化粧品業界こぼれ話「大谷効果、地元岩手が湧く理由」

米国ドジャースの大谷翔平選手の経済効果(大谷効果)は、相変わらず注目の的だ。関西大学の宮本勝浩名誉教授は、ドジャース移籍による2024年の大谷効果を約865億円と試算(24年5月21日発表)。昨年12月に発表した同じ試算よりも約332億円も増えているのに、もっと数字が高まると世論が期待するのは、大谷選手の打棒が好調であるとともに、思わぬ余波で売れる商品が生まれているから。その一例は、24年5月、“鉄瓶”のニュースで大谷選手の地元・岩手が湧いたこと。しかし、これが化粧品業界発の話題であることは、あまり知られていない。

化粧品業界の大谷効果と言えば、コーセーの広告起用である。同社は成長の要として3G戦略を推進中。「お客さまづくり」のキーワードとして、「グローバル(Global)」「ジェンダー(Gender)」「ジェネレーション(Generation)」の三つを掲げ、性別や年齢に捉われず、より幅広い人々をお客と捉え、化粧需要の創出に取り組んでいる。その一環として、化粧品のマーケティング戦略では定石の女性タレントやモデルではなく、大谷選手に白羽の矢を立てた。これまでもフィギュアスケートの羽生結弦選手などを起用し、国内外の化粧品市場や消費者にインパクトを与えてきたが、こと経済効果で言えば大谷選手は想定以上だった。

コーセーの最高級ブランド「コスメデコルテ」は、23年に大谷選手を起用した大々的なプロモーションを展開。スターアイテムの美容液「リポソーム アドバンスト リペアセラム」は爆発的なヒットを記録した。とりわけ興味深いのは、化粧品のターゲットと言えば女性だが、大谷効果も手伝って、男性客が急増したことだ。

例えば、地方の化粧品専門店の店頭にシニア男性が訪れ、「大谷くんを応援したいから」と話題の美容液を購入したという。また、大谷選手の等身大パネルを店頭に置くと、一緒に写真が撮りたい、と家族連れの来店も増えた。お母さんへの商品訴求はもちろんだが、「多重層バイオリポソームが1滴に1兆個」というコーセー独自のリポソーム技術にお父さんも興味津々。そのうえ、野球少年の息子さんは大谷翔平と写真が撮れて満足気。化粧は女性のもの、という先入観を払拭するのに一役買っている。

このようなコスメデコルテ×大谷選手の逸話は枚挙に暇がない。24年12月期第1四半期決算(1~3月)のコスメデコルテは、日本において前年同期比15.4%の増収と絶好調で、明らかに顧客基盤が強くなっている。そして近い将来、野球少年が化粧ユーザーになれば、コーセーの3G戦略は狙い通りの成果を生んだといえるだろう。

じつは、鉄瓶と夫婦湯飲みをプレゼントしたのは化粧品業界の関係者だった。コーセーは5月23日、全国の有力化粧品専門店の経営者を集めて戦略などを語り合う「絆の会」を開いた。挨拶に立った同社の小林一俊社長は、大谷選手との思い出話を織り交ぜながら、ブランド戦略を語ったという。絆の会に出席した化粧品専門店の経営者は次のようにいう。

化粧品×大谷選手の経済効果は、まだまだ広がりそうだ。

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