なぜ日本は医師が少ないのか…医学部生もOECD36カ国中34位

あと5年後に医師数が充足するなど、にわかには信じられないが…

韓国で、政府の医学部定員大幅増に反対した研修医がストライキを行った。日本でも広く報じられたため、ご存じの方も多いだろう。

韓国の医師数は少ない。人口1000人当たり2.6人(2021年)で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均(3.7人)を大幅に下回る。中国、メキシコ、コロンビア(いずれも2.5人)と同レベルだ。

韓国で医師が足りないのは、医学部の定員が少ないからだ。人口10万人当たりの医学部卒業生数は7.3人で、OECD加盟国では、イスラエル(6.8人)に次いで下から2番目だ。トップのラトビア(27.6人)の約26%に過ぎない。

では、日本はどうだろうか。日本の医師数は人口1000人当たり2.6人で、韓国と同レベルだ。医学部の定員も少ない。人口10万人当たりの卒業生数は7.3人で、OECD加盟国で韓国に次いで下から3番目だ。

少子高齢化が加速しているという点で、日本と韓国は酷似する。合計特殊出生率は日本1.26、韓国0.78だし、高齢化率(65歳以上人口の割合)は、日本29.1%、韓国17.4%だ。

高齢化率を考えれば、韓国より日本の方が事態は深刻だが、日本と韓国の対応は対照的だ。

2015年から厚労省で開かれている「医師需給分科会」は、2022年2月に「第5次中間とりまとめ」を発表し、その中で「令和11年頃に需給が均衡し、その後も医師数は増加を続ける一方で、人口減少に伴い将来的には医師需要が減少局面になるため、医師の増加のペースについては見直しが必要である」と結論した。

あと5年後に医師数が充足するなど、にわかには信じられない。

従来、厚労省は「医師は不足していない。偏在が問題である」という主張を繰り返し、4月15日、武見敬三厚労大臣は、衆議院決算行政監視委員会で「単に医師の増員によって医師不足が解消できるかといったら、そうではなかった」「規制を含めて、前例にとらわれない方法で問題を解決する政治的リーダーシップが必要」と説明した。

本当は、医学部定員の増員が不十分だったからだが、彼らはそうは考えない。従来進めてきた医学部地域枠などの仕組みに加え、新たな規制を設けて、若手医師に医師不足地域での勤務を義務付けるのだろう。

受け入れ先は国公立病院が中心となる。このような病院は労せずして、若手医師を確保できる。容易に利権になるだろう。コロナ禍以降、国立病院機構、国立がん研究センター、労働者健康安全機構、国立国際医療研究センターの職員が相次いで収賄罪などで逮捕された。いずれも厚労省が所管する独立行政法人だ。

このような腐敗した組織に「利権」を与えることが、国民のためになるのだろうか。

我が国の医学部定員が少ないことは、国際統計を調べればすぐにわかる。情けないのは、「医師は余る」という厚労省の「大本営発表」を誰も批判しないことだ。

財務省は4月16日に財政制度等審議会財政制度分科会に提出した資料の中で、医学部定員について、「大幅な削減が必要になる」と主張した。そして、多くのマスコミが、このような主張をそのまま報じた。こうなると道化としかいいようがない。

医学部の定員を増やしても、我が国の医師が余ることはない。万が一、余っても困るのは医師だ。腕の悪い医師が失業するだけである。国民視点に立ったもう少しまともな議論が必要である。

(医療ガバナンス研究所理事長・上昌広=内科医)

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