地上から観測困難な“光”を捉える宇宙望遠鏡は実現可能? 10万機以上の小型衛星を活用する斬新な計画

宇宙空間内の放射源天体から届けられる光(電磁波)のなかで、地上の天文台では観測が困難な周波数帯の“光”が存在するのをご存じでしょうか。

周波数が15MHz以下の低周波電波(※1)は約50〜1000km上空の「電離層(電離圏)」によって遮られることがあるため、地上の天文台では受信することが困難です。この低周波電波を観測するための宇宙望遠鏡の「集合体」を配備する構想「GO-LoW(Great Observatory for Long Wavelengths)」が、マサチューセッツ工科大学(MIT)ヘイスタック観測所のMary Knappさんが率いる研究グループによって提案されています。

※1…天文学で低周波電波(Low Frequency Radio)という用語が使われるが、周波数の範囲は明確に定められていない

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■低周波電波観測の歴史と課題

低周波電波を観測できる天文台はオランダの「LOFAR(Low Freqency Array)」、米国ニューメキシコ州の「LWA(Long Wavelength Array)」、オーストラリアの「MWA(Murchison Widefield Array)」などが存在するものの、低周波電波を観測できる人工衛星はこれまでにアメリカ航空宇宙局(NASA)が運用した「エクスプローラー」38号(RAE-AあるいはRAE-1)と同49号(RAE-BあるいはRAE-2)しかないようです。

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また、近年運用されている宇宙望遠鏡は「コンプトン」ガンマ線観測衛星、「SWIFT」観測衛星(ガンマ線用)、「チャンドラ」観測衛星(X線用)、「ハッブル」宇宙望遠鏡(紫外線、可視光、近赤外線用)、「スピッツァー」および「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡(赤外線用)と、観測対象が低周波電波である人工衛星はありません。

研究グループによると、低周波電波の観測に対応する宇宙望遠鏡の実現にはいくつかの課題があるといいます。伝統的な宇宙望遠鏡は単一の人工衛星で構成されているため、ある箇所で故障が生じるとシステム全体が機能不全に陥る「単一障害点」という課題を抱えているようです。また、電波を捉えるアンテナの口径は対応する波長が長いほど大きくなるため、周波数が300kHz〜15MHz程度の低周波電波用の口径は中分解能の場合でも数百m〜数kmになってしまうといいます。

研究グループが提案するGO-LoWは、太陽と地球のラグランジュ点「L4」あるいは「L5」の近くに小型衛星を多数配備することで、仮想的な望遠鏡を実現する構想です。この“仮想”望遠鏡は、低周波電波用受信アンテナを搭載した3U(※2)サイズの「LN(Listener Node)」と、1機あたり100~1000機のLNを統括して地球との通信を可能にする、大きさにして1立方m未満の「CCN(Computation & Communication Nodes)」という2種類の小型衛星から構成される模様です。個々の衛星は安価であるため、故障した場合に交換しても費用を抑えることができるのだといいます。

※2…3UはCubeSat(キューブサット)の規格で約10×10×30cmに相当する。

【▲ GO-LoWのミッションの概要を示した図。低周波電波観測用の“仮想”望遠鏡はLN(Listener Node)とCCN(Computation & Communication Nodes)という2種類の小型衛星から構成される。(Credit: Knapp, N. et al.)】

■低周波電波を観測する意義

低周波電波は、太陽系外惑星の磁場や恒星周辺の宇宙天気など、惑星の進化やハビタブル条件に関する重要な情報を含むといいます。太陽系外惑星のなかには我々の住む地球のように磁場のある惑星も存在すると考えられており、こうした惑星の磁場は大気散逸や惑星移動、生命の源となりうる化学物質の破壊など、惑星に関するさまざまなプロセスに影響を与えているといいます。太陽系外惑星の磁場を特徴づけるのがオーロラに起因するわずかな低周波電波であるため、こうした電波を捉えることがGO-LoWの大きな目的のひとつであるようです。

研究グループの見積もりによると、太陽系外惑星から放射されるわずかな低周波電波をとらえるためには、小型衛星を10万機以上打ち上げる必要があります。

【▲ 小型衛星の数(ノード数)と観測対象との対応(Credit: Knapp, N. et al.)】

GO-LoWの実現は、長年運用されてこなかった低周波電波用宇宙望遠鏡の復活を意味するだけではありません。10万機以上というばく大な数の衛星コンステレーションの実現や、単一望遠鏡に対する優位性を示すという科学的インパクトをもたらすといいます。

研究グループによると、GO-LoWの実現は10〜20年後になるだろうということです。

Source

  • NASA – The Great Observatory for Long Wavelengths (GO-LoW)
  • Knapp, N. et al. – Great Observatory for Long Wavelengths (GO-LoW) NIAC Phase I Final Report
  • Lazio, J. et al. – Magnetic Fields of Extrasolar Planets: Planetary Interiors and Habitability
  • Zarka, P. – Plasma interactions of exoplanets with their parent stars and associated radio emissions
  • Jester, S. et al. – Science with a lunar low-frequency array: from the dark ages of the Universe to nearby exoplanets
  • Bartosz P. Dąbrowski, B. P. et al. – Prospects for Solar and Space Weather Research with Polish Part of the LOFAR Telescope

文/Misato Kadono 編集/sorae編集部

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