エリート駐在員が帰国後、高齢母に感じた異変「お義母さんもしかして…」妻が指摘した「まさかの事実」

国本貴志さん(仮名)は米国の大学、大学院を出ていて、海外経験や語学力を生かしメーカーの海外事業部で製品の販路や取引先の開拓を担ってきました。入社後20年の会社員生活のうち15年弱は海外駐在です。

2016年からは南米での拠点作りに携わっていましたが、コロナ禍で帰国時期が大幅に延び、2023年夏にようやく日本に戻りました。

駐在中気になっていたのは、武蔵野市の実家にひとりで暮らす高齢のお母様のこと。帰国後会いにいくと、以前とは打って変わって老け込んだ様子に心配が膨らみました。実は、お母様はご主人の死による年金収入の激減に喘いでいたのです。

そんなお母様に適切な助言をし、本来の快活さを取り戻すサポートをしてくれたのが、国本さんの奥様が紹介したあるお金の専門家でした。国本さんに帰国後の出来事を振り返ってもらいました。

〈国本貴志さんプロフィール〉

東京都在住

46歳
男性
メーカー海外事業部勤務
専業主婦の妻と2人家族
金融資産1200万円

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海外駐在時代にコロナ禍が発生し、帰国が先延ばしされた私がようやく東京の本社に戻れたのは昨年夏のことでした。帰国後すぐに向かったのが、武蔵野市内の実家です。コロナ禍で父が亡くなり高齢の母が残されましたが、葬儀の時に実家にいられたのは1週間ほどで、役所で差し迫った手続きをするだけで精一杯でした。

父の相続については税理士と主にメールでやり取りして相続税の申告まで済ませましたが、大学時代に弟を事故で亡くして親しい身内もいないことから、母の様子がよく分からないのが不安でした。

帰国後に会った母の様子

母は専業主婦でしたが社交的な性格で友人も多く、父の面倒を見ながら自分は自分で生活をエンジョイしているように見えました。しかし、帰国後に会った母はまるで別人でした。かなり痩せたせいか顔色も悪く、髪には白いものが目立ち、葬儀の頃より10歳近く老け込んだ印象を受けました。

夕食時になり「お前も食べていく?」と食事の支度をしてくれたのですが、野菜の煮付けに粕汁という文字通り一汁一菜の質素なもので、それにも驚きました。以前の母は、私が家に帰る度、食べきれないほどの料理をテーブルの上に並べてくれたものだったからです。

明らかに様子がおかしいと感じ、「体の具合が良くないの?」と聞いてみましたが、「そんなことはない。行きつけの病院の先生からも『あなたの年齢で持病もないのは珍しい』と言われるし」と言葉を濁します。

気になったので数日後、母が仲良くしていた隣の山中さんの奥さんに電話をして、それとなく母の暮らしぶりを尋ねてみました。

「お父さんが亡くなるまでは一緒に観劇や買い物に出かけていたけれど、コロナ以降はとんとご無沙汰。それに、加奈さんはお花やお習字の教室もすっぱり止めてしまったから、最近は顔を合わせる機会があまりないの。先週、スーパーで会って立ち話をしたくらいかな」

そんな話を聞かされると、ますます心配になります。

妻からの想定外の指摘と提案

「お義母さん、ひょっとしてお金に困っていたりしないよね?」妻の夕季から想定外の指摘を受けたのは、そんな時でした。

さすがにそれはないだろうと思いました。父は地元の工場の総務部で定年まで勤め上げ、生前は夫婦で月額20万円以上の年金を受給していました。自宅は持ち家で家賃もかかりませんから、「高齢者二人なら十分暮らしていける」と聞かされていました。

しかし、帰国後ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得を目指して学校に通い出した妻は、「やっぱり気になる。講師のFPの砂沢さんが『ご主人に先立たれた奥さんが経済的に困窮するケースが増えているから気を付けて』という話をしていたし」と納得できないようです。

挙げ句の果てには、「貴志には言いづらいかもしれないから、砂沢さんにヒアリングをしてもらったらいいんじゃない?」と言い出しました。「私たちがお金の相談をして、その一環としてお義母さんにも話を聞く必要が出てきたって頼んでみればいいんだよ」

なるほど、それはいい考えかもしれないと思いました。人見知りしない性格の妻は砂沢さんと世間話をする仲だったらしく、妻がお願いすると砂沢さんは二つ返事で母へのヒアリングを引き受けてくれました。

そして、その翌週には忙しいスケジュールの合間を縫って武蔵野市内の私の実家まで足を運んでくれたのです。その結果、驚きの事実が明らかになりました。

●FPの砂沢さんが母のヒアリングを終えた日の夜、国本さんのもとにメールではなく1本の電話が……。息子である国本さんには話せなかった母の“本当の現状”とは? 後編【「食費を抑え、エアコンもつけない」高齢女性が“年金制度の落とし穴”にハマり直面した苦境】で詳説します。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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