱責について、「威圧的な言動はなされておらず、指導の際に立ち会った教師から『卑怯者』であるとの言葉を言わせていたとの証言は得られていない」と主張。「これまでに同様の指導を受けた生徒が自死等に至ることもなく、男子生徒の自死を予測することは困難であった以上、学校側には安全配慮義務違反はない」として、争う姿勢を示しました。

男子生徒の父親は「生徒によって指導の受け止め方が変わるということが分からないのか。過去になかったから問題がないから『指導が息子の死と全く関係ない』というのはおかしい」と話し、「学校でこのようなことが二度と起こらない社会になってほしい」と訴えました。

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