『虎に翼』別れ際までユーモアを忘れない仲野太賀 森優太×ベルセバの劇中歌が涙を誘う

『虎に翼』(NHK総合)第40話では、優三(仲野太賀)のもとにも赤紙が届く。前週で寅子(伊藤沙莉)と結婚し、今週に寅子との間に娘の優未が誕生した矢先の出来事だ。

2021年度後期放送の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』辺りから、『あさイチ』(NHK総合)の“朝ドラ受け”において鈴木奈穂子アナウンサーの涙は、朝ドラの“感動値”を計る指標にもなっているが、第40話放送後には「プレミアムトーク」ゲストの草彅剛を横にしてもなお号泣(というか、ゲストが草彅剛でよかった)。筆者を含め、鈴木アナのように涙した視聴者が多くいたのは当然の素晴らしい回であった。

この感動はどこから込み上げてくるのだろうか。それは戦地に赴くという、死が間近に迫った状況でも、優三は変わらずに寅子へと優しく、そしてユーモラスに接していたことだ。土下座をしてこれまで抱いていた後悔を謝罪する寅子に、優三が「はて?」と寅子の口癖を真似てみたり、別れ際には変顔で笑わせあったり。これが夫婦として最後の時間になるかもしれないと分かっているからこそ、笑顔でいっぱいの幸せな時間にしたいという思いが溢れてくる。幸せな思い出を両手いっぱいに抱きしめて戦地に送り届けてあげることが、寅子が優三にしてあげられるせめてもの餞なのだから。

水面が煌めく河原をバックに、優三は寅子の手を握りしめながら、「トラちゃんができるのは、好きに生きることです」「トラちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること、それが僕の望みです」と言葉を送った。弁護士事務所に辞表を提出した時、優三は寅子に何も聞かなかった。「もう私しかいないんだ」という思いのもと、初の女性弁護士として地獄の道を孤独に突き進んできた寅子を理解し、「頑張らなくてもいい」と声をかけられるのは優三しかいないだろう。

優未をはる(石田ゆり子)に預け、去っていった優三を追いかける寅子。変顔のお返しに、2人は最後の笑顔を交わしながら、頬には涙が伝っている。戦地へと向かう優三の背中が寂しさを醸し出しているが、この第40話で感動のムードをより増幅させているのが、森優太による音楽である。

優三が出征していくラストにかかっている劇中歌は、メインテーマ「You are so amazing」に“ベルセバ”ことBelle and Sebastianのボーカル、スチュアート・マードックが歌唱を担当した新たなバージョン。『虎に翼』の劇伴としては、「はて?」や「スンッ」など様々な楽器を使ったユニークなサウンドが印象的だが、今回のメインテーマのような優美な音色がシーンの世界観をさらに惹き立ててもいる。『NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 虎に翼 Part1』(NHK出版)で森は「You are so amazing」について、「生きづらさを抱えているすべての人たちに寄り添う音楽を目指しました。だから、メインテーマだけれど、朝ドラらしいキラキラした感じで始まる曲ではありません。切ない雰囲気で始まって、少しずつ希望の光がさすような曲になっています」と答えている。

ちなみに、6月21日公開になる映画『朽ちないサクラ』の劇伴も森が担当。筆者は試写ですでに観ているが、アンビエント/エレクトロニカといったジャンルのサウンドが深淵な物語の世界観を表現しており、今回の「You are so amazing」にも通ずる部分を感じさせる。

5月25日の『土スタ』(NHK総合)は明治大学から伊藤沙莉と仲野太賀をゲストに迎えて放送ということで必見の内容となりそうだが、その先の第9週で描かれるのは東京大空襲。モンペ姿の寅子が、河原で「日本国憲法第14条」の公布が掲載された新聞を読み、肩を震わせ涙を溢す、第1話へと繋がっていく。
(文=リアルサウンド編集部)

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